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「グレタ支持」な大人たちが持つべき視点 ー 気候変動・環境問題の責任のありかとペナルティについて

環境保護を力強く訴える少女グレタ・トゥーンベリ(16)が、2019年タイム誌の「今年の人」に選ばれ、表紙を飾った。しかし、トランプ大統領をはじめ「グレタ嫌い」を表明する大人たちはSNSなどで批判的・挑発的な発言を繰り広げ、“大人げない” と非難されている。

では「グレタ支持」な大人たちはどうだろうか? 彼女の活躍ぶりに感心しているだけになっていないだろうか? ひとりの少女にあまりに大きな重荷がのしかかっている今、そろそろ彼女を少し解放するべきではないだろうか、『The Conversation 』の記事は問いかける。

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大きなステージ上にちょこんと座った少女。感情を抑えようと顔を歪め、今にも泣き出しそうな面持ちで、聴衆に向かってなんとか言葉を吐き出す。

「すべて間違っています。私はここにいるべきではありません。本当なら海の向こうで学校に通っているはずなのに」

2019年9月23日、ニューヨークで行われた国連気候行動サミットにて、若干16歳の、1年前に環境活動に取り組み始めたばかりのグレタが世界的指導者たちを前にこう語った。彼女に釘付けになったのはステージ上の大人たち、聴衆、国連ビルの外でプラカードを持った若者たちだけではない。この様子がソーシャルメディア上で拡散されるやいなや、大勢の人がその様子を見守り、魅了、感心、触発、好奇心...さまざまな感情を掻き立てられた。

Gary Cassel from Pixabay

だがそんなグレタの行動も、行き過ぎるとただの“ショー”になってしまいかねない。 自分たち若い世代に美しい地球を残すはずの指導者たちが約束を守らない、そのせいで自分の子ども時代は失われたと彼女は訴える。そんな少女が “生贄(いけにえ)” にされているような状況を受け入れてはならない。

政治は子どもたちの悲痛な叫びに頼るべきではない

世界中の人々を思い「生贄」となっている彼女。にもかかわらず、その「捧げ物」は簡単には受け入れられず、彼女一人が苦しみを味わっている。政治に希望が持てない昨今にあって、大人たちはその状態を良しとしてしまっているように思えるのだ。

何百万もの人々を突き動かしてきたグレタにも、そろそろ休息が必要だ。国民とその代弁者である議員、消費者と生産者、市民社会団体とそのメンバー、そして子どもと大人、それぞれの間にきちんと線引きをし、「適切な責任のあり方」を見直すべき時なのではないだろうか。

国が税金を上げるべきか財政赤字に陥るのか、国外で戦争を仕掛けるのか国内でインフラ整備をすすめるのか、賃金を凍結させるのか職業訓練プログラムを立ち上げるのか、きれいな水のために法整備を進めるのか産業排水汚染の規制緩和を選ぶのか...どんな場合であっても、政府を動かすのに子どもたちの悲痛な主張に頼るべきではないのだ。

我々には「説明責任の仕組み*」というものがあるはずだ。まずは共通の目標について合意する。その上で、誰が・誰に・何についての責任を負うのかをきちんと定め、その手順や基準、処罰を設ける。

*筆者は論文「Accountability in Global Environmental Governance: A Meaningful Tool for Action?」by Teresa Kramarz and Susan Park (May 11, 2016)でも説明責任の構築を主張している。

分別のある大人たちは、普段から情報を得ようと 文字を読み、選挙戦では候補者に厳しい質問を投げかけ、組織に属し、隣人たちと顔を合わせれば諸問題を話題にする。自分たちの「要求」が明確になったらプラカードを作ったりもする。リーダーや民間企業がきちんと約束を守るか働きかけ、時にはよからぬ行為を明らかにしたり、社会に存在する意義を問い直したりもする。

Image by Niek Verlaan from Pixabay

社会を動かすための行動は投票用紙への記入だけではない。消費者として “責任を持って” 製造されたモノを積極的に買い、社会や環境に害を与えるものを選ばないようにするなどの「社会的アクション」も行っている。必要あらば法的手段を取ることもあるだろう。職場や地域レベルではこんな風に、「合意した目標」を守る努力をしているではないか。

生き残るために、集団行動のルールを定めてきた歴史

我々の社会において最も価値のある成果、それは、妥協することなく“何を目指すか” を取り決め、実行してきたこと。それによって、安心できる平和な暮らしを手に入れたことにある。だがそうした闘いの前には、決して語られることのない人々の苦しみや環境の犠牲があったのだ。

官や民、または有志の取り組みが入り混じるこの多様な社会においては、それぞれの責任を定めたメカニズムがある一方、個人または特定の人たちだけが利益をむさぼり、公共の利益を損ねる者たちへの制裁方法も設けている。

我々の存在を揺るがしかねない地球規模の危機が迫る今、こうした日常的な 「説明責任の仕組み」 がカバーする範囲をもっと広げていくべきである。

グレタが言うところの「いつまでも続く経済発展という夢物語」よりも “人生の豊かさ”を最優先すること、そして必要に応じて“説明責任の基準” を定めるべきだということが分別ある大人の総意であると、グレタのおかげで確認しあえたのだから。

環境問題に対峙し「説明責任」を果たす企業、団体、教育機関たち

トロント市長を含め、多くの自治体の長たちが「気候非常事態宣言」を出しており、その数は世界中で800に上る。「気候ストライキ*」を支持する企業は、店を閉める・業務の一時停止・自社ウェブサイトの表示を暗くする “デジタル版ストライキ”などで応じた。

*気候変動対策を求めるデモに参加するため学校や仕事を休む抗議行動を指し、『コリンズ辞典』の今年の単語にも選ばれた。

アマゾン社のような大企業も、温室効果ガス排出量の大幅削減を当初の目標より前倒し*で実施することを約束している。年金基金や保険会社も、2050年までに資産ボートフォリオの「カーボン・ニュートラル」化を目指すとしている。また、カリフォルニア大学をはじめとする学術機関も、運用している大学基金や年金(数十億ドル)から化石燃料の投資を引き揚げることを発表した。

*2015年のパリ協定での決定より10年前倒しの2040年までに温室効果ガス排出を正味ゼロにすることをベゾスCEOが発表。

Image by Foto-Rabe from Pixabay

大手メディア*は気候関連の報道を行う際に、「気候変動(climate change)」よりも問題の緊急性のニュアンスが強い「気候の非常事態(climate emergency)/気候危機(climate crisis)/気候崩壊(climate breakdown)」といった用語を推奨していくとしている。

*米国の非営利団体「パブリック・シチズン」が働きかけ、英紙ガーディアンがいち早く対応している。

大学教授の中には、通常の授業を取りやめ、この重要な社会問題について議論する集会や誰もが参加できるフォーラムを開催する者も現れている。かつて、学生たちによるベトナム反戦運動がこうした議論の場から発展したことを思い起こさせる。

そして今、この戦いの中心には子どもたちがいて、裁判所や国際会議に意見の申し立てをしている。つい最近も、グレタを含む16名の子どもたちが、「国連子どもの権利委員会」に対して、気候変動による危機的状況にさらされることで自分たち子どもの権利が侵害されていると訴えを起こした。

責任のありかを明確にし、結果を出せないなら制裁を

今いちど「責任のありか」を明らかにすべきだ。そのためには法令遵守(コンプライアンス)を徹底させ、結果を出せない場合には制裁措置を課す必要があろう。ただし、そうした「基準づくり」は、一人の市民、消費者、市民社会の構成員である我々が等しく関わっていかなければ成し得ないことである。

平和や平等、人間の安全保障を脅かす政治的脅威には制裁を課す。それと同じように、温暖化ガス排出基準を守れず、炭素予算*を圧迫する者には、すでにある「説明責任を求める仕組み」によって制裁を加えていくべきなのだ。

* 温室効果ガスの累積排出量の上限値。カーボンバジェット。

大人たちは今あらためて「社会の総意」を明確にし、実行していかなければならない。グローバルな場でも自分を鼓舞し、果敢に挑戦している子どもたちを見て驚嘆している場合ではないのだ。

By Teresa Kramarz(トロント大学 ムンクスクール・オブ・グローバルアフェアーズ准教授)
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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