- 2019年12月18日 15:15
「終電早めます」JR西が暗に伝えたいメッセージ
2/2終電を30分早めると年間作業日数が10%減る
省力化と機械化はすでに各方面で進められている。例えばレール継ぎ目の除去や、木製からコンクリート製マクラギへの交換など、設備の強靭(きょうじん)化やシンプル化によってメンテナンスの頻度を減らしている。また、これまで人力を中心に行っていたマクラギや電柱の交換作業を、専用の機械を使用して、より少ない人数で行えるようにする試みも始まっている。
ただ、設備の更新を伴う省力化は、徐々に成果が出ていくもので、特効薬にはなりづらい。結局のところ、すぐに成果につながる対策は、作業時間を延長して、1日の作業量を増やす他にないのである。
これがローカル線であれば、列車の合間に作業をしたり、日中の列車を運休して集中的に工事を行うことができる。しかし、都市部の鉄道は日中も高頻度で運転しており、一時たりとも止めるわけにはいかないので、作業時間を増やすには、最終電車を早めるしかないというのだ(終電後に運行する夜行列車や貨物列車は迂回(うかい)ルートがあるため作業の支障にはならないという)。
JR西日本の試算によれば、最終電車の発車時刻を30分程度早めると、年間の作業日数をおおむね10%減少する効果が見込めるという。夜間作業を実施する日数が減れば、作業員が休日を取りやすくなるというわけ。地道な積み重ねで、少しでも労働環境を改善したいとしている。
しかし、最終電車を早めれば利用者が不便を被るのもまた事実だ。それ以上に社会に影響はないのだろうか。
「鉄道も社会も変わるべきだ」というメッセージ
現在、JR大阪駅の終電は、JR京都線が24時31分(高槻行き)、JR神戸線が24時28分(西明石行き)。両線と並行する阪急電鉄は、神戸線が24時25分(西宮北口行き)、京都線が24時25分(正雀行き)だ。
また、大阪環状線の終電は、外回りが24時33分(京橋行き)、内回りが24時11分(天王寺行き)。
一方でJR東日本はというと、山手線東京駅の終電は、外回りが1時03分(品川行き)、内回りが24時39分(池袋行き)だ。いずれも終電を24時まで繰り上げると、対競合路線で見ても、対東京の観点で見ても、少々早いようにも思える。
だが、ここでJR西日本は興味深いデータを提示する。近年、働き方改革の影響で帰宅時間帯のピークが速まり、深夜時間帯の利用が減少しているというのだ。
平日の大阪駅の利用者数は、2013年から2018年の5年間で17~20時台が107%増加したのに対し、21時~23時は93%、24時台は83%に減少。この傾向は京都駅や三ノ宮駅でも同様だという。
JR西日本は、自社の線路保守作業員にとっての働き方改革だけでなく、深夜時間帯の働き方、過ごし方そのものを見直すために、社会に「終電繰り上げ」を問題提起したいという。つまり、鉄道とともに社会も変わるべきだと訴えるのである。
これには異論、反論もあるだろうが、2009年の終電繰り上げと、2014年の計画運休を定着させてきたJR西日本らしい取り組みとも言えるかもしれない。
「24時間おもてなし都市」を目指す大阪府が黙ってない
他方でもっと「夜遊び」すべきとの主張もある。18時から翌日朝6時までの時間帯に、夜ならではの消費活動や魅力を創出して経済効果を高めようという「ナイトタイムエコノミー」だ。
もともとは深夜に限った話ではないのだが、やはり注目を集めているのは、これまで活用が進んでいなかった24時以降の時間帯だ。観光庁の資料によると、ナイトタイムエコノミーを積極的に推進しているニューヨークやロンドンでは、2兆~3兆円規模の市場を形成しているという。
2025年に大阪万博を控え、カジノを含むIR(統合型リゾート)誘致を目指す大阪府も、「安全で安心して楽しめる24時間おもてなし都市」の実現に向け、ナイトタイムエコノミーに熱視線を注いでいる。彼らがJR西日本を寝かせたままにしておくだろうか。
実際、終電繰り下げ・終夜運転はナイトタイムエコノミーの推進力として期待されている。24時間運行の地下鉄といえば、複々線の路線網を活用するニューヨーク地下鉄が有名だが、2016年からロンドンでも週末(金曜・土曜)限定で地下鉄とバスの24時間運行が始まった。パリでも実証実験が計画されている。
この他、終夜運転まではしなくとも、週末の終電は1~2時間延長される地下鉄は多いという。是非は別としても今後、日本でもこうした議論が起こるのは間違いない。
もちろん単純に是か非かの議論ではなく、平日の終電は早めつつも、週末は遅くまで運行するという選択もあり得るし、終夜運転は必ずしも鉄道にこだわる必要はない。いずれにしても確かなのは、今後、終電延長や終夜運転の議論は、JR西日本の「問題提起」を無視しては行えないということだ。
はたしてJR西日本の提起は日本社会に受け入れられるのだろうか。国や自治体は、利用者は、どのような在り方を望むのか。JRの検討を見守るのではなく、賛成であれ、反対であれ、私たち自身が大いに声をあげ、盛り上げていきたい課題である。
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枝久保 達也(えだくぼ・たつや)
鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家
1982年生まれ。東京メトロ勤務を経て2017年に独立。各種メディアでの執筆の他、江東区・江戸川区を走った幻の電車「城東電気軌道」の研究や、東京の都市交通史を中心としたブログ「Rail to Utopia」で活動中。鉄道史学会所属。
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(鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家 枝久保 達也)
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