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【読書感想】私は本屋が好きでした──あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏

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 保守派の若手論客、古谷経衡さんへのインタビューでは、こんな話も出てきます。

古谷経衡:ネット右翼というのは本を読まないので。タイトルしか読みませんから。

──古谷さんのいう「ヘッドライン右翼」ですね。

古谷:そう。ヘッドラインしか読まない。アマゾンとかのヘッドラインしか読みませんから。本を買ったとしても読まないので。

──嫌韓反中本を買うのは圧倒的に高齢者が多いようですが。

古谷:そうです。70歳前後が中心ですから。ネット右翼はもう少し若くて40代。彼らは動画に依拠しています。でも(ヘイト本のつくり手は)そういう構造を知らないので、40代が買っていると思っているんですよね。最近はだいぶわかってきましたけど。当時はネット右翼が買っていると誤解していた。寄稿している人が「韓国はけしからんという記事をオークラのムックに書きました」とツイートしたら、リツイートが100件以上も来るわけですよね。編集者は喜びますが、実際はそのうちの何人が買っているのか。買っているのは(リツイートする世代より)もっと上の世代なのに。

 関係者の話を読むと、「ヘイト本」の読者は高齢者が多くて、若い人たちはネットで活動しているけれども、若いといっても40代。さらに、「ヘッドラインしか読まない『ヘッドライン右翼』」!
 ただ、この「タイトルだけみて反応し、中身は読まない」というのは、ネットでは、右翼に限らず、よくある話だと思います。

 原文にあたらず、誰かの感想や反応をみただけで、的外れな怒りをぶちまけてる人は、少なからずいるのです。

 総じていえば、出版関係者の話を読むと、著者や僕のようにな書店に思い入れがある人間が危惧しているほど、いまの書店の影響力は大きくない、という気はしました。少なくとも、若者が書店に並んでるヘイト本の影響で、どんどん「右傾化」している、というわけではなさそうです。

 古谷さんは、日韓共催の2002年のサッカー男子ワールドカップと、小林よしのりさんの『戦争論』の影響が大きかったのではないか、と仰っていますが、1970年代はじめの生まれの僕には、共感できる見解です。

 とはいうものの、書店の現場の実情を知ると、個々の本の中身について書店と書店員が責任をもつのは無理だな、と思わなくもないのである。扱っているすべての書籍・雑誌について責任をもつのが理想ではあるけれども、現実はそうなっていない。

この20年、どの書店も慢性的な人手不足である経営を続けるためにあちこちの経費を削って、人件費もとことん削って、なんとかしのいでいるのがいまの書店の実情だからだ。従業員を増やそうにもお金がない。

 たとえばチェーン店の場合は、ひとりの店長が「エリアマネージャー」とかなんとかいう肩書きで、四店舗も五店舗も管理していることがある。それぞれの店舗では全員がアルバイト学生とパートタイマーだったりもする。そうした店ではレジのキャッシャーと入荷した書籍・雑誌を開梱して店頭に出して並べる仕事とで従業員は手いっぱいになっていて、とても入荷した本一点一点の中身までは吟味できないというのもわかる。

 だが、それがヘイト本かどうかはタイトルでわかる。タイトルだけでわかるようにつくられているのがヘイト本だから。書店でひと月も働いていると、サブタイトルや帯のコピーを見れば、内容も想像がつくようになる。せめてそういう本の扱いだけでも変えることはできないのか。忙しいことは言い訳にならない。

 本当に「忙しいことは言い訳にならない」のか。
 結局のところ、「ヘイト本」をつくりたい、売りたい、という人は、そんなに多くはないのです。

 でも、いまの「本」に関する厳しい経済事情が、少しでもお金になりそうなものに飛びつかなくてはならない、あるいは、排除できない状況を生んでいる。

 本当は、もう少し良い本が売れる環境、本に関する仕事がお金になる状況であれば、ヘイト本は「自主規制」されていたかもしれません。
 それならもう、本屋なんか、なくなってしまってもいい、のか?

 著者は、この本のなかで、「マイノリティにあたる人々が、自分の出自を責めるヘイト本が書店に並んでいるのを目の当たりにしたときの気持ちを想像してみてほしい」と訴えています。
 こちら側からみれば、「あんなのネタみたいなもので、みんなまともに読んじゃいないよ」と思うような内容でも、名指しで非難され、敵視されている側としては、平静でいられるわけがない。「イジメじゃなくて、イジリですよ」っていうのは、いじめる側にとって都合のいい理屈でしかありません。

 書き手、編集者、出版社、書店、読者と、本の流通にそって、さまざまな人に取材して書かれているのですが、特定の誰かが悪い、というわけではなくて、それぞれの事なかれ主義や「稼がないと飢え死にしてしまう」という危機意識や「みんなやっていることだから」という言い訳が、ヘイト本を生み出し続けているのです。


書店と民主主義: 言論のアリーナのために
作者:福嶋 聡
出版社/メーカー: 人文書院
発売日: 2016/06/13
メディア: 単行本


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