フリーランサーとして働く労働者の権利を守る「歴史的な勝利」などと称えられた米・カリフォルニア州の雇用新法「AB5」。そのAB5が州議会で成立したのが9月。
提案者のゴンザレス議員は支持者に囲まれ、得意満面でした。
それから3ヶ月経った今、施行を来年1月1日に控え、フリーランス記者の2つのグループが、「言論の自由を定めた憲法に違反する疑いがある」との訴えを起こしたとGuardianが報じています。一体、どういうことなのか。
AB5という州法は、元々、フリーランスの記者やカメラマンだけを対象にしたものではありません。全産業のフリーランスの労働者が対象です。とりわけ、賃金の削減や恣意的な解雇が問題になったUberやLyftなどの配車サービスや、宅配や買い物代行のDoorDashやPostmateなどの運転手などに歓迎されたようです。
なぜか?法律の原文の解釈は、当方には手に余りますので、法律成立時の大手ネットメディアVoxの記事から紹介します。
それによると、カルフォルニアの企業は、労働者を雇う時に、いくつかの例外職種を除き、独立した請負業者ではなく「従業員」として雇わねばならない、というのが趣旨。
請負業者だと、失業保険、医療補助、有給育児休暇、有給休暇、残業手当、労災補償などなど福利厚生が十分に受けられません。その分、会社は助かるわけですが、従業員にしてしまうと出費がかさみます。
それでは、会社側が、従業員にしなくてよい「請負業者」の要件とは何か。それは3要件からなります。①会社のコントロールから自由である②会社のコアでない仕事をする③その業界で独立したビジネスを別に持っているーーです。
こう見れば、UberやLyftのドライバーは、会社のビジネスのコアになっているわけですから②1つ取っても完全に「従業員」に該当、何万人も雇わねばならなくなります。UberやLyftが大反対なわけです。
そのために必要になるコストはWiredの試算によると、ドライバー一人当たり年3625ドル、約40万円。UberとLyftをあわせて年間8億ドル、865億円の出費だと書いています。
ジャーナリストの場合は、①〜③の線引きが微妙なケースがあるせいか「一社に年35本以上の記事を提供したらフリーランスではなくなる」とまで定められているようです。
この点についてGuardianの記事はこう指摘します。「過去10年でジャーナリズム業界が崩壊したので、より多くの報道機関が契約記者に大きく依存するモデルに移行し、多くの記者がフリーランスを始めている」
「フリーランサーは毎月の小切手を得るためにanchor jobを確保するのが普通。週一のコラムとか勤務シフトに入るとかだ」「新法は、そのモデルを突き崩す」「とはいえ、業界には全員を従業員にする余裕などない」
という状況下で、早くも、その影響が出ました。デジタルメディア最大手の1つVox Mediaが、その傘下のスポーツサイトSB Nationで、カリフォルニア州内のスポーツをカバーしていた州内在住の200人以上のフリーランサーとの契約を解除すると公表しました。
LAタイムズによると、今後は20人のパートタイムと少数の社員スタッフでカバーしていくとのことです。こうした動きは、次々、起こるに違いありません。
そういえば、つい先日に、Business Insiderが公表した「今年これまでにメディア業界から7800人の仕事が失われた」という記事を最後まで読んだばかりでした。なんと60の報道機関について個々に事情と内訳を説明した長大なものです。
この記事でレイオフやバイアウトで業界を去った人々の数字は正社員のケースだと思われますが、彼らと同じように厳しいメディア業界を支えてきたフリーランサーが、少なくともカリフォルニアで、仕事を失うのが確実になってきているのがやり切れません。
朝の数時間、新聞配達のアルバイトをしている人々も「各新聞社の正社員にしなくっちゃ配達禁止」なんてことにならないことを祈るばかりです。(これは冗談ではなくLAタイムズもNYタイムズも真剣に取り上げています)