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2つの悲しい事件の判決にちなんで

世間を震撼させた2つの殺人事件の判決が立て続けに出ました。まずは被害者のご冥福をお祈りいたします。

1つは2019年6月1日に、東京都練馬区で、元農水相事務次官の76歳の男性が44歳の長男を包丁で刺殺した事件。検察側からの懲役8年の求刑に対して、懲役6年が言い渡されました。

もう1つは2018年6月9日に、東海道新幹線の中で、23歳の男性がたまたま同じ車両に居合わせた乗客3人を殺傷した事件。止めに入った男性が命を落としました。検察側からの無期懲役の求刑に対して、そのままの判決が言い渡されました。

東京都練馬区の事件の公判記録によると、中高生のころからいじめにあい、大学受験も思うとおりには行かず、大学も中退し、就職もうまくいかず、体調も崩し、人生に絶望して実家に帰ってきたようなのです。実家に戻ってきた長男は親の前で「俺の44年間の人生は何だったんだ」と突っ伏して泣いたということです。しかしそのときに被告が言ったのは「(長男が住んでいたアパートの)ゴミを片付けなくちゃ」とのセリフ。そこで長男は荒れ狂い、被告人に暴行を加えたようです。何かがかみ合っていない感じがします。

ちょうど事件の数日前に、川崎市でスクールバスを待っていた小学生や保護者が犠牲になる通り魔事件がありました。加害者はその場で自ら命を絶ちました。練馬区の事件の被告人は、川崎での通り魔事件の加害者と自分の長男の境遇が似ているとも感じていたようです。

新幹線の事件の被告人は、幼いころから両親との関係がぎくしゃくしており、成人してからは割となついていた祖母の養子となったという背景があります。しかし祖母の家で叔父に叱られ、家出をし、電話での祖母とのやりとりを「絶縁」と思い込み、絶望して、刑務所に入ることを目的として犯行に至ったようです。

公判中も反省の色はまったく見えず、むしろ自分の行動や論理を正当化しているようです。起訴後、勾留先で警察官に馬乗りになり、鼻血が出るまで殴り続けたことも明らかになっています。「普通の人は殺せるのに警察官には立ち向かえないのか」という挑発に応えたとのことです。判決を言い渡されると万歳三唱までしたとのこと。

結果的に被害者になったのか加害者になったのかの違いはありますが、いずれも絶望から自暴自棄に至っての凶行に見えます。いま話題の映画の「ジョーカー」のストーリーを彷彿とさせます。

これらの事件について、私もメディアから立て続けにコメントを求められました。でも「この状況で家族はどうしたらよかったのでしょうか?」と聞かれても、「こうすればこうなっていたはず」ということは言えません。一般論としては「ありのままの子どもに寄り添い、場合によっては公的機関に支援を求めるべき」ということになりますが、状況的には、それすら手遅れであると、当事者たちは感じてしまっていたのではないでしょうか。

映画「ジョーカー」を見たひとならわかると思いますが、ジョーカーという化け物になってしまった犯罪者を擁護することはまったくできませんが、じゃあどうやったら心優しい青年がジョーカーになってしまうのを防ぐことができたのかは、誰にも答えがないはずです。

このような事件はたくさんの不幸が重なって生じるものです。根本的に、誰かが何かをすれば防げるとか誰かが何かをしたから起きてしまったというような単純なものではないはずです。どこかで歯車が狂ってしまえば「うちの子に限って」も通用しません。

子どもに絶望が襲いかかった場合、最終的には親がセーフティネットになるというケースは多いのかもしれませんが、これらの事件のようにもともと親子の関係が希薄であった場合、一度暴走を始めてしまった列車をあとから追いかけて止めようとしても難しい。でも一方で、私が取材するなかでは、親との関係がうまくいっていなくても、学校の先生や友達や地域の大人がセーフティネットとなって、自暴自棄に至る前に救われた子どもたちもたくさんいます。セーフティネットが必ずしも親である必要はない。

これらの事件については「異常だ」という感想が出てきやすいのですが、冷静に客観的になってみれば、朝の満員電車の中の殺気立った様子だって十分に異常です。私たちは日常的に「異常さ」と隣り合わせにいることを自覚すべきです。そういうストレスの「しわ寄せ」が不幸にもどこか一カ所に集まってしまったとき、このような悲惨な事件が起きてしまうのかもしれません。ことが最悪の方向に向かって加速し始める前に止めるためには、最悪の状況が重なる確率を社会として、それぞれの持ち場で、少しずつ減らすことです。

これらの事件の「異常さ」は、被害者や加害者だけの問題ではなく、社会全体の歪みが被害者や加害者を通して表出したものであって、他人事ではすまされない問題だと思います。

※2019年12月19日にFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容の書き起こしです。

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