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【読書感想】交通誘導員ヨレヨレ日記

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交通誘導員ヨレヨレ日記――当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます

  • 作者:柏耕一
  • 出版社/メーカー: フォレスト出版
  • 発売日: 2019/07/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

Kindle版もあります。

交通誘導員ヨレヨレ日記

  • 作者:柏 耕一
  • 出版社/メーカー: 三五館シンシャ
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: Kindle版

内容紹介

喜びも笑いも涙もすべて路上にあり。

「誰でもなれる」「最底辺の職業」と警備員自身が自嘲する交通誘導員の実態を、悲哀と笑いで描き出す

――すべて実話の生々しさ――

全国55万人強の警備員の主流をなしている「交通誘導員」の人間臭いドラマを克明に描いた初めての作品。通行人にクレーム入れられ、現場監督に怒鳴られ、警察に注意され……。それでも私は今日も路上に立つ。

 交通誘導員というのは、道路工事などの際に、誘導灯を振って片側交互通行の指示をしたり、迂回路の案内をする人たちです。

 交通誘導員を見たことがない、という人は、まず存在しないと思います。

 夏は暑そうで、冬は寒そう。仕事は単調にみえるし、けっこう大変そうだな、高齢者も多いし……などと、ふと思うことがあるくらいで、大概は「また工事か……こんなところで止められて、めんどくさいな」が僕の基本的な道路工事に対するスタンスです。そこにいる「人」を意識することはほとんどありません。

 著者は、長く出版業界で働きながら、収入の手段として、警備員(交通誘導員)の仕事もやっている73歳の男性です。

 いまの世の中では、70代くらいって、一昔前の「おじいちゃん、おばあちゃん」というイメージにあてはまらない人が少なくありません。もちろん、人それぞれ、ではあるのですが。

 交通誘導警備員は、全国でおよそ55万人(2017年末)近くいる警備員のなかで、40%を占めているそうです。きつい仕事で、日当もそんなに高くない(日勤で1日9000円くらい)。頑張って仕事を入れている人で、この仕事だけだと、月収で18万円くらい。ただ、特別な資格や技術が求められず、高齢者でも可能な仕事なのです。著者が働いている会社では、70歳以上が8割を占めているのだとか。

 これを書いている著者も、ギャンブルや出版関係の仕事による借金などもあり、「生真面目に生きてきた」わけではなさそうです。

 ちなみに、自己破産者は交通誘導警備員の「欠落事由」にあたるそうで、「警備」の仕事だけに、厳しいところもあるんですね。

 読んでいると、簡単そうにみえる仕事だけれど、周囲の住民やドライバー、同僚など、けっこう気を遣わなければならない相手が多いのです。

 とくに、地域の人たちや店のお客とは揉め事を起こさないように、と強く釘をさされるのだとか。

 目黒区八段の現場ではガス工事が行われた。周囲はマンションなどもある住宅街で、私の担当は工事現場からおよそ80メートルほど離れた車両通行止の立哨である。目の前の4車線道路から工事現場方向へ侵入しようとするクルマの迂回のお願いが役割である。だが、住民のクルマや営業車はその範疇ではない。

 午後に入った頃、1台の赤いクルマが工事関係車両の後ろにぴったりつけて進入してきた。慌てて私はそのクルマを停車させた。

「すみません。まっすぐ通り抜けることはできません。どちらへ行かれます?」

 すると赤い車の窓を開けて、ちょっと派手目の化粧と服装の中年女性が「すぐそこよ。ほら見えるでしょ、そこのマンション」と指をさす。マンションは現場周辺にいくつもある。こういう曖昧な返事には注意を要する。もっと具体的に聞かねばならない。

「というとあの5階建ての白いマンションですか。あそこなら工事現場のすぐ近くですが右折して通れますよ」

 私は一番近くに見えるマンションを指さして話をした。すると女は「そうよ、そこ、そこ」と答える。私もこれなら間違いあるまいと思った。「どうぞお通りください」と声をかけると女はクルマを発進させた。

 ところがそのクルマは白いマンションへ続く道には右折せず、工事現場の手前で停車している。「はあ?」である。

 現場ではしばらく女とのやりとりがあって、工事を中断させて作業員が慌ただしく動いている。掘り返した穴の上に鉄板を渡し、女の赤いクルマはその上を通っていった。しばらくすると50過ぎの監督が恐い顔をして私に近づいてきて「いったいあんたは何のためにそこに立っているんだよ?」と大声で詰問してきた。

 こんなとき弁解してもムダだが、素直に謝る気にもなれない。「いや、手前の白いマンションですかと指を差して確認したら、そうだと言ったので通しました」と答えた。すると責任者は「あの女は『ガードマンがまっすぐ行けますと言ったから来た』と言ってたぞ。もっとしっかり相手の話を聞かなければダメじゃないか。しょうがねえなあ」と怒りをトーンダウンさせて戻っていった。

 しかし不愉快この上ない。これ以上どう聞けというのか、ドライバーの中には迂回したりバックしたりするのを嫌い、工事現場の前まで行けばなんとかなるだろうと考える人がいるのだ。

 こういうのって、ドライバーに限らず、よくある話ではありますよね。

 「わざわざそんなウソをつく人がいるのだろうか?」と第三者からは疑問に思うような事例でも、責任をなすりつける相手が自分より立場が弱かったり、その場かぎりの関係だったりする場合には、自分に都合のいいウソをついて(本人にとっては、それが「事実」になってしまっているように感じることさえあります)、自分の立場を良くしよう、という人は多いのです。

 この場合は、通れそうに見えたので現場に行ってみたけれど、やっぱり無理だったので、責任を警備員になすりつけた、ということなのでしょう。

 こういうことをするのはみっともない、とは思うのだけれど、そういう、みっともないことを、つい、やってしまうのも人間なんですよね。

 相手は高齢だし、「たかが交通警備員」と侮られてしまいやすいのだろうなあ。  

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