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- 2019年12月15日 14:23
特集:2020年の日本経済に関する瞑想
2/2●消費税の増税は地方経済を直撃している?
そこで残る最後の問題が「消費増税の影響」ということになる。当初は「自動車と住宅」という2巨大産業において、今回は増税前の「駆け込み」があまり起きていないことを見て、「これなら大事には至らない」とホッとしたものである。前回2014年4月の増税局面では、それが一番の問題であった。その後の反動減に苦しんだ自動車と住宅業界は、今回は上手に立ち回ったと言えるだろう。
しかし増税から3か月目を迎えた現在、「景気への影響は軽微」かといえばそこはやや心もとない。いろんな業界の方に聞いてみると、大手スーパーなどにおける日用品の消費はずっと低調なようだし、ファッション業界などでは「増税以前に夏頃からずっとダメ」という声も聴く。面白いのが飲料メーカーで、「レモンサワーが売れているのは良くない傾向」で、昔からデフレ状態のときにヒットする商品なのだそうだ。
このような時に、もっとも素早く状況をキャッチしてくれるのは「景気ウォッチャー調査」である。この調査、もともとは堺屋太一経企庁長官の「景気動向を素早く把握する仕組みを検討せよ」という指示のもと、2000年にスタートしている。リーマンショックや東日本大震災のときも、この「街角景気」が真っ先に役立ったものである。
そこで11月分の調査結果を見ると、以下のように正反対の声が寄せられている。
* (〇)3か月前に比べると売り上げの落ち込みは緩やかになってきている。消費税引き上げの影響もやや薄れてきている。(中国=一般レストラン)
* (○)消費増税の反動減からの回復が見込まれる。また、クリスマス、正月が近づき、消費者の購買意欲が回復する(東海=百貨店)
* (▲)消費税引き上げの影響で客単価がかなり下がり、売り上げが前年を下回る厳しい状況が続いている(九州=コンビニ)
* (▲)客の買い物の動きはさらに慎重になり、12月前半は客の財布のひもが固くなる可能性が高い。また、価格に敏感に反応して無駄な買い物を控える傾向が強くなるとみている(東北=スーパー)
気になるのは「景気の現状判断DI」において、良い地方と悪い地方の差が開いていることだ。11月のDIが悪かったのは東北(34.3)、北陸(34.8)、甲信越(35.7)など、逆に良かったのは北海道(43.2)、沖縄(43.0)、南関東(40.6)など。おそらく都市部は早く増税の影響から脱するが、人口が希薄な地域では戻りが悪いのではないだろうか。
考えてみれば、増税対策として導入されたキャッシュレス・ポイント還元制なども、地域によるばらつきが大きいはずである。実際に10月分の調査では、
「客の半数以上を高齢者が占めているため、キャッシュレス・消費者還元事業の活用の仕方を知らない」(北海道=タクシー運転手)という指摘があった。
どうやら消費税は台風の被害と同様に、地方経済を直撃しているのだが、都市部そのことに対して鈍感なのではないかと思えてくる。
●年明けの大型補正予算はなぜ可能なのか?
こうしてみると、政府が年明け早々、事業規模26兆円、財政支出13.5兆円という久々の大型補正予算を編成すると決めたことは、至極もっともな判断に思えてくる。今回の経済対策は、①自然災害からの復旧・復興とインフラ整備、②海外からのリスクへの対応、③東京五輪後を見据えた成長分野への投資、が3本柱となる。これだけの規模の大型経済対策は2016年8月以来のこと。そう、世界経済が一種の自信喪失状態となり、英国のEU離脱投票と米国のトランプ当選という2大サプライズがあった年である。
単純に「年初の補正予算」ということであれば、このところ毎年恒例の行事になっている。これは「期中に金利が上昇するリスクがあるから」ということで、財務省が期初に国債費を高めに見積もっておき、年後半になると「やはり金利は上がりませんでした」ということで、浮いた分を原資にして行ってきたものだ。しかし、これだけ長期金利が低位安定しているのであれば、「財政のリスク」とはいったい何なのか。わが国の公的債務は、いちおうGDP比240%もあるはずなのだが。
先日、キヤノングローバル戦略研究所のシンポジウムで、小林慶一郎慶応大学教授から興味深い説明を伺った(「新しい経済政策のフレームワーク」、12/2、於:日本工業倶楽部)。以下は筆者が理解した範囲でご紹介していこう。
* われわれが住む今の世界は、名目金利はゼロもしくはマイナスであり、名目成長率はプラスである。こんな虫のいい話はなくて、政府はゼロコストでおカネを借りて、返す時の負担は今より小さくなっている。つまり国債比率を長期的に漸減することができる。
* なぜこんなに国債の利回りが低いのか。民間資産に比べ、国債には「超過的」な価値があるからだ。すなわち、国債には確実な価値と流動性があり、金融取引においては担保価値を持つ。そして「人生100年時代」においては、長い老後に備えて人はなるべく多くの貯蓄を持とうとする。誰かの貯蓄はかならず誰かの借金であるから、ここにもますます多くの国債発行が必要になる理由がある。
* このまま財政の信認が維持されるのなら良いのだが、それが崩壊するケースもあるだろう。そこで財政の信認を確立するために、①プライマリーバランスの赤字が増え続けないようにする、②危機対応プラン(Contingency Plan)を準備しておく、ことが必要なのではないか。
MMTのように極端な話をしているわけではないが、かといって単純に「財政再建」を急ぐばかりが能ではない。世界的に金融政策が行き詰まりを見せ、それが可能な条件が整っているのであれば、財政政策を試すのは理にかなった判断と言える。特に国土インフラへの再投資は急がなければならないだろう。かのケインズが言ったように、「長期的には、われわれは皆死んでしまう」(In the long run, we are all dead.)のだから。
1 https://www.city.koriyama.lg.jp/taihu19kanren/index.html
2 http://www.sonpo.or.jp/news/release/2019/1911_03.html
3 https://www.jftc.or.jp/research/index2.html
- 吉崎達彦(かんべえ)
- 双日総合研究所取締役副所長・同主任エコノミスト。



