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高校生の時に始めた「社会風刺」を7年間 封印した訳。

 お嬢様ネタから社会風刺ネタに切り替えて1年が経つ。私はお笑いを通して社会問題を発信したいと中学生の時から思っていたが、25歳まで始められなかった。8年前、高校3年生の時に出した作文コンクールに社会風刺の奮闘劇が書かれていた。

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『社会派漫才師の挑戦』

 耳の先まで真っ赤になり、明らかに怒っている男性が猛スピードで走って来た。私の目の前で、その男性はピタッと静止したが、肩の震えと息遣いの荒さだけは止まらない。「ふざけるな!」彼は、劇場内に響き渡る大きな声で怒鳴った。その男性は、私の漫才を見たお客さんだった。私は恐れおののき、心の奥底から絞り出した精一杯の声で「すみません」と言い、逃げるようにその場を去った。悔しい、悔しい。どうすることもできず、トイレで涙を流した。

 高校3年生の私は、漫才師を目指し、新宿の小さなライブハウスで舞台に立っている。将来の夢は、社会問題を提起する漫才師。人と社会を繋ぐ、架け橋となりたい。その想いを実現させるため、福島原発の事故を題材に、ネタをした。にも関わらず、不謹慎だとお客さんの一人に怒鳴られた。そのお客さんだけではなく、私たちがネタを始めると、劇場内が静まり返ってしまったのである。私は、私の想いを拒絶された気がした。事故に恐れおののくのではなく、笑いという身近な手段により、正面から問題と向き合うためのきっかけにしてほしかった。笑いの力が信じられなくなってしまった。それ以来、舞台に立つときは、社会風刺は一切やらなくなった。

 自分のやりたい社会風刺をしたいが、怖くてできず、心の中がモヤモヤしていた。私は勇気を出して、思い切って大会で社会風刺をした。すると、入賞を果たすことができた。自分のスタイルを初めて認めてもらえて、嬉しかった。やはり、笑いは距離を置きがちである社会問題を身近に感じさせ、当事者意識を持たせる力がある。

 笑いにメッセージを入れることは、不可能であるとよく言われる。本当に、そうなのか。笑いの力に限界はあるのか。私の戦いは、始まったばかりである。私は笑いによって、人と社会を繋いでいく。

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『8年前の自分へ』

 こんな決意表明を作文コンクールで出したのに、社会風刺を始めるのに7年もかかってしまった。オーディションでいく先々「女の子らしいネタをしろ」「学生らしいネタをしろ」と散々アドバイスをもらい、悩む。「売れたら好きなことができる」「コンプレックスを曝け出せ」「半径50cm以内の身近なことをネタにしろ」そう先輩芸人に言われた私は、「お嬢様言葉」という麻薬に手を出してしまった。アマチュアで R1準決勝進出、芸歴1年目でエンタに神様に出て、日テレのお笑いの大会で優勝した。これで政治のことができると歓喜した。

 そこからが地獄だ。お嬢様キャラしか求められない日々。お笑いは好きだ。お嬢様ネタは好きだ。人に笑っていただく仕事は最高だ。しかし、どこに言っても「一番高かった買い物は何ですか?」の質問の嵐。これ、私のやりたいことだったのかな。収録中、きらびやかな舞台セットやカメラとは裏腹に、寂しくなり、心にぽっかり穴ができる。

 このままでは、お笑いを通して社会問題を発信できない。夢である「お笑い界の池上彰」になれないと徐々に感じ、大きな決断を下した。大手事務所を辞め、社会問題を多面的に見るため、大学で政治学や教育学を勉強し、大学院にも進学した。そして18歳選挙を機に会社を設立し、全国の学校へ政治を楽しく伝える出張授業に出かけた。

 そして、今年、社会風刺ネタをやることを決意。単独ライブでお嬢様ネタを封印した。高校生の時に、すべった記憶を身体が覚えていて、ただひたすら怖かった。しかし、結果は大盛況。チケットも完売し、ネタを見てくださったオリエンタルラジオの中田敦彦さんは「新ジャンルで、面白かった。インテリジェンスな笑い。感情的で力のある者に立ち向かう村本大輔さんのネタともまた違う。事実を積み重ねて作った笑いですごい」と評価してくださった。嬉しかった。そしてYouTubeにご出演させていただき、吉本の闇営業の問題、反社会的勢力の問題などを切り込むことができた。ライブを契機に、いいスタートラインを切れた。

 ナイツの塙さんがラジオで「たかまつななちゃんの単独ライブ面白かった。森友学園を小説にする風のネタとか良かった」と話してくださり、清水ミチコさんも「そんな女芸人いるの?」と言ってくださっていて嬉しかった。塙さんはテレビで政治を語れると思うと激励してくださり、そして漫才協会に入れてくださった。そこから、浅草の寄席で月に数回、社会風刺やスタンダップコメディに挑戦する機会を得た。

 諦めないで良かった。ずっと、もがき続けて苦しんで良かった。今も苦しい。社会風刺をできる環境は日本にはまだ土壌がなく、自分で作り出すしかないからだ。でも、でも、来年のライブには、あの憧れの池上彰さんがライブのゲストに来てくれる。立川志の輔さん、田村淳さん、せやろがいおじさん、ふかわりょうさんが来てくださる。

立川志の輔さんには、落語から学ぶ伝える力と題し、笑いで分かりやすく伝える方法、ネタの公開アドバイスをいただく。田村淳さんには、芸能人が政治と距離を置く空気をどうすれば変えられるかアドバイスをいただく。ふかわりょうさんは、大学の先輩であり、どうキャラ芸人を脱するかというアドバイスを昔していただいたことがある。現在、ニュース番組の司会をされている ふかわさんに公開プロデュースをしていただく。豪華すぎるライブ。ここから次のスタートラインにたてるはずだ。この1年で輪が広がったように。きっと。大きな後ろ盾もない。日々孤独だ。だけど、応援してくれる人がこんなにいる。あの時、辞めないで続けてくれて、ありがとう。

 このライブのチラシを高校生の私に見せてあげたい。きっと感激して泣くだろう。私も今、信じられず、必死に毎晩ネタを書いている。何も言えないこの空気。表現の自由が脅かされつつある社会に疑問符を投げかけるネタを書いている。今年は、社会風刺でさらに切り込みに行く。

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