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『アナ雪2』を前作と比べて観た“5つの戸惑い” なぜミニマムでパーソナルな物語は失われたのか - 平田 裕介

 現在公開中の『アナと雪の女王2』がエライことになっている。公開わずか10日間で興収40億円超え、4週目で70億円越え。7人のクリエイターがツイッターにあげた感想漫画をめぐるステマ騒動もなんのその。前作の興収255億円に届くかどうかはわからないが、100億円越えは余裕でイケそうな勢いである。そんな注目をおおいに集める『アナと雪の女王2』だからこそステマ騒動があれだけ盛大に取り上げられたともいえるし、良くも悪くも効果絶大なプロモーションとなったことは間違いないはず。

【写真】神田沙也加33歳 今回も日本語吹替版でアナの声を演じた


『アナと雪の女王2』ヨーロッパプレミア ©getty

 そこで気になるのが、肝心の中身も『2』が『1』を凌いでいるのかどうかだ。いそいそと劇場に足を運んで確かめてきたが……『1』の残像を引きずってヒットした側面が強いのでは、という気がしてならなかった。

自分とエルサを重ねられない 壮大すぎるストーリー

 舞台となるのは前作から3年後。触れたものを凍てつかせる力をコントロールできるようになったエルサは女王としてアレンデール王国を治め、妹のアナとその恋人クリストフらと共に平穏な日々を送っている。そこへ彼女にしか聞こえない不思議な歌声を耳にするようになったのをきっかけに、力のルーツをめぐる冒険が繰り広げられていく。

 たしかに『1』では、なんだってエルサがあんな力を持っているのか説明はされていなかった。ファンタジーだからそんなもんだろうとたいして気にもならなかったのだが、せっかく教えてくれるのならば教えてもらいたいもの。しかし、それが世界を構成しているとされる“火・地・風・水”の4つのエレメントが思いっきり絡んでくる壮大すぎる話になってくるとなると、いまひとつピンとこないのである。

 そりゃあ、あれだけの力だからさもありなんと思うが、『1』ではそうした力を持つがゆえに自分を恐れ、周囲をも拒絶するエルサが自らを解き放つ姿を追った、マキシマムなようでいてミニマムでパーソナルなストーリーだった。そこが、なにかしらのコンプレックスを抱えた観る者の胸にもドンズバでハマって刺さったのである。

 しかし『2』では自分とエルサを重ねて観ようとしても、こちら側のコンプレックスは彼女と違って神々しいものではなく、ハゲているとか尿酸値が高めとかなので(筆者の場合)、スッと乗るのが非常に難しくなってしまった。

姉妹の愛情が試される展開はリピート

 また『1』が画期的だったのは、プリンセスがふたりいるうえに“白馬の王子様”とのロマンスよりも姉妹愛を描いたことだった。アナとイイ感じになるサザンアイルズ王国の王子ハンス・ウェスターガードなんて男が登場したが、その正体は“白馬の王子様なんていないんだよ!”と言わんばかりに姉妹を破滅させてアレンデール王国を乗っ取ろうとする稀代のワル。古き良きものとされていた王子様との恋が叶うことだけがハッピーエンドではないと突きつけ、それより大事なものがあると訴えることで、これまでのディズニー・プリンセスの物語における定石をひっくり返してしまったのは斬新かつ衝撃的であった。といいつつも、アナはしっかりと運命の男性となる純朴青年クリストフも見つけて恋は逃さないのだが……。

 で、『2』も姉妹の愛情が試される展開となっているわけだが、前作のクライマックスがそうだったのでリピート感が濃厚。さすがに『1』の時のようなハッとする驚きと感動までには達しない。

 ラブロマンス方面に目を向けてみると、クリストフが密かに計画しているアナへのプロポーズが成功するか否かを追ったドラマも並行される。悶々としている彼は可愛らしいし、ことごとくタイミングを逃す場面も笑えるが、その前に「おまえら、3年も城で同棲していただけかよ!」と叱りたくなる。冒頭で仲良くジェスチャーゲームに熱中している姿を見せられ、てっきり夫婦になったものだと思っていたばかりに肩透かし感もすごかった。

マイノリティをめぐる問題も 新たな顔ぶれは?

 さらに今回はマイノリティをめぐる問題も盛り込まれている。かつてアレンデール王国と友好関係にあったものの、ある悲劇に見舞われたノーサルドラというスカンジナビアの先住民族サーミをモデルにした民族が登場する。ネタバレになってしまうので細かくは語れないが、今回のテーマのひとつ“過ちに向き合うこと”だけでなく、エルサとアナのルーツにも絡んでくる重要な存在として機能しているし、クリストフもサーミ人がモデルとなっていることは以前から知られており、“多様性”も訴えた『アナ雪』には相応しい。そうした新たな顔触れのなかで気になったのが、アレンデール王国の黒人中尉マティアス。いかにも北欧なアレンデール王国に黒人がいることに違和感を感じるのではなく、“多様性”に縛られた忖度的配置を強く感じてしまうのだ。『1』に黒人の主要キャラクターが皆無だっただけに、それはなおさらだった。

「♪ありのままで~♪」のように口ずさめない新曲

 そして『アナ雪』といえば音楽である。なんといっても『1』はメイン曲「Let It Go~ありのままで~」に尽きる。あのキャッチーなサビメロ、いかなるコンプレックスを抱える者だろうと全肯定してくれる「♪ありのままで~♪」というフレーズ。しかもオリジナルの英語版ですら「♪レリゴー(Let It Go)♪」と4文字にして口ずさめる。誰でもバイリンガル状態で歌えて「俺は俺でいいんだ!」「私は私でいいんだ!」「俺は私でいいんだ!」「私は俺でいいんだ!」と心の底から思えるこんな曲って、今までになかったんじゃなかろうか?

 今度のメイン曲「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」にもその再来を期待したわけだが「Let It Go~ありのままで~」には遠く及ばなかった。サビメロはキャッチーだが「♪未知の旅へ~♪」というフレーズが観ている者のどこにもリンクしそうにない。さらにオリジナル英語版の「♪Into the Unknown♪」は短くして歌うには難しい。かといって音楽が駄目なわけでなく、クリストフが歌う「恋の迷い子(Lost in the Woods)」は個人的にも神曲。REOスピードワゴンやスティクスといった“80年代産業ロック”のバンドが歌いそうな“オヤジホイホイ”全開なロック・バラードで、歌唱シーンもいまの若い人が観たらダサくてイタいとしか感じられない当時のMV風に仕上がっているが、40オーバーの筆者にはこみ上げてきて仕方なかった。

賛否両論だった『トイ・ストーリー4』との共通点

 正直なところ、クリストフの熱唱以外はなんだか弾けなかった『2』。その要因は、やはり『1』に製作総指揮でガッツリと関わっていたジョン・ラセターの不在ではなかろうか。当初は悪の女王だったエルサのなかに異形としての哀しみを見出して立ち位置を変更させ、彼女の葛藤や苦悩を解放する曲「Let It Go~ありのままで~」をロバート・ロペスとクリスティン・アンダーソン=ロペスの作曲家夫婦に書かせた大黒柱である。セクハラ問題でディズニーを去ることになったとはいえ、彼に代わる太くて固い“柱”はそうそういない。このことは、途中で離脱せざるをえなくなった『トイ・ストーリー4』(19)が賛否両論を巻き起こしたことでも明らかだろう。

 現在はスカイダンス・アニメーションのトップとなったジョン・ラセター。『1』でアレンデールを飛び出したエルサを追いかけたアナのように、ディズニーかピクサーの誰かが彼を連れ戻してくれないものだろうか?

 筆者が鑑賞した回の終了後、エルサ風ドレスを着た幼い女の子がえらく楽しげな様子で両親に感想を伝えているのを見た。グダグダと書いてしまったが、子供たちが喜んでいたらそれで万事OKな気もした。

(平田 裕介)

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