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特集
【特集】2020年代の飲み方
仕事の後には上司に連れられて一杯、「酒を飲む=大人の遊びの基本」といった風潮…これまで当たり前だった、お酒を媒介にしたコミュニケーションの形や飲酒をめぐる意識が、この20年で大きく変化しつつあります。お酒との接し方はどのように変わってきたのか、様々な側面から考えてみたいと思います。

「飲むのがカッコいい」はマイノリティ? 飲食店オーナーが明かす酒離れの実態

  • 2019年12月20日 11:10
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日本人のアルコール離れと言われて久しい。いまや飲み会は敬遠されるものであり、会社の忘年会=地獄という認識が定着しつつある令和元年の師走。厚生労働省の国民健康・栄養調査報告(平成29年)では、55.4%の人に飲酒習慣がないとしており(飲まない 37.8% ほとんど飲まない 15.6% やめた 2%)お酒を飲む人のほうがマイノリティとなりつつある。

しかし、テレビでは毎日のようにビールや発泡酒のコマーシャルが流れ、このシーズンともなると忘年会の予約が取れず途方に暮れている、幹事を任された若手社員もいるのではないだろうか。

そこで、麻布十番の人気店「炭火串焼 ヒヨク之トリ」など、7軒の飲食店を経営する(有)アンティシペーションの代表取締役・岡田康嗣氏に、日本人は本当に酒離れをしているのかどうか、水道橋駅近くにある食堂酒場「エナジーホール」で現場の温度感を伺った。【撮影・インタビュー/田野幸伸】

アンティシペーション代表取締役・岡田康嗣氏
−飲食店を初めたのはいつからですか。

自分で社長として始めたのは1990年です。

−約30年にわたり飲食店を経営されてきて、日本人のお酒の飲み方は変わったと思われますか。

間違いなくお酒を飲む量は減っています。うちは何十人も入るような大きい居酒屋ではないので全ては分かりません。ただ、自分で色々なお店に足を運んでも「酔っ払っている人」が少ない。僕は50代ですが、20歳ぐらいの頃は歌舞伎町の噴水に飛び込んだりする人がほぼ毎日のようにいて、オールナイトで飲んで酔っ払っている人が沢山いました。

携帯電話の普及とともに、サークル、グループといった大人数で何かをするという行為自体が無くなってきたのかなと思います。

−年齢層で飲み方に違いは感じますか。

うちは焼鳥店や食堂酒場だけでなく、串カツ田中のフランチャイズ店も2軒やっています。フランチャイズの店舗が禁煙に変わった頃から、お酒を飲む人がどんどん減って家族連れにシフトしていきました。居酒屋業界自体もアルコールの売上比率が減ってきているので、家族の食事の場という方向に舵を切っている部分もあります。

かといって、ディープな立ち飲み酒場も廃れてはいませんが、店舗数は減っているのではないでしょうか。この近所にもそういうお店はありますが、東京都では来年4月1日から飲食店の原則禁煙も始まりますし、お酒が少しずつ売れなくなってきているのを肌で感じています。

僕が若い頃は100円酎ハイとか、美味しくなくても安くて酔えればいいというお店が沢山ありました。それが最近はレモンサワーでも「こだわりのレモンを使って」と、お店側の意識も変わってきているのかもしれないですね。

−今日お伺いしているこちらの「エナジーホール」さんもレモンサワーがウリですよね。

エナジーホールは9月にオープンしてまだ3ヶ月ちょっとなんですが、ノンケミカル、ノンワックスのブランドレモンをすりつぶして皮まで入れて、苦味と酸味のあるノンシュガーの美味しいレモンサワーをお出ししています。

−美味しいお酒を少量飲む、というスタイル。

そうですね。お客様にもよりますけども、「○○だから美味しいよ」「これのほうが健康にいいよ」「こっちが本物だ」と、知識を持っている方が増えてきたので、昔の居酒屋にあったような、何で割っているのか分からないレモンサワーを売るお店は減ってきたのではないかなと。

禁煙にするデメリットはほとんどない

−こちらのお店は全面禁煙なんですね。

うちは系列の焼鳥店も最初から禁煙でやらせていただいています。アイテムとしてワインがあるので、ワインを飲まれる方にとっては、隣でタバコを吸われるとやはり難しいですね。逆に言うとタバコを吸いたい人は立ち飲みとか、もっとガチャガチャしているところに行くのがいいと思います。おじさん同士が肩を並べて飲むところはタバコもありなんじゃないでしょうか。

タバコを吸う人が段々減ってきているので、それなら最初から禁煙にしようと判断しました。

−禁煙のムーブメントはいつ頃から感じていらっしゃいますか。

ここ数年、禁煙にしなきゃなと。うちでも大きなお店は分煙にしたり喫煙室を設けたりと対策をしました。中小規模のお店は喫煙室を入れなくてもいいんですが、中途半端なところですと、禁煙にすることでお客様離れのリスクを考えました。

私は麻布十番でやや高級な焼鳥屋を経営していますが、喫煙者のお客様は携帯電話を持って「ちょっと一服してくる」と席を外して、外の喫煙所でタバコを吸いながら携帯電話をいじって戻ってくるというパターンが定着しましたね。

ですから、ある程度の価格帯のお店だと禁煙であることのマイナスはほとんど無くなっていると思います。単価が安い立ち飲み屋さんとかおじさんたちが集まるカウンターだけの店舗はまだ煙がモクモクだったりしますが。

−実際のところ、禁煙が飲食店の経営を直撃してはいないと。

そうですね。ただタバコを吸う人はまだ19.8%(平成28年 厚労省 国民生活基礎調査)いるので、日中タバコが吸える喫茶店はびっくりするぐらい店内が煙で真っ白だったりします。

愛煙家がタバコを吸う場所がないんです。ここは千代田区ですけど、路上ではもちろん吸えません。マーケットビジネス的に言うと『タバコを吸える店』という打ち出しができれば、そういったお客様でやっていけるかもしれないですね。

−逆張りに商機が見えてくるぐらい全体が禁煙になってきた。

そうですね。

−さきほど「売上がお酒から食事にシフトしている」という話が出ましたが、同じ客単価でも食事中心のお客さんが増えたということでしょうか。

例えば串カツ田中という業態は、禁煙にしたことによって明らかにドリンク比率が下がってフード比率が上がりました。あちらの会社の方に言わせると、今の子どもたちが将来的にメインのお客様になると。禁煙で育ったマーケットにシフトしていくので先に張ったという風に伺っています。

−将来大人になるお客さんをメインに見据えている。

その頃の喫煙率は、今よりもっと低いのではないかと感じています。

飲まなくてもワンドリンク頼んでくれればOK

−お酒を飲む量が減っている中で、お店としてはどのような対策をとっているのでしょうか。

特に対策はないですが、例えば「ヒヨク之トリ」はノンアルコールカクテル、通称モクテル(MOCKTAILS/似せた・マネしたカクテル)の種類を増やしました。見た目はカクテルだけれどもノンアルコール。スマートに飲めるメニューを用意しています。

ここエナジーホールでもレモンスカッシュとかアップルシナモンスカッシュとかハニーレモネードとか、ノンアルコールを多めに用意してあります。女性に続けて飲んでいただいても、ある程度ドリンクで売上が出るように。

−居酒屋さんのノンアルって烏龍茶、オレンジジュース、コーラぐらいしかなかったイメージが。

レモンスカッシュもレモンサワーと同じノンワックスのレモンで作っていますし、自家製のジンジャーエールもお出ししています。こういうメニューがあればノンアルコールでも楽しんでいただけるのかなと。

うちのお客様で泥酔する人はいないですね。業態のせいもあるかもしれないですけど。歌舞伎町の奥や渋谷のちとせ会館の前とか、ディープなところに行けばまだまだ泥酔してる人もいるかもしれませんが。

−確かに道端で泥酔している人は減ったなと思います。

そうですよね。一気飲みも禁止ですし。いまどき居酒屋でやったら「やらないでください」って注意されますから。

30年飲食店でお酒を売っているんですけど、僕自身はお酒が弱くて(笑)。このお店をやるにあたってレモンサワーの飲み歩きをしたんですが、うちの店長と一緒に行って、ちょっと口をつけて味を確かめたら、あとは全部飲んでもらったりしていました。

だから僕も飲み屋さんではミネラルウォーターとかペリエを頼みますし、ワンドリンクをオーダーすればいいのかなと。飲食店を経営していて一番イヤなのは、飲まない食べないでおしゃべりをしている人ですから。

−何しにきたんだと。

そういう時は「混み合いました場合、2時間30分でお声をかけさせていただく場合がございます」と席を空けてもらう場合もあります。ワインのボトルを何本も飲んでくれたお客さんには閉店までいて欲しいじゃないですか。

−飲めない人はどうしたらいいでしょう。

飲まなくてもワンドリンク頼んでくれていれば全然いいです。外国人のお客様の中には「水だけでいいです」と言う人もいるんですよ。

逆に言うとそういうお客様に対して高級なお店は「ミネラルウォーターでよろしいですか?」って言って、水を売っちゃうとかね。さすがに「水道の水でいいです」とは言わないでしょうから。カバンからペットボトルを出して飲む観光客の方もいますからね。

ドタキャン被害は同業者からの嫌がらせ?

−社会問題にもなっている「ドタキャン」被害を受けたことはありますか。

ありますよ。うちの系列にそんなに大きい店はないですが、予約人数が多い場合は徹底的に確認します。ネット予約では携帯電話の番号を入れていただくので、もし仮にAさんが無断キャンセルした場合、その番号からの予約は今後受けないようにしています。結構あれって、同業者の嫌がらせなんじゃないかなって思うんですよね。

−ライバル店が架空の予約を入れて妨害すると。

そうです、そうです。あとは安易に、イタリアンと和食となんとかと3種類ぐらい予約を入れておいて、キャンセルするのを忘れたとか。ひどい話ですよね。うちはそこまで対策をしていないですけど、4名以上は当日に予約の確認を一度するぐらいですかね。

焼肉屋をやっていて、外国のお客様からの予約も受けているんですけど、悪気がなくても他のスケジュールで間に合わなかったりすることもあるんですよ。そういう時は10分過ぎて連絡が無ければすぐ次を入れちゃいますね。あくまでもお客様が待っていればの話ですけど。

−お店の入り口に英語のメニューが貼ってありましたが、インバウンドの影響はありますか。

なぜか知らないですけど、うちで食べた外国人観光客の方がGoogle マップに英語で「美味しかったよ」と感想を書いてくれているみたいで、ときどき外国人の方も来てくれます。

−誰かの口コミを見て、次の観光客が来る。

ツーリストだと思うんですけど、アジア系ではなくヨーロッパ系の人が来て。ラグビーW杯の時は多かったですね。

「とりあえず生」が減ってきた

−平成から令和に時代が変わったタイミングでもありますが、変わったなと思われるところはどんなところですか。

業態にもよるんですけど、「とりあえず生」って言葉はちょっと減ったのかな。今から10年ぐらい前にサントリーが仕掛けたハイボール。昔はハイボールってダサい飲み物だったと思うんですよ。だけどサントリーは「角」を売りたくて。女優の小雪さんとかをバンバンテレビに出して、ハイボールといえば小雪という方向へ持っていった。そうするとみんな角ハイボールになるわけですよ。イメージ戦略って怖いなと思いましたね。

−「角ハイ」という言葉が定着しました。

焼酎ブームもありました。酒屋さんで「魔王」や「佐藤の黒」を仕入れるのが大変でしたね。今はもう酒屋さんに行くと「なかむら」とか「川越」とか当時のプレミアム焼酎が普通に置いてあるんですよ。「これ買っていいんですか?」と聞くと「どうぞ。ずっと置いてあるんですよ」という時代になりました。

あとは「飲むのがカッコいい」と思う人が減ってきたのかな。例えば、あそこのホテルのバーがどうのこうのって言う人がいなくなってきたのかなって。

その分のお金が携帯代とかにいっちゃってるんじゃないですかね。飲まずに家に帰ってパソコンや携帯をいじる。悪いことではないですけど、家の黒電話を使っていた僕らからすると時代が変わったなと思いますね。

−飲み代だった1000円がNetflixに消えているのかもしれないですね。タバコも含めて大人のイメージだったものが変わってきているのかと。

今の若い子は自動車免許も持っていないですからね。「車の免許はあったほうがいいよ」って言っても「いやいや、電車に乗ったほうが早いですよ」と(笑)。お金持ちの家じゃないと車が買えないじゃないですか。保険料や税金が払えないですよね。駐車場代もあるし。東京は難しいですよね。

記者さんは就職氷河期世代ですか?

−氷河期ど真ん中の2000年卒ですが、放送業界にいたのでバブルの残り香が若干あったんです。飲み会の帰りにタクシー券が出たりして。でもリーマンショックを経て、今の世代の子たちはそんな光景を見たことがない。時計も車も必要ないし、家でストロング飲料を飲みながらサブスクリプションで映画を見れば最高に楽しいことがわかってしまった。本当に賢いと思います。禁煙もすっかり定着してきましたし。

ただ、水道橋のサラリーマンっぽい人から「タバコ吸えないの?じゃあ他に行くよ」ってことはまだまだありますよ。禁煙だと女性連れのお客様が入ってくれる率が高いように感じています。うちを利用するお客さんは男女問わず、若者より中年のかたが多いですね。

−顧客の棲み分けができているってことですね。最後にお店の売りを教えていただけますか。

ドリンクもオリジナルで作っているんですけど、パテ、シュウマイ、餃子、ナポリタン、マッサマンカレーなど料理にも力を入れていて、お店のカテゴリは「食堂酒場」となっています。夜はワンドリンクの注文をいただきますがチャージはないので、レモンスカッシュとカレーだけで帰っていただいてもOKです。そういう使い勝手のいい店でありたいと思っています。

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