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特集:2020年の日本経済に関する瞑想

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師走を迎えました。来年の経済予想をまとめなければなりません。しかるに2020年はことのほか難しい。それというのも、①10月に行われた消費増税の影響がまだ読み切れない、②台風19号の被害と復旧、今後の災害対策も不透明、③そして米中貿易戦争など、外部環境が見通せない、という3つの理由が重なっている。さあ、困りました。

たとえ自信がない問題であっても、締め切りが来たら答えを出さねばならないのは世の常というもの。この際、手持ちの材料を総動員して、答えを模索してみるしかありません。以下は最近、筆者が見聞きした内容をもとにして、来年の日本経済に関して「瞑想」してみたものです。限りなく「迷走」に近い、という気もわれながらするのですが。

●水害・被災地の声は届いているか?

先週12月2日に郡山市を訪れる機会があった。地元紙、福島民友新聞社主催、YMC郡山セミナーの講師として、である。郡山市は東北では仙台市に次ぐ2番目の大都市。福島県内では福島市が政治の中心で、経済の中心は郡山市という位置づけである。

ところがこの一帯は、台風19号による被害が甚大である。郡山市役所のHPを参照すると、死者6人、家屋浸水2.1万件、農産物被害が30億円、そして学校など多くの公共施設が浸水している1。台風が上陸したのは10月12日だったから、時間はかなり経過しているとはいえ、爪痕はなおも深い。地元の工業団地が受けた被害も大きく、昨年夏の西日本豪雨のときと同様なサプライチェーン問題が生じていることは想像に難くない。

たぶんこの事態、全国的にはあまり知られていないのではないだろうか。今回の台風19号の被害は大都市圏では意外と軽微であり、例えば東京都内の死者は1人だけである。その一方、福島県で31人、宮城県では20人の死者・行方不明者が出ている。

それというのも、河川の決壊や越水といった事態は、主に国交省が管理する下流ではなくて、県や市が管理する支流で起きている。阿武隈川も福島市のあたりでは被害は小さく、郡山市の周辺で大規模な氾濫が起きている。長野県の千曲川でも同様の現象がみられるが、上流の地方が下流の都市部の犠牲になっている形である。そして報道量が少なくなり、水害による被害の深刻さが隠れてしまっている怖れがある。

本誌の10月18日号「自然災害・多発時代の日本経済」では、損害保険協会の「保険金支払額」に着目して、近年の風水災がいかに巨大化しているかを指摘した。それでは今年の台風は、歴代でどれくらいに位置づけられるのだろうか。


損害保険協会のニュースリリースによれば、11月19日現在の事故受付件数は、①9月の台風15号が37.3万件で2651億円、②台風19号は23.5万件(金額不明)、③10月25日の大雨が9858件(同)、となっている2。事故受付は今後も増えるだろうから、最終的な金額はかなりの額に膨れ上がるはずである。

格付け会社のS&Pグローバルレーティング社は、「台風15号と19号は、それぞれ2018年に近畿地方に被害をもたらした台風21号と同規模に達する」と想定している。支払額は全体で2兆円を超える可能性があり、損保各社の収益性低下の要因になるとのこと。

今年の台風15号と19号が、昨年の台風21号とほぼ同規模ということになると、この3件が「1兆円トリオ」となって、ダントツで歴代被害額のトップスリーを形成することになる。2018年以前と比較すると、いかに風水災が大規模化しているかがよく分かる。さらに言えば、この先ももっと大型の自然災害が多発しそうに思えてくる。

この先、保険料率が上がることはやむを得ないとして、まずは復旧・復興をいかに迅速に行うか。その上で、自然災害への対策をどのように考えていくべきなのか。具体的に言えば、河川や海岸といった国土インフラ(この中にはダムや堤防、砂防なども含まれる)をいかに整備し、メンテナンスし、長寿化していくか。それも費用対効果を考えて、となるとまことに頭の痛い問題となる。

●鉱工業生産がストーンと落ちた!

事態は深刻だな、と思うのは直近の経済指標の中に、異常な数値が入っているからである。10月の鉱工業生産が、前月比▲4.1%減となったことは衝撃的だった。

本誌ではしばしば以下のように、「鉱工業生産と貿易統計」のグラフを重ね合わせてご紹介している。長期でも短期でも、「生産と輸出」という2つのグラフはほぼ同じような形を描く。日本のモノづくりがいかに輸出主導型か、という証拠なのである。

そして今年は米中貿易戦争のあおりを受けて、輸出はほぼ足踏み状態にある。そんな中で鉱工業生産が横ばい状態になる(四半期ベースでみると、1-3月期から7-9月期までの指数が102~103のボックス圏となる)のは自然なことと言える。


ところが10月の指数は、前月比4.1%減でいきなり98.9まで落ちた。モノづくりの動きなのだから、これが消費税増税による影響であるとは考えにくい。自然災害によってもたらされた生産活動の停滞と見るのが妥当であろう。経産省の予測では、その後の11月は▲1.5%、12月は+1.1%と小動きになっているので、足元の10-12月期の生産活動は前期比で相当な低下となりそうだ。

今週、12月9日に公表された7-9月期GDP改定値は、同時期の法人企業統計が良かったことにより、速報値の+0.2%から年率+1.8%へと大幅な上方修正となった。これにより4四半期連続で、+1.0、+2.6、+2.0、+1.8と高めのプラス成長が続いたことになる。ただし足下の10-12月のGDPは、相当なマイナス成長を覚悟する必要があるだろう。もっともそれが発表されるのは、年明け2月17日ということになってしまうのだが。

●貿易はあまり心配しなくてもいい…はずだ!

本校執筆時点において、英国総選挙(12/12)も米中第一次合意(12/15締め切り)もどう転ぶか分かっていない。しかし海外の動向は、それほど心配しなくても良いと思う。この時期の定番、日本貿易会による2020年度の貿易動向調査の見通しが悪くないからだ3

この調査、筆者も過去に何度も参加しているが、各商社が社内外へのヒアリングなどを通し、「商品別の積み上げ方式」と「マクロ分析」の両方で作成している。そしてここが重要なところだが、今年は前提条件として「米国が2019年12月15日に対中関税引き上げ第4弾を完全実施する」ことを想定している。


結果は上記グラフの通り、2019年度の通関輸出は前年度比▲5.0%の76.7兆円、輸入は▲3.2%の79.7兆円となる。それが2020年度になると、輸出は+3.1%の79.0兆円、輸入は+0.9%の79.0兆円となる。つまり貿易の動きは19年度がボトムで、20年度には少し良くなるという見通しになっている。

「貿易戦争は改善しないのになぜ?」という声がありそうだが、同調査では「ITサイクルの底入れ」と「高付加価値商品への需要増」が輸出を押し上げるとしている。いくら米中がいがみあっていても、各国とも5G投資は始めなければならないし、来年の米国経済は「予防的利下げ」の効果で上向いてくるだろうし、いかにもありそうな話である。

正直な話、今週末の「第4次追加制裁関税」があってもなくても、「2020年には現在以上の関税引き上げはない」と見るのは、比較的安全な賭けだろう。これ以上の課税は株価に影響するだろうし、トランプ大統領の再選確率を下げてしまうからだ。「来年の関税率は今年並み」と考えていいのなら、米中に関する不透明性はかなりの部分が消える。ゆえに2020年の日本経済を考えるうえで、貿易戦争はそれほど重要ではないと考えたい。

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