記事

「人類は宇宙へ行くべきか?」日本の宇宙活動の幕開けにEVAを担った飛行士の問い 『宇宙から帰ってきた日本人 日本人宇宙飛行士全12人の証言』土井隆雄さん - 稲泉 連

90分で地球1周! 様々な宇宙の写真をツイッターにあげたけど「伝えられなかった」こと から続く

【写真】頭の下には地球が。EVA中の宇宙飛行士。

 1990年、日本人が初めて宇宙に飛び立ってから約30年。1997年に日本人として初めてEVAを行なった土井隆雄が宇宙空間で見た「無限」とその「畏怖」について。

◆ ◆ ◆

宇宙で見た光景の「意味」を考える宇宙飛行士がいた

 自らが宇宙で見た光景の「意味」を、現在も考え続けている日本人宇宙飛行士がいる。土井隆雄――宇宙開発事業団(NASDA)の第1回宇宙飛行士選抜試験で毛利衛、向井千秋とともに宇宙飛行士に選ばれた一人である。現在、土井は京都大学の「宇宙総合学研究ユニット」の特定教授を務めており、私は2017年12月に彼の話を聞く機会を得た。

 彼は1997年11月にスペースシャトル・コロンビア号に搭乗し、1度目のミッションに向かった。そのとき、日本人として初めて船外活動(EVA)を行なった彼の宇宙体験は、結果的に日本人宇宙飛行士だけではなく、宇宙開発史全体のなかでも稀なものとなった。

 コロンビア号は地球を約90分で1周するため、2時間半の間に土井は地球の朝と夜を2度ずつ見た。そのとき彼の心に生じたのは次のような感覚だった。

「待ち時間の間にただただ地球を眺めていると、それがすごくあたたかく感じられたんです。下の方で地球がダーッとパノラマになって流れていました。青く、白く輝いている。大気層から飛び出してくる青い光は太陽光の反射ではなく、大気の分子自体が青く発光している散乱によるものです。それが素晴らしい。その美しさへの感動が、次第にあたたかみへと変わっていったのです」


EVA中の宇宙飛行士(出典:宇宙飛行士アレックス・グレストのTwitterより/https://mobile.twitter.com/Astro_Alex/status/1073151965364961281

 だが、そのように光り輝く地球は夜明けから45分後、夕方の影が地球をみるみる覆い始めると、今度は深い闇のなかに消えていった。

 貨物室は明るく照らされているため、闇に星は見えなかった。土井は最後の光が地球の端に吸い込まれるように消えたとき、宇宙空間から地球そのものが失われてしまったように感じた。

「そうすると非常に寂しくなる。振り返っても宇宙に見えるのは無限の闇だけです。そして、それは一種の畏怖、怖さを感じさせる闇なんです。地球が徐々に失われ、あとは暗黒の宇宙が永遠に広がっている。無限というものを直接、この目で見た、という感覚がありました」

「宇宙が私たちを呼んでいるように感じた」

 土井は宇宙から帰還した後、感想を聞かれて「宇宙が私たちを呼んでいるように感じた」と語った。それは船外活動時の体験となにか関係があるのかもしれない。

 「自分が宇宙のなかに存在しているという不思議さと、地球のあたたかさが僕のなかにまずあった。自分の唯一の故郷である地球と、無限の宇宙を交互に見たときの、あの『何とも言いようのない感じ』。その感覚を言葉に置き換えるとしたら、人間とは地球だけの存在ではなく、その外の世界に広がっていく可能性を持つ存在だ、という表現が最も近い気がしたんです。

 ただ、当時の僕には確かな解は得られなかった。以来、『あの感覚はいったい何だったのだろう』という思いを、僕はずっと持ち続けてきました。宇宙空間を見たときの畏怖と、一方での無限への憧れ。地球のあたたかさへの感動。それらがミックスされて混沌としている複雑な感情があった、ということですね。船外活動中に宇宙を見つめていたとき、自分が抱いた思いがいったい何であったのか。

 その意味で僕はこの20年間、その問いに対する答えを、ずっと考え続けてきたと言ってもいいのかもしれません」

人類は宇宙へ行くべきか? 行くべきではないのか?

 人類は宇宙に行くべきか、それとも行くべきではないのか。20年前のEVA体験以来、土井はずっと自らにそう問い続けてきたと語る。

 それはEVAという体験によって、彼が人生に抱え込んだ大きな謎だった。そして、彼は「有人宇宙学」という新しい学問の創出に取り組むことでいま、その問いに対しての自分なりの答えを出そうとしているのである。

 本書で話を聞いた多くの宇宙飛行士たちの活動の舞台となった国際宇宙ステーション(ISS)は、1984年にアメリカのレーガン大統領が建設を発表することで正式に始まった計画だった。それから30年以上の歳月が流れ、世界の有人宇宙開発はドナルド・トランプによる月探査の大統領令、イーロン・マスクのスペースX社に代表される民間の宇宙開発の活発化など、新たな段階に入ろうとしている。

 インタビューの時間が終わりに近づいた頃、土井はそうした宇宙開発をめぐる環境を踏まえた上で、日本の宇宙開発も今後、国家としてのビジョンを明確に持つべきだと話した。その言葉の端々には、日本における第一期の有人宇宙活動の一翼を担った彼の強い思いが感じられた。

 日本人による有人宇宙開発が始まってから約四半世紀、今後、彼らが築いてきた土台にどのような宇宙体験が加わっていくのか。土井の言葉を聞いていると、そのことが楽しみになってくる。

 そして、そのとき日本人宇宙飛行士たちはどのような言葉を、私たちに伝えてくれるのだろうか。土井へのインタビューを終えたとき、私はいつか再び彼らに話を聞いてみたいという気持ちを強くしていた。

 人はなぜ宇宙へ行くのか――。

 日本人宇宙飛行士は何を見たのか、史上初・歴代12人の飛行士への総力取材を行った『宇宙から帰ってきた日本人』発売中。

(稲泉 連)

あわせて読みたい

「宇宙飛行士」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    共産市長NO 広告にヘイトと指摘

    田中龍作

  2. 2

    都知事選 三つ巴なら山本太郎氏

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  3. 3

    インフルと同じ対策で 医師助言

    中村ゆきつぐ

  4. 4

    実名報道 マスコミの壮大なズレ

    文春オンライン

  5. 5

    平手脱退の裏側「笑いたくない」

    文春オンライン

  6. 6

    キャッシュレスに便乗し詐欺急増

    WEDGE Infinity

  7. 7

    注意がパワハラ扱い 沈黙は金か

    笹川陽平

  8. 8

    山本太郎氏を利用する立民に呆れ

    田中龍作

  9. 9

    東出の不倫に女性が激怒するワケ

    文春オンライン

  10. 10

    優勝力士インタビューで爆笑と涙

    AbemaTIMES

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。