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「父子帰省」で家族全員がハッピーになるワケ

年末を意識する時期になってきました。年末年始は家族全員で夫の実家に帰省――。この恒例行事を憂うつに思っている女性も多いのでは。そのためか、最近は父と子だけで帰省する「父子帰省」が話題になっています。家族のあり方を研究する筒井淳也先生も、父子帰省はおススメと断言します。その理由とは?

※写真はイメージです(写真=iStock.com/byryo)

■できれば夫の実家に帰省したくない……

日本では、夫婦一緒に夫の実家へ帰省する家庭が少なくありません。夫のほうは自分の実家に帰るので何の気兼ねもありませんが、妻のほうは交通費はかかるし気疲れはするしで気が進まないもの。「できれば行きたくない」と思っている人もいることでしょう。

日本の家制度は基本的には「父系社会」的な面が強く、妻の両親よりも夫の両親との関係を大事にする傾向がありました。帰省も墓参りも夫婦そろって夫方へ行くのが当たり前、という地域もまだたくさんあります。

ただ、この傾向は近年薄れつつあります。日本が母系社会になってきたのか、はたまた両方の親を大事にする双系社会になってきたのか、といった議論も起こっていますが、私自身は「個別化」が進んだ結果と見ています。

結婚したからといって夫婦一体となって行動する必要はない、自分の親との関係は大事にするがそこに配偶者を巻き込まない――。近年は、男女問わずこうした考え方の人が増えているように思います。

考えてみれば、親のほうも息子の嫁には気を使うものです。互いに気疲れするぐらいなら、夫婦個別で行動したほうが合理的。父親と子どもだけで父親の実家に帰省する「父子帰省」も、その表れのひとつではないでしょうか。

■親世代にとって息子の嫁は家族か客か

意外かもしれませんが、近年になって帰省の回数自体は増加しているはずです。ひとつには、少子化が進んで2人っ子や1人っ子が増えている今、親子関係は以前より緊密化していますし、たくさんのきょうだいがいた時期に比べると、帰省の意味も重くなっています。また、親にあたる世代の寿命も延びているため、帰省を繰り返す期間もそれだけ長くなっています。

こうした流れの中で、夫の実家への帰省を続けていくのは大変です。交通費などのコストはもちろんありますが、働く女性にとってお正月やお盆は貴重な休暇のひとつ。無理して夫に同伴するよりも、自分の親に会いに行く、あるいは自宅で休息するなどして過ごしたいと考える人も多いでしょう。

帰省は親孝行という意味でもとても大事なものですが、長く続けるためにはできるだけ楽にしたいもの。父子帰省はその手立てのひとつであり、経済的かつ合理的な答えだと思います。

「父子帰省すると夫の両親に変に思われるかも」と思う女性もいるかもしれません。しかし、近年は親の世代でも、子の配偶者=家族という実感が薄れてきています。お嫁さんは家族の一員であると同時に“お客さん”なのです。もう少し若い世代では、完全に“家族ではなく客”という意識になっているはずです。

■海外では我が子の配偶者は“お客さん”

これも、夫婦を2人でワンセットとは見なさない個別化の表れと言えるでしょう。こうした個別化は欧米の国ではさらに進んでいて、親は我が子の配偶者が家に来たら、お客さんとしてもてなす国も多いのです。仲よくはしても、一昔前の日本でよく見られたように嫁に家事をさせるようなことはありません。

少子化やジェンダー平等は世界的な趨勢ですから、家族のありかたは、世界的に見ても個別化へと向かっていると思われます。日本の家制度は基本的には父系的な面が強かったのですが、最近になってこれが弱まり、代わって個別化が進み始めました。共働きが増えて男女の対等化が進んだことも、変化を加速させたのかもしれません。

その意味では、日本の家族規範は今、変化の真っただ中にあると言えるでしょう。夫と妻どちらの家に帰省するか、どちらの墓に入るか、息子の嫁は家族か客か。いずれも、今は昔ながらの考え方と現代的な考え方とが入り混じっている状態なのです。

そんな過渡期にあるわけですから、どう行動するのが正解なのか、相手が同意してくれるのか、悩んでいる人もたくさんいます。例えば、妻が「父子帰省してほしい」と思っていても、夫は家族帰省が当たり前と考えているかもしれません。そんな場合はどう説得すればよいのでしょうか。

■夫にとっても意外なメリットが

私自身は、父子帰省は男性にとっていい訓練になると思っています。イクメンも増えてはいますが、自分と子どもだけで遠出したことがある男性はまだ少ないのではないでしょうか。特に実家が遠方で、小さな子を連れて新幹線や飛行機に乗るとなると、その大変さは想像以上です。

普段、妻に育児を任せっぱなしにしている男性は、その大変さが身にしみてわかることでしょう。最初は戸惑うかもしれませんが、帰省の間ずっと子どもの面倒を見ていれば、自宅に戻る頃にはきっとレベルアップしているはずです。我が子とじっくり向き合う時間もとれて、一石二鳥だと思います。

きちんと家事育児分担ができている男性にとっても、自分と子どもだけでの帰省はちょっとした冒険です。子どものいつもとは違う一面が見られたり、育児に関して新しい気づきを得られたりすることもあるかもしれません。

もうひとつ、仕事と家庭を両立している女性にとって「ひとりの時間」はとても貴重なものです。男性は、この時間をつくってあげるためだけに父子帰省してもいいぐらいだと思います。

■介護も個別化の時代へ

これからは、夫婦であっても自分の親との関係は自分でケアするのが普通になるでしょう。これは帰省だけでなく、将来ありうる介護についても同じです。「帰省も介護も妻と一緒に」と思い込んでいる男性は、今のうちに変化に慣れておく必要があります。父子帰省は、その第一歩としてもおすすめです。

さて、ここまで父子帰省のメリットについてお話ししてきました。合理的かつ経済的で、男性はいい訓練ができ、女性は貴重なひとり時間を得られると。ではデメリットはというと、今のところ特に思い当たりません。

父子帰省についてはまだ統計がなく、賛成派や反対派がどのぐらいいるのか、どのぐらいのペースで増えているのかといったことはわかっていません。しかし、日本の家族規範は父系から個別化へと確実に向かっています。「夫の実家への帰省が憂うつで……」という女性は、夫にこの変化に適応してもらうためにも、父子帰省を提案してみてはいかがでしょうか。

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筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。
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(立命館大学教授 筒井 淳也 構成=辻村洋子 写真=iStock.com)

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