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代案なき反対から人は離れる

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脱原発、原発廃止は、傍流ではなく主流をなす意見であると日常のあらゆる面から実感されます。

しかし再稼働については、いずれ原発のない国をめざすことに賛成であっても、現状では再稼働やむなしの声もすくなからずあることが実感されます。しかもこれは、国や大企業の経営陣によって発せられた声ではなく、一般的な暮らしを送る人々からの反応としてです。

かく言う私は、もし現状で原発に代わる発電が現実味のある代案として存在するのなら再稼働する必要はないが、もしないのなら再稼働はやむなし、と考えています。なぜなら私自身、原発に代わる電力供給源を提案することができなかったからです。
そこで何か妙案はないだろうかと数多くの再稼働反対の意見に眼を凝らしましたが、現実味のある代案はみつかりませんでした。再稼働反対を主張する人々から、電力は足りているの声はあっても、原発に代わる現実味のある電力供給源の提案はありません。

電力は足りているから代案など考える必要はない、と主張する人々には違和感を覚えます。このように主張する人々は、昨年の夏、なにがあったのか憶えていないか、知らないのではないでしょうか。

昨年の夏は、東電のホームページや Yahoo! などポータルサイトで逐次、電力の受給状況がパーセント表示で発表されていただけでなく、定時のニュースでも報道されていました。

受給状況を常々気にしながら、ピーク時の電力使用量が供給に対して危険な状態とされる 90% にぎりぎりで達しなかったことに胸を撫で下ろした人も多かったはずです。

なぜ電力の使用量が抑制され万が一の事態が防げたかと言えば、各自が節電した効果もさることながら、計画停電が実施されたことが要因として大きいと言わざるを得ません。

つまり、意味もなく計画停電が実施されたわけではないのです。

意図的に停電させる地区が複数なければ、計画停電が行われなかった東京23区内を含め首都圏はいきなり総停電になる可能性があり、これを回避するための苦肉の策として時間と地域を指定した電力の供給停止が行われたのです。

もし東京23区内がふいに停電したなら、この国の経済は混乱し麻痺したことは間違いありません。東京23区を除く首都圏の人々の計画停電にまつわるさまざまな我慢があって、この国の混乱は回避されたとも言えます。

私が暮らす横浜市は計画停電が実施されました。しかし、東京都区内在住のかたや、東京電力管区外在住のかたにの中には、計画停電で何が起こったのか理解していない人々がすくなからずいるように思われます。

(以下は、実体験のほか、今回のエントリーのため聞き取りを行った際に証言された声です【2012.6.2~6.23にかけて、川崎・横浜両市で取材】)

計画停電中は、商店の店先からバックヤードまで冷蔵庫は温度を保つため開け閉めが極端に制限され、レジの使用が不可能になりました。停電で支障が出るのは冷蔵庫とレジだけではありません。飲食店では調理器具が、理容院・美容院では温水器など様々な器具が使えなくなり、その他の業種でも店内にいる客に迷惑が及ばないよう停電するしばらく前から店を閉めざるを得なくなりました。これによって、かきいれどきに商売ができない店舗が多数ありました。

「大昔は電気がなくてもやれたかもしれないけど、何ヶ月とか一年とかで昔に戻すのはぜったい無理。戻すならうちみたいな店だけ戻すんじゃなくて、全部が戻らないと意味ないよ。国中のいろんなのが一気に。そんなのできる? やったとして、ぜったい外国とうまくやってけないよ。ハブられるんじゃないの」

デザイン事務所を経営されているかたは、逐次 e メールで入る連絡が停電のため受けられないことがあり、PC を使用する様々な仕事ができないため主要な業務が滞ったと言います。数時間の停電による仕事の停滞により、停電しない東京都内の事務所にいくつかの案件を取られ、計画停電が終了したあとも戻ってこない仕事があるそうです。

「写真やPDFを添付して送りたい人に、電話で送ってくれとは言えませんしね。充電してあるノートパソコンで受信しても、デザインや写真の仕事はやっぱり大きな画面とか処理能力が高いデスクトッブでないとうまくないし。外付けのハードディスクは動かないし。たかが数時間でも、無視できない数時間はあるわけで、そのぶんを後からやればいいとはならないんですよ。

しょっちゅう仕事が止まって、すぐ対応できないなら、おちおち発注してられないってことですよ。日本のあっちこっちが停電するなら、都内の同業者に仕事を取られたみたいに、どんな会社も今度は海外に仕事を取られますよ。そのとき日本製は品質がいいなんて言ってられないでしょう。納期内に必要な量を納められるところしか、誰も信じませんからね」

「中国やインドでは停電が珍しくないと言いますが?」

「それでも仕事があるという意味ですか。それは人件費が安いからじゃないですか。高いし納期に不安があるなんて国が相手にされると思いますか」

翻訳事務所の外部スタッフ(個人事業主)として自宅で翻訳業をしているかたは、翻訳や翻訳のための調べごとに PC が不可欠なため計画停電中は仕事ができず、停電中の基地局の影響かインターネットを使用した納品ができない状況になるため、断らなければならなかった案件が多々あったと言います。もちろん影響は如実に収入に現れました。
「紙とペンの時代なんて、とっくに終わってます。パソコンが使えない翻訳者は使い物にならないので、大先生以外は淘汰されたんです。どこもインターネットが当たり前でパソコンがなければどうにもならないようになってます」

「ノートパソコンを持って、Wi-Fi が入る場所へ行くとか無理なんですか」

「落ち着いて仕事ができないことを我慢するとしても、守秘義務がある案件を外へ持ち出すことに不安があります。不安がない人もいるかもしれませんけど。

もし何かがあって、その会社の秘密が漏れるようなことがあれば、誰がどの翻訳を担当しているかわかっているので、責任を取らなければなりませんが、個人が責任を取れるようなものではないと思います。それに、その会社から発注がなくなるだけでなく、間に入っている事務所からの信頼もなくします」

大規模な工場でさえ自家発電装置が万全でなかったので操業停止を余儀なくされ、中小規模への影響は言うまでもありませんでした。

数時間の停電とはいえ、停電前に落としたシステムを復帰させるにはたいへん手間取ります。電気炉を使用している工場では、熱源だけでなく冷却水の循環も不可能になるため、計画停電中は大幅な生産計画の見直しをせざるを得ませんでした。だからといって取引先は納期が遅れることを許しません。

停電を回避するため夜間操業に切り替えた工場もあります。夜間に操業するため近隣住民の理解を得ようと挨拶周りをしても苦情がすくなからず入り、あとすこし計画停電が長引いていたら工場存続の危機だったと言う工場主がいます。

また従業員に夜勤をさせるには深夜勤務の手当を支払わなければならず、かといって請求に手当分を上乗せできる状況ではなく、経営が危うかったとも言います。

「朝になって従業員を帰したあと、できあがった部品を取りにくるトラックがあるから、(私は)工場に残ってました。取引先や銀行とのやりとりなんかも昼間ですし。ほとんどまともに寝られなかったですね」

従業員も慣れない深夜勤務だけでなく、日中に自宅で睡眠を取ろうにも計画停電が行われる日はエアコンが使えず睡眠不足がつらかったそうです。

計画停電中は区域内の信号が稼働しなくなります。

警官が手信号で誘導する交差点は限られていて、他はドライバーと歩行者の判断に通行がゆだねられた状態になります。

適切な譲り合いも見られましたが、他者を思いやらないドライバーによる車同士の事故や危険な場面、無謀な横断をしようとする歩行者、横断するタイミングをつかめない老人など、混乱をきたしました。

また人づてに聞いた話としては、コインパーキングが停電で機能しなくなり、停電前に駐車した車を出せなくなったそうです。自宅や勤務先以外の計画停電のスケジュールは把握しきれるものではないので、このような事態は珍しくないかもしれません。

ここまでに挙げた事例くらいのことなら我慢しろと言う人もいるかもしれません。では次のような事例はどうでしょうか。

ホームヘルパーを派遣する会社を経営している人によれば、数時間とはいえエアコンを使えず体調を崩した老人がすくなくなかったそうです。中には、体調を崩したことがきっかけで亡くなられたかたや、持病を悪化させ夏はどうにか乗り切ったものの秋以降に亡くなられたかたがいました。

「元気な人が平気なものが、お年寄りにとっては地獄と同じっていうのはいろいろあります。でも、元気な人は想像できないんですよ。昔と今では、風の通りも気温もいっしょではないですよ。エアコンは贅沢は大間違い。命綱です」

老人たちには、他の人たちが停電なのに自分たちが電気を使うのは遠慮しなければならないという意識がすくなからずあり、エアコンを頑として使いたがらない者が多かったと言います。健康維持のためヘルパーはエアコン使用を勧めましたが、いやがる利用者を押し切ってスイッチを入れる権限はありません。

「熱中症になっちゃうよとエアコンを点けるように説得してスイッチを入れても、ヘルパーが帰るとすぐ消すみたいなんです。天皇陛下も節電してるのよ、と言うお年寄りもいました。これで何かあったとき自業自得だなんて、担当のヘルパーも私も言えません」

蒸し風呂のような部屋でつらいのは老人だけでなく、そこで介護などをするヘルパーにとっても苦しく厳しいものでした。この会社ではヘルパーの移動は駐車場所を問わない自転車や原付バイクが多く、炎天下を数軒かけもちして事務所に戻っても節電のためまったく涼しくありません。スケジュールに穴をあけられないためヘルパーは体調を崩しても働き、ダウンしたヘルパーの代わりに社長が自らの担当に加えいくつもの家を回らなければなりませんでした。

もちろん停電によってエレベーターやエスカレーターは停止しました。健康な人でも階段の上り下りはたいへんですが、怪我をしている人、病気の人、体が不自由な人はかなりの苦痛を味わいました。

計画停電と関係なく動いていた鉄道ですが、節電しないのかと声が寄せられた影響で駅のエスカレーターを停止させた例があります。

「楽をしてはいけないって風潮だったんですよね。それと、計画停電されて家の電気が止まってる人の中に、電気で動いているものへやっかみ(妬み)があったと思います」と前出のホームヘルパーを派遣している会社の人は言います。

大病院は自家発電でなんとか乗り切ったところもありますが、発電施設を持たない診療所は通常の診察が困難になりました。大病院であっても、もし自家発電に事故があれば、電源を必要とする医療器具で生命を守られている患者は死亡しかねません。

たとえこのような患者がいないとしても、電源が確保できなければ検査と医療行為の一部は不可能になります。診療報酬点数および領収書などを PC で管理しプリンターで発行している診療所、同様の薬局がほとんどですが、これらが稼働できないため診察や調剤ができなくなりました。

このため計画停電前に患者が集中し、電力を必要とする検査や治療が必要な患者は停電時までに診察を受けられなければ、停電が終わるのを待たなければなりませんでした。

また冷蔵庫に保管されているワクチンなどは数時間の計画停電を乗り切ったとしても、それ以上、停電が続けば使用不可能になることがあります。

比較的幸いだったのは診療所の多くが、もっとも暑い時刻が午後の休診時間と一致していたことですが、午後の休診時間以前に計画停電があれば丸一日、休業とせざるを得ない場合もありました。また、午後の休診時間を長く取らなかったり、まったく取らない診療所もあります。

「うちの診療所はエアコンを止めるとすごく暑くなって、自分が汗だくになるくらいならまだしも、患者さんに我慢しろと言えない状態だったので、待合室で待たせるなんてできませんでした。扇風機だって動かないんだから。

計画停電の予定表を入り口に貼って休診時間を知らせても、よその(計画停電のスケジュールが異なる)街の人や、急に悪くなった人は暑い中をやってきて、やっていないとわかるとがっくりしゃがみ込んじゃう人もいました。だから夜のうちに氷をいっぱいつくっておいて、ビニール袋で氷嚢を用意したり。野戦病院みたいだった日もありますよ。

これでもまだいいほうだったかもしれません。あれでは何があっても不思議ではなかった。普通ではないんですよ。異常だったんです」

報道によれば、医薬品の工場では一瞬の停電でも無菌状態が損なわれ滅菌完了まで一ヶ月を要するとのことです。

計画停電でさえ、この有様だったのです。

たとえ人が死んだとしても、しかたないと言えるでしょうか。

そして、計画停電を行いさえすれば総停電は起こらないという保証はありません。計画停電を実施しても、需要が計画通りに収まらない可能性はあります。火力などの発電所が故障により停止する可能性も否定できません。
なにかと批判を浴びるパチンコ店が全店休業したからといって、必要な電力がまかなえるわけでもありません。
これが計画停電の実情です。

ここに挙げた例以外にも様々な不都合が生じていたことでしょう。

東北、北海道では、夏場より冬場に危機が訪れるかもしれません。
これらに対して、計画停電で乗り切れたのだから電気は足りている、とするのは暴論です。

都市も産業も医療も労働者も弱者も、綱渡りをしたのが計画停電があった昨年の夏の首都圏なのです。

ホームヘルパーが証言しているように、事前に予告され計画通りに実施された停電でさえ人が亡くなりました。このほか、怪我をしている人、病気の人、体が不自由な人といった弱者へのしわ寄せも無視できないものがあります。

電気は足りなかったのです。

それとも、電気がない江戸時代はもっと苦労していた人がいて、もっと人が死んでいたのだから、それでいいのだと言うのでしょうか。

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