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特集
【特集】2020年代の飲み方
仕事の後には上司に連れられて一杯、「酒を飲む=大人の遊びの基本」といった風潮…これまで当たり前だった、お酒を媒介にしたコミュニケーションの形や飲酒をめぐる意識が、この20年で大きく変化しつつあります。お酒との接し方はどのように変わってきたのか、様々な側面から考えてみたいと思います。

高齢者や要介護者だってお酒を飲みたい!そんなニーズに答える介護スナック「竜宮城」とは?(工藤まおり)

  • 2019年12月23日 09:58
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人生100年時代と言われている今。我々は100歳まで何を娯楽にして生きていくのだろうか。

筆者の両親はもうすぐ還暦を迎えるが、100歳まで生きるとしたら後40年ある。まだ長い人生の中で、もし彼らに介護が必要になった場合、安心して楽しめる場所はあるのだろうか?

そんな中、65歳未満の入店は原則お断り、車イス対応トイレ完備、送迎付きという「介護スナック」が神奈川県横須賀市にあると聞いた。

鍼灸マッサージやデイサービスを運営する会社が始めた『竜宮城』だ。完全予約制という形で営業しており、予約時の人数とアンケート内容に応じ、適した数のプロの介護士が店で接客してくれる。要介護者の方や認知症の方であっても、お酒とカラオケを楽しめる場だ。

BLOGOS編集部

高齢者向けのスナックとは一体どんな場なのだろうか。

この「介護スナック」を考案した、株式会社あたたの佐々木貴也代表に話を伺った。

「人生の最期に飲みに行きたい」というお客様の願いから生まれた

マッサージ師として鍼灸治療院を営み、その後デイサービス事業を始めた佐々木さん。「元々は、日頃マッサージやデイサービスを利用してくださるお客様に向け、細やかな還元としてお店を作ったんです」と話す。

佐々木代表

「介護スナック」を構想したキッカケは、マッサージを担当していた、病気を末期に迎えた利用客の言葉だった。

「その方は、大変お世話になった方でしたが、既に余命を宣告されている状態でした。訪問した際に、『何かやりたいことがありますか?』と聞いたら、『飲みに行きたい』と言っていたんです。でもそう答えた後に、『でも自分はトイレも近いし、それ以外にも色々迷惑かけちゃうから行けない』とお話されていて…。その時、高齢者の方でも、介護が必要な方でも、楽しめる場を作りたいと思いました」(佐々木さん)

佐々木さんは、すぐに他の利用客にもニーズを聞いた。すると、『カラオケに行きたい』『お酒を飲みたい』『老人ホームで仲良くなった人と遊びに行きたい』というたくさんの声が寄せられた。

「考えてみたら、高齢者の方がみんなで楽しめる場所ってあんまりなかったんですよ。足が不自由な方は、車イスが入れる場所でないと難しいですし、そもそも介護を受けていると自分から『どこかに行きたい』と言い出しづらかったりするんです。なので、送迎付きでお酒とカラオケが楽しめる介護スナックを作ろうと思いました」(佐々木さん)

“高齢者専用”としてのこだわり

介護スナック『竜宮城』に一歩入ってみると、一気に昭和感漂う雰囲気が感じられる。

BLOGOS編集部

来店者の年齢層は75歳前後と想定し、その方がお金を自由に使えて、一番楽しかったであろう30代の頃のスナックが再現されているのだ。

「ちょっと上を見てみてください」。そう佐々木さんに促され、天井を見ると、きらびやかに店内を照らすミラーボールと、上品なシャンデリアが飾ってあった。

BLOGOS編集部
BLOGOS編集部

「ミラーボールをつけたら普通はシャンデリアをつけないんですけど、アンケートをとってみたら『両方欲しい』という意見が多かったので、両方つけちゃいました」

その言葉から、この場がいかに利用者のことを考えて作られた場所であるかということを再確認させられた。

また、ぱっと見は、一般的な昭和時代のスナック内装だが、その細部には高齢者専門の店ならではの心遣いが隠されている。

例えば、

・床には段差が全くなく、机はすべて車イスの人がそのままの状態で食事ができるよう、規定のサイズで特注。

・椅子は漏らしても飲み物をこぼしても大丈夫なように防水設計。

・こじんまりした店だが、トイレは2つ用意し、1つはオムツを替えられるようベッド付き。

・お皿やグラスも高齢者が扱いやすいように設計しつつ、スナックの雰囲気も壊さないようにプラスチックではなく陶器で作ったオリジナルのものを使用している。

といった具合だ。

トイレが2つ用意されている

また、親子以上の年齢差があるスタッフとの会話のキッカケになるよう、 共通の話題が出る仕掛けも考えられている。

店内の壁に飾られている絵画は定期的に変えているという。訪問した日に飾られていた桜の木の絵は、実は象が描いたものだという。「この絵、誰が書いたと思う?象が描いたんだって!」と、ちょっとした雑談で盛り上がりそうだ。他にも、「ジェンガ」などのゲームが用意されている。

ここまで細部にこだわっているものの、バリアフリーの空間でよく見かけるあるものが全く店の中に存在しない。

それは手すりだ。

佐々木さんは、「皆さんが杖をおいて、中を自由に歩けるように、手すりの数は最小限の数に抑えたんです」とその理由を話す。

「そのためにも、すべての机を床に固定し、机につかまって立ったときに倒れないようにしています。また、椅子の位置も手すりのかわりにつかまりながら歩けるように配置しています。

すべての机を床に固定している

手すりを設置すると『自分は手すりをつかっている』と意識してしまうじゃないですか。お客様が自信を失うことがないように内装はこだわりました」(佐々木さん)

そのこだわりは、この店の名前を『竜宮城』と名付けた理由にもなっている。

「浦島太郎は、外の世界に出てしまったらおじいさんだけど、竜宮城の中いたらずっと若いままだったでしょ。自分達が若かった時代を、ここでもう一度再現しようとしました」(佐々木さん)

料金はワンプライスに徹底

高齢者の方が楽しめるよう作った店だったが、設立当初は非難の声もあったという。

「介護保険という国のお金をそんなことに使うなんて」「高齢者にお酒を飲ませてボッタクリをするのか」という抗議電話がかかってきたり、ネットでも悪口が書かれたようだ。

しかし、そうした声を受け、客や家族がより安心して利用できるよう、佐々木さんは「明瞭会計」や「お客様第一」を徹底することにした。

BLOGOS編集部

まず、創業からずっと「ワンプライス」にこだわる。2時間食べ放題・飲み放題でキッパリ8000円。スナックではよくあるチップは一切受け取らない。

また、提供するお酒についても高齢者の身体を考え、値段が安く質が悪いものは扱わず、高品質でブランド品のお酒のみを発注。

また、事前アンケートで客の好きなお酒や、飲みたい地元の酒があれば、新しく仕入れる。「炭火焼鳥が食べたい」とお客様が事前のアンケートで答えていたら七輪と焼鳥を購入し提供したり、誕生日の方がいたらケーキを準備したりと客に合わせたサービスを提供する。

「正直、赤字にならないんですか?」と聞いたところ、佐々木さんは

「何をマイナスと捉えるかですよね。スナックの営業自体は儲かるかと聞かれたら難しいですが、元々はお客様に喜んでほしいという目的で立ち上げたものなので、それでお客様が喜んでくださればプラスなんですよ」と答えた。

そんなスタンスで続けていくことで、周りから徐々に信頼が得られてきた。

楽しいひとときを過ごす来店客たち(あたた提供)

また、スナックでは客同士交流もあるため、客の組み合わせ方にも注意を払っている。

初期の頃は、暴言を吐くような人や、ずっとマイクを離さない方と一緒になって困ってしまう人もいて、苦情が来たこともあったという。

「初来店の前には必ず事前にアンケートに記入してもらっています。その時点でどんな方がどんな方で、何が好きなのかなどを把握し、周りの方の話を聞いて計算しながら組み合わせています。

試行錯誤して、このパターンだったら大丈夫と模索してやってきました。この数年くらいにようやく形が見えてきました」

2015年9月の立ち上げから約5年。試行錯誤した結果が功を奏し、今では予約が取りにくくなるほど毎日賑わっている。来店の理由も、人それぞれだという。

例えば、「亡くなった主人が昔どういう場所で遊んでいたのか、見てみたい」と訪れる、長らく主婦業をこなしてきた年配の女性や、「私と飲み比べしよう!」と代表の佐々木さんとお酒の勝負を提案する89歳の女性。

「みんなとカラオケ行きたかったのよ。」と老人ホームのレクリエーションとして利用する男女のグループも多い。

ホール・調理スタッフとして出勤したことがある山崎大輔さんに印象的なお客様について聞いてみると、3ヶ月に1回のペースで来店する夫婦について話してくれた。

「若い頃もお二人でよくスナックに行かれていたようで、ここに来る度に『懐かしいね』と言って楽しんでいただいています。旦那様の足腰が悪く、杖がないと歩けないようで、中々気軽に二人で遊びに行くことができなかったようですが、ここは送迎付きなので安心してご利用いただけるようです。二人で仲良くデュエットソングを歌われて楽しまれている様子を見ると大変うれしく思います」(山崎さん)。

高齢者や要介護者も楽しめる場を

「お酒が飲みたい」「カラオケに行きたい」という高齢者の細やかな願いから誕生した介護スナック竜宮城。

BLOGOS編集部

訪問する前は、高齢者がお酒を飲み、スナックで楽しんでいるイメージが全く想像できなかった。

取材中、「ご高齢の方も、お酒を飲むんですね」と意外そうに言ったところ「高齢者だって、ただ年をとっただけなんです。何も僕らと変わらない。お酒が好きだった人は好きだし、カラオケだって歌いたいし、友達とおしゃべりだってしたいんです」と佐々木さんは答えた。

高齢になったら、健康的な和食を食べ、温かいお茶を飲み、娘や孫をたまに出迎えて歓迎するだけが人生ではない。

年をとったとしても、介護が必要になったとしても、やはり自分達の娯楽は必要である。

そしてここには、容態が悪くなりそうなら止めてくれるスタッフもいれば、歩行が困難な時に支えてくれる介護士もいて、飲んだ後自分の足で帰るのがきつくても送迎サービスで自宅まで送ってもらえる。

介護スナック竜宮城はきっとこの先も、高齢者の憩いの場として多くの方の幸せな時間を創っていくことだろう。

そしてそれを、できれば今後幅広い場所で見てみたいものだ。

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