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食品ロスを減らすには「量」を売ってはいけない

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■食品ロスが発生する経済的メカニズム

近年、食べられずに捨てられてしまう食品、いわゆる「食品ロス」への関心が高まっています。日本でも2019年10月1日から、「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行されました。メディアでは、栄養不足で苦しむ人々がこの地球上に10億人もいる中で、まだ食べられる食品を廃棄するなんてとんでもないといった道義的観点からの議論が中心で、一般の方々の関心もそこに集中しているように思われます。

とはいえ、実際に食品ロスが発生するメカニズムは、単に食品流通にかかわる人々の道義的怠慢で片付けられないほど、複雑かつ錯綜しています。その仕組みを丁寧に調査・分析してみると、食品のサプライチェーンを構成する食品メーカー、卸売業者、小売業者や外食産業のそれぞれが、消費者の要望に応えつつ相応の経営努力を行うプロセスの中で、恒常的に食品の廃棄が起きてしまう状況が見えてくるのです。

サプライチェーンの中で食品ロスが発生する根本的な原因は、各プレーヤーが「リスクを回避する行動」をとることです。そのリスクは、大きく分けて3つあります。1つ目は、店頭に商品が並ばない欠品により販売機会を失う「在庫リスク」。2つ目は、見切り販売を繰り返すことで値下げが常態化する「価格リスク」。そして、いわゆる「賞味期限」や「消費期限」にかかわる「鮮度リスク」です。


■メーカーに対して「欠品ペナルティ」も

まず、「在庫リスク」について見てみましょう。現代の小売の主力は、スーパーやコンビニに見られるセルフ販売が主流です。そして、昔の個人商店のような対面販売との大きな違いは、セルフ販売における品揃えの重要性です。

売れ残った食品の一部はリサイクル化されているが……。(時事通信フォト=写真)

対面販売ならお店の人に品揃えが少ない理由を聞いて納得することもあるでしょうが、自分で選ぶセルフ販売では品揃えにバリエーションがあるかどうか、そのとき欲しい品がピンポイントで商品棚にあるかどうかが、お客からの店の評価にダイレクトにつながります。欲しい商品がない、品揃えにバリエーションがない、商品の補充が一時的にせよ追いつかずに棚がスカスカしている――。

これらは店舗にとって販売機会の喪失であると同時に、自店のお客が他店に逃げてしまうことにもつながります。小売店にとって欠品とはこのように恐ろしいもので、卸売業者やメーカーには欠品を起こさないよう強く求めることになりますし、もし起きた場合は「欠品ペナルティ」と称して罰金を支払わせるようなケースさえあります。

次に「価格リスク」です。先述のように小売店は欠品を嫌いますが、仕入れすぎた商品が余るのも困ります。処分価格で安売りする手段を選ぶと、利益率は下がりますし、適正価格で自社商品を売りたいメーカーにとってもうれしくありません。そこで、小売店には多めに仕入れてもらい、そのかわり返品を認めるという慣行ができており、これは当然、サプライチェーン全体の過剰在庫の増加を招きます。マサチューセッツ工科大学(MIT)で1960年代に考案された生産流通システムのシミュレーション、通称「ビールゲーム」では、一般にサプライチェーンの上流に行くほど過剰在庫が溜まる傾向にあることが確認できます。

そして3番目の「鮮度リスク」。日本では一般に、製造日から賞味期限までの期間の3分の1を過ぎるとメーカーや卸売業者からの出荷はできません(「3分の1ルール」)。さらに3分の2を過ぎると、小売店はその商品を自動的に返品してしまいます。そのタイミングで返品されたものはもう出荷できませんから、基本的には廃棄することになるわけです。店頭に並ぶ製品より1日でも製造年月日が早い製品も、基本的に小売店は受け付けてくれず、これも食品ロスにつながります。

セルフ販売という現在主流の小売形式のなかで、顧客ニーズに応えて品揃えを充実させつつ欠品をなくし、過度の安売りを防ぐために返品を認め、「2分の1ルール」のアメリカなどよりシビアに賞味期限による出荷管理を行う。その結果、サプライチェーンにおける過剰在庫が常態化し、大きな食品ロスを生み出しているのです。アメリカのスーパーに比べると日本の店舗の棚はすばらしい、といった話もよく聞きます。しかし、一方でその商品価格にはロス分を廃棄する費用も乗せられていることに留意しなくてはなりません。

このような状況は、輸入も含め食料品の生産力が向上した現代ならではのものといえるかもしれません。経済学の「需要と供給」の均衡理論は、比較的少ないモノを無駄なくみんなで分け合う状況のもとでは有効なツールでしたが、モノの過剰性と向き合う現代においては、うまく当てはまらない場面も出てきました。

多種の商品が棚いっぱいに並ぶ店で買い物をすると満たされるとか、チラシに載っていた商品を買えてうれしいといった「コト消費」的な楽しみを、現代の消費者は日々の買い物の中に求めています。そして売る側も、そうした欲求に応えることで実際の商品の購買をうながしています。「消費者は神様です」というマーケットインな方向で最適化が進められた結果、日本の食品のサプライチェーンでは、過剰在庫と大量廃棄を伴う「均衡状態」が成立してしまっているのです。

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