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厳寒の北海道と今の自分を他人事にしない

【誤解をされるかたが少なからずいるようですが、電気が足りている、足りていないという論議は大切で、国や電力会社の透明性は最重要ですが、ここでは主に計画停電があったという事実、総停電があった、あるかもしれないとされる現実、に焦点を当てた話をします】

Twitter でたいへん興味深いやりとりがあったことを、会話がまとめられたあとに知りました。このエントリーの前提としてとても重要なので、「電気なしで北海道の冬を越すには...」を一読してください。
〈大飯原発再稼動をめぐり世の中が落ち着かない頃、最近パパになったアサイさんが冬に娘さんを凍えさせたくない、と真摯に案じていましたところ「電気が無ければ薪ストーブを使えばいいじゃない」との発言が。みんなそれぞれが色んな人と色んなことについてやりとりしていたのですが、薪ストーブを芯にまとめてみました。ボットン便所とか西成とか小学校の木の机とか迷走してた話が面白かったんだけど、手に余りましたのでこんな感じで。〉という経緯でまとめられています。

電力不足が懸念される極寒の北海道で「この冬をどう乗り切るか」という話に対して、「電気が使えないなら、薪ストーブを使えばいい」と言い、薪ストーブがいかに非現実的かを北海道在住者に指摘されると、「あれはものの例えなんだけどな、眠かったので説明するのも面倒で。要は私たちの今の生活を根本的に見直すところから始めないと」、「原発やめて凍える人が出るのかというと、たぶんそうでもない」と答えている辺りで頭がくらくらしてきました。

「電気が使えないなら、薪ストーブを使えばいい」の人は、夏は涼しく冬は温暖な地で優雅な暮らしをしているから想像力がまったく働かないのか、いますぐ電気を使わず人間が人間らしく生きられる世界がつくれると信じきっているのかのいずれかなのでしょう。ひとかけらも現実感が伴わない世界にふわふわ生きているのかもしれない、とはグロテスクすぎて想像したくもありません。

私は知人に証言者への仲介をたのむなどして、先日のエントリー「代案なき反対から人は離れる」を書きました。

2011年に計画停電を経験した人々に聞き取りを行った当初の動機は、東日本大震災の記録を残すことでしたが、取材中に「停電が引き金となって亡くなったと言うしかない人がいる。この人の死で、電気ってなんだろうと考えずにいられなかった」と聞いたことがきっかけとなり、タイトルに示した通りの内容へ方向を修正しました。
盛夏の節電ではなく、3月14日から28日の間に室温調整ができなかったことで老人が持病を悪化させ、秋になって死亡したできごとは、そこまでもろい存在である人間というものを想像していなかった私にはショックでした。(上記エントリーの当初記事で、わかりにくい記述があったことをお詫びします。記事は訂正いたしました)

このような体験から、北海道在住者の懸念は他人事とは思えません。
暖地では日中の電力消費ピーク時に地域ごと停電させる手法が取れますが、はたして日中でさえ凍える北海道の冬は同様の計画停電が可能なのでしょうか。このことを考えると、昨年の関東の春・夏以上に厳しい現実があるように思われます。

「電気が使えないなら、薪ストーブを使えばいい」は、日常生活を守るだけの電力が不足する可能性が高い人への代案になっていません。「パンがないならケーキを食べればいいのに」と同じです。
ここには薪ストーブの機能の問題だけでなく、独居老人や体が不自由な人、生活苦の人、都市の構造、交通の問題、などへの視線がまったく欠けています。

この薪ストーブの例のように、原発が止まった冬の北海道の生活不安に対して、現実味のある代案が出せないのなら、ここに再稼働反対の限界があるように思います。
原発をすべて止めることと、生活が維持できなくなる人がすくなからず出る(出そう)なことは、地続きの問題です。生活が維持できなくなる人(可能性がある人)の問題に真摯に答えようとしないのなら、それは他人事として片付けていると言わざるを得ません。

話を一年前の関東での計画停電に戻せば、持病を患っている老人の死のみならず、弱者が強いられた苦労、医療の危機、交通の混乱、日本の産業の担い手である人々が追いつめられた実態などに対して、それはどうでもいいから再稼働反対と言うようなものです。
これは自分自身の問題かもしれない、と考えることはできないのでしょうか。

「代案なき反対から人は離れる」に対して、「典型的な代案を出せ論で、言論封殺だ」とアメブロ会員専用のメッセージを送ってきた人がいます。「直感的な危機意識を無視する暴論」という意見を送ってきた人もいます。「みんながみんな、代案を出せるわけがない」というのです。

しかし前述のエントリーの要点は、電力がなくなったらどうなるかという事実をふまえ、さまざまな専門家の指摘や問題提起をしている人の発言などに耳を傾け情報を集めて、自分なりに「その後」を当事者感覚を中心にすえて真剣に考えたかどうかという点にあります。

もしそれでも代案がなければ、電力によって享受していたものを手放すか、電力を確保できる方策に目を向けるかし、それぞれ現実的な対応を取らなければなりません。
どちらも考えていなかった、というのではお話にならないのです。
個人の能力として考えられなくてもしかたないというなら、電力によって享受してきたものを手放したとき何が起こるか想像しなかったのだろうかと、言い直してもよいでしょう。
特に、Net で熱心に発言をしている人や、活動家が、再稼働反対を成し遂げた「その後」を考慮していないとするなら、無責任以外の何ものでもありません。

すべての原発が停止しても、まったく電力を心配しなくていい。とネガティブな可能性をゼロだと言い切ることと、原発の安全性は問題ない、地震に対して心配することはない、と危険性はゼロだと言わんばかりだった、かつての電力会社や政府の姿勢はどこが違うというのでしょうか。

官民総出で節電に励んだ昨夏の関東から大阪へ出かけたとき、かの地はどこも冷房でキンキンに冷やされている印象でした。温度計は持参していませんが、ほとんどエアコンが効いていない関東に比べ、大阪は冷房天国のように感じられたました。
「くやしいでしょう」、「もう東京は駄目でしょう」と笑う人さえいましたが、これに怒りを覚えるのではなく、関西人にとっては原発事故に端を発するエネルギー問題が他人事なのだと思い知らされました。
たとえ節電だけでも、命や健康から産業に至るまで、さまざまな問題を抱えたわけなのですが。

このとき、室温調整ができなかったため持病を悪化させ後に死亡した老人の話を知っていたとして、大阪の人に話してもわけがわからなったのではないかと思います。
これは私が、春でさえ事情によってはエアコンが使えないことで死亡する可能性がある人がいるという事実を知らなかったのと同様に、人間のどうしようもない限界だと言えます。
そうだとしても、このとき大阪で聞いた「原発はなくさなければならない」という声の現実感のなさと、「電気が使えないなら、薪ストーブを使えばいい」発言はよく似ていると感じざるを得ません。

しかし、今は2011年とは違います。
昨年は他人事だったのはしかたないとしても、全国的に節電目標が掲げられ、計画停電の声が聞かれるようになった今年は、身近な問題から北海道の問題まで我がこととして電力について考えられるはずです。

計画停電は原子力ムラがしかけた権力行使だと言う人や、電力利権がからんだ電力隠しで実は電力には余剰があると主張する人がいて、これは昨年から流布され続けてきた言説です。
電力隠しが事実であるなら、電気を奪われ、私たちの生活が奪われる切実な危機なのですから、問題提起をしている人は確証を提示し、それをもとに幅広い人々の手によって徹底的に検証して行く必要があるはずです。
これによって電力不足が解消されるなら何よりのことです。

ただし、もし陰謀があったとして、原子力ムラがすんなりどこからか十分な電気を出しくるような非の認めかたをするでしょうか。
その日は、北海道が極寒となる冬に間に合うのでしょうか。

計画停電や総停電で引き起こされたことを考えもせず、「原子力ムラが……」と声を出しているだけでは他人事なのだろうなという気がします。
この原子力ムラ陰謀説について「原子力ムラが……」と声にするだけでは、「埋蔵金がある」と騒いでいた民主党を思い出さずにはいられません。このような人は、電力のない生活を強いられるかもしれないあなたの生活や、北海道の人のことを真剣に考えていそうもありませんが、民主党に「埋蔵金を発掘してから言え」と厳しい目を向けた人でさえ、彼ら彼女らに甘いのは不思議と言うほかありません。

私は、電力が十分足りていても原発を無条件に再稼働させるべき、と主張しているのではありません。
国や電力会社の姿勢は十分だ、とも思っていません。
厳寒の北海道の冬を我がこととして考えられないことを端的な例として、このような反原発、再稼働反対では、先行きに希望が持てないと言いたいのです。

震災直後に関東の一部は長時間の総停電を経験しました。
携帯ラジオだけでは東北の被害がまったくわかりませんでした。インターネットも使えません。家の中だけでなく、街頭も信号も消え、まっくらな世界になりました。もしもの暴動や暴力を恐れました。
近くの家では留守番をしていた小学生の女の子と男の子が、家の外で泣き続けていました。
電気とは、何か。厳寒の北海道と今の自分をともに他人事にしない姿勢が、求められているはずです。

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