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「不眠」の謎が解けた!――今夜も眠れない人へ、睡眠薬を欠かせなかったライターの治療ルポ - 横田 増生

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 なぜ人は眠るのか。その理由は今の科学ではわかっていないという。だが、睡眠不足は集中力などの低下を招き、ゆくゆくは健康を損なうことに。30年以上も不眠で悩み、病院通い、睡眠薬を欠かせなかったジャーナリストの“不眠治療ルポ”。

【写真】治療器具をつけて眠れるようになった筆者

◆◆◆

 不眠とは腐れ縁である。

 不眠体質であることを自覚したのは高校生のころ。家族が寝静まる深夜になっても一人眠れずに過ごす夜が少なくなかったからだ。以来30年以上にわたって、不眠とどうにか折り合いをつけて生きてきた。

 睡眠薬を飲み始めたのは2010年、45歳の時だった。ユニクロの取材で中国へ出張した初日のこと。取材がうまくいくのかどうかが心配で、一睡もできず朝を迎えた。これはまずい、と思い、帰国後、近所の内科医で睡眠薬を処方してもらった。それ以降、睡眠薬が手放せなかった。

©iStock

午前3時、4時に目が覚めて、一睡もできず朝を迎える

 不眠がさらに深刻になったのは、2014年。宅配便業界の取材で、荷物を仕分けする現場で夜勤のバイトとして数カ月働いた後のこと。当時のことをこう書き残している。

〈不眠が、これまでとは違い、抜き差しならないほど深刻になっていたのだ。(2014年)11月と12月の2カ月は、何をしていたのか、という記憶がほとんどない。スケジュール帳を見れば、年末であるため何件かの飲み会が入っていたのがわかるが、その席でどんな話をしたかとなると、途端に記憶が曖昧になる。

 ただ、このころ、午前3時、4時に目が覚めて、そのまま一睡もできず朝を迎えることが多くなった。そうした日、午前中は眠気のため、身体と頭がほとんど機能しなかった〉(『仁義なき宅配』小学館文庫)

 こうした異常な疲れの原因は、肝臓や腎臓などの不調にあるのではないかと自分で勝手に見立てて、何度か病院で血液検査を受けたが問題はなし。ただ、胃腸科に行くと、胃カメラの結果、逆流性食道炎と診断され、薬を処方された。

 胃腸以外の内臓に問題がないのならと心の病気を疑い、精神科の門をたたいた。そして14年の年末、うつ病の薬を処方してもらった。

 ジェイゾロフトという抗うつ剤を飲むと、目がさえ、鼓動が早まり、聴覚過敏になった。抗うつ剤は全く合わず、1週間もたたず服用をやめた。うつ病ではないと見切りをつけた。

 不眠が続くと、朝起きた時から、「今晩はちゃんと寝られるだろうか」と不安になる。夜になれば「また今夜も眠られないんじゃないか」と嫌になる。意味もなく本を読むなどして夜更かしをする。目を瞑っても眠れなくなることが怖いのである。不眠自体もつらいが、この気持ちを共感してもらえない事実が孤独感を深める。「しんどいのはオレだけかい!」という気持ちだ。

睡眠について専門家は「10%もわかっていませんね」

 不眠がどん底の状態にあるときは、コーヒーやアルコール、炭酸飲料や香辛料の入った料理には決して手を出さず、修行僧のごとく禁欲的に過ごした。少しでも眠れなくなる要素を取り除こうという努力だ。

 結局、内科や精神科、胃腸科などを巡り、寝る前にベンゾジアゼピン系の睡眠薬と2種類の向精神剤、それに逆流性食道炎を抑える胃薬を飲むことで、ごまかしつつ日々を過ごしてきた。

 これまで睡眠に関する情報は何でも貪欲に吸収してきた。睡眠に関する雑誌の特集や本など、何でも飛びついた。

 だが、それらの情報は、頑固な不眠を抱える私には何の役にも立たなかった。

「週刊文春」17年11月9日号で、私が取材した際、スタンフォード大学で睡眠学を研究する西野精治教授は、睡眠について解明できているのは「10%もわかっていませんね。せいぜい5%ぐらいかな」と語った。

 その説明に納得すると同時に、それなら、この先、一生、私の不眠の原因が突き止められなくても仕方がないな、と諦めていた。

「睡眠時無呼吸症候群の疑いが濃厚ですね」

 ところが、転機は意外なところから訪れたのだ。

 今年9月、最寄り駅の駅ビルに睡眠クリニックができているのを見つけ、さして期待を抱かず行ってみた。

 今年6月に千葉市美浜区で開業した「スリープレストクリニック幕張」院長の岩根隆太医師(44)は、問診を始めるや否や、「睡眠時無呼吸症候群の疑いが濃厚ですね」と言い放った。

 私は心の中で、「ホントかな」と懐疑的だった。

 実は睡眠時無呼吸症候群(以下SAS)については、2016年春に千葉大学医学部附属病院の総合診療科で診てもらったことがあった。そこの謳い文句は「診断のついていない症候や健康問題を有する患者さんの診療を行っています」というもの。

 そこで、通っていた精神科医に「SASの疑いがあるので診察してほしい」と紹介状を書いてもらい、1カ月以上待ち、診察日を迎えた。家人が録音した、私のいびきの音源も持参した。

 だが、医師から「SASは、あなたよりもっと太った男性が罹る病気ですから、心配はありません」と問診だけで一蹴された。

 当時の体重は70キロ前後で、身長は169センチ。体格指数(BMI)は24台で、ぎりぎり普通体重に収まっていた。

 以来、私の中では、SASという選択肢は消えていた。

 ところが、岩根医師は、SASの可能性があるとの見立てを変えない。

「横田さんは顎が細い。また、SASが逆流性食道炎の原因かもしれません。睡眠時の無呼吸中に吸気努力が起こって、食道の内圧が低下します。その結果、食道内圧が大きく変動することで、胃の内容物が食道へと逆流しやすくなるのです」

検査の結果を見て驚いた

 自宅でできる簡易装置での検査の費用は3000円弱だという(3割負担の場合)。半信半疑ながら、当日、検査を受けることにした。

 翌々日、結果を見て驚いた。約8時間の睡眠中、225回も無呼吸低呼吸状態があった。一時間当たりにすると約30回。無呼吸低呼吸時間の平均は23秒。ほぼ一時間半近く呼吸が止まっている計算だ。

 呼吸が止まると、血中酸素飽和度が低くなる。私の最低値は84%。岩根医師によると、「この数値では、チアノーゼが現れやすく、虚血性心疾患のリスクが高まります」。

 SASの仕組みとはこのようなものだ。

(1)睡眠時に体を横たえ、体が弛緩することで舌や軟口蓋が気道を狭くする。
(2)いびきをかく。
(3)気道がさらに狭くなり、ついに閉塞する。
(4)無呼吸低呼吸となる。
(5)体内の酸素が急激に低下。
(6)睡眠が浅くなり、呼吸が再開する。
(7)酸素が十分に入る。

 そして、しばらくして(3)に戻って気道が狭くなり閉塞状態となり、その後は、一晩中(3)から(7)を繰り返す。

 SASの定義は、1時間当たり10秒以上呼吸が止まることが5回以上あることだ。1時間当たりに30回以上で重症とみなされる。

 言うなれば、私は寝ている間に、何度も首を絞められ、呼吸が止まって死にそうになるたびに、その手を緩められることを繰り返していたようなものだ。毎晩、寝ながら殺されかけていたことを知って愕然とした。

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