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「驚きたい」という欲望を満足させる『驚異と怪異』

不思議な生きものや、奇妙な出来事が好きだ。

未知の怪異に触れ、驚きたいという欲望が、わたしの中にあるのかもしれない。

異形や怪異を追いかけるうちに、自分の知っていることとのつながりが見えてくる。未知の中の既知に気づく瞬間、知的興奮はMAXとなり、肌が粟立つ。1000年前の伝説と、今年観た映画がつながるとき、人の想像性や認知の境界を撫でているような感覚に陥る。

想像界の生きものたち



『驚異と怪異』は、これを想像界の生きものでやったものだ。元は国立民族学博物館の特別展で、古今東西の想像上の異径のいきものを集成したものだ。

たとえば、「人魚」が面白い。人魚のミイラが出てくるのだが、これは江戸時代の見世物だった。上半身が猿で、下半身が魚の干物を接合させた作り物である。童話に出てくるマーメイドとは異なり、グロテスクで異様な姿をしているが、見るだけで運気が上がり、吉兆とされる妖怪だ[ググるとグロいで]

いっぽう、マーメイドは若く美しい女性の上半身と魚の下半身になる。ジュゴンがモデルとされているが、これは人の女性器そっくりのアソコを持つが故、血気盛んな船乗りたちが慰みものにしたからという説を耳にしたことがある。同じ人魚でも偉い違う。

他にも、龍、河童、天狗といったおなじみの(?)怪異から、ありえない霊獣・幻獣・怪獣、さらには、ファイナルファンタジーXVでデザインされた異形のクリーチャーや、五十嵐大介が描いた現代の異類までが一堂にひしめき合う。ページをめくるたび、異形に驚き、知的興奮を刺激されることを請け合う。

異形のバラエティ≒想像/創造力の限界

非常に面白いのは、こうした想像上の生きものを、古の人々がどのように造形化してきたかにある。絵画や彫刻にすることで、驚きを理解できる形にしようとする。未知のものを想像するためには、既知のものから類似した要素や構造を組み合わせて心象を描くほかない。

自分の知識と異形の姿を照らし合わせると、そうした表象の基盤が、ある程度パターン化されていることが見て取れる。地域や文化を超えて、人類共通の認知機能の限界というか、輪郭のようなものを垣間見ることができる。

たとえば、古今東西の合成獣(キメラ)の共通項を探したり、マレーシアの龍の精霊に日本の昔話を思い出すことができる。ラーマーヤナの鷲の王にイカロスの墜落を重ねたり、人間植物と呼ばれる古の絵に小野不由美『十二国記』や、西遊記の人参果を重ねて興奮する。

もちろんアイデアの拡散や伝承はあるのだが、ヒトの姿かたちが似通っているように、ヒトの認知機能も変わっていないのかもしれぬ。そして、それらを集めていくと、それが人の想像(創造)力の全体になるのかもしれぬ。

怪異=天からの警告

さらに面白いのは、日本における怪異の扱いだ。

平安時代の史料で「恠異(かいい)」として記録されたものは、神仏が送った危険信号だとしている。国が乱れるとき、その予兆として理解を超えた出来事が起きるという。出産異常や、怪物の出現、妖言の流行など、人知を超えた秩序「天」からの警告が、怪異だという考え方だ。

たとえば、奈良の大仏が水に濡れたり、寺社の大木が突然枯れたり、気味の悪いことが起こると、都に報告される。そこで卜(うらない)が立てられ、何かの予兆なのか、それとも問題ないのかが判断される。怪異だと認定されると、神仏にお詫びの使者が立てられ、天皇は一定期間の慎(謹慎)によって誠意を示す。

結果、神仏が予告した内乱や飢饉、疫病などの大惨事は「回避」される。つまり、神仏が発した警告を天皇が理解して社会を救ったことになる。これにより、権威が強化できる。

一方で、災いが起きたらどうなるか? その場合は、「まだこれだけで済んだ」「謹慎していなければもっと酷いことになっていた」と言い張る。世の乱れや災いを一身に背負って治める象徴的な存在は、どの時代でも語り継がれてきた(最近なら『天気の子』だね)。

行政ツールとしての怪異

重要なのは、この「大仏が濡れた」という現象を怪異として扱うところに、政治的な判断がなされている点にある。寒暖差から屋内の水分が結露したり、建材の水分が放出されることは時折あったはずだ。

これを「卜を立てる」ものと見なし、怪異として認定する背景には、都を飛び交う流言飛語や人心の不安があったのだろう。悪い噂が増えているからこそ、「水に濡れた」現象を怪異として認定し、それを治めるというリアクションをする。つまり、マッチポンプの行政ツールとして怪異を創出しているのである。

非科学的と言うのは簡単だが、「行政ツールとしての怪異」の構造は、現代のエコノミストがやっていることと、本質的に同じに見えてしまう。

ページをめくり、未知の怪異に驚き、既知とのつながりに気づいて楽しむ、知的興奮度MAXの一冊。

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