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大量生産・消費から少量生産・消費への転換こそが、「豊かさ」を維持するための方策 - 「賢人論。」第106回(中編)河合雅司氏

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自治体同士の「住民の奪い合い」に勝者はいない

みんなの介護 これから人口減少や高齢化が進んでいくのに、トンチンカンな政策が行われているのはなぜでしょう?

河合 みんな変化が嫌なのでしょう。これまでのやり方で成功してきているのだから、それを1年でも長く続けたいわけです。未来に待ち受けている危機から目を背けて、「2019年現在の社会」を維持しようと無理を重ねているからでしょう。

企業だけでなく、地方自治体も同じです。市区町村が現状の定住人口を維持しようとして、他の地域と足の引っ張り合いするというのも意味のないことです。

国際都市の京都市ですら例外ではありません。観光都市として、歴史的な街並みを守ることを目的に2007年に新景観政策を導入し、市内に建てる建物の高さを規制しています。ところが、この規制を一部地域で緩和しようとする動きが起こっているのです。

その背景には、子育て世代などの市外への流出が拡大し、市内に住んで働いてくれる人が減ってきたことへの危機感があります。

みんなの介護 京都市の子育て世代の市外流出は、なぜ起こったのですか?

河合 建物の高さを規制したことで、マンション建設が自由に進んでこなかったことが主な原因です。

これに加えて訪日外国人観光客が急増して中心市街地でもホテルの建設ラッシュや、民泊目的で高級住宅地の物件が高値で取り引きされて地価が高騰したことも影響しています。

高さ規制は、手頃な住宅の建設だけでなく、オフィス不足も加速させているため、広いオフィスを確保したい企業などは京都市の郊外へと出ていかざるをえなくなってしまったということです。こうした状況に危機感を募らす気持ちもわからないではありません。

ただ、規制緩和は、一時的には人口流出を食い止めることができるかもしれないけれど、市内に高層ビルやマンションが建ち並べば、「千年の都」としての魅力は大きく損なわれるでしょう。

一度、壊してしまった景観を元に戻すことは、容易ではありません。これからは日本全体で人口が減るのだから、「住民の綱引き」にいたずらに参戦するよりも、観光都市としてのアイデンティティの維持にエネルギーを注いだほうが、長期的には生き残っていけるでしょう。

京都市に限らず、人口が減ろうとも、世界の中で「なくてはならない存在」になることを目指したほうが、豊かさは維持しやすいのです。

高齢者たちが互いに助け合える社会をつくる

みんなの介護 ところで、都市政策といえば、河合さんが『未来の年表』で提言された「大学連携型CCRC」はとてもユニークで、実際の政府の政策として法制化されたそうですね。

河合 大学連携型CCRCは、もともとアメリカに導入されているもので、これを私が日本型にアレンジしたものを、当時の石破茂地方創生担当相に直接提言したところ、大変に興味を示してくれたのです。私自身、内閣官房に設置された有識者会議の委員として議論に参加しました。

残念ながら、政府が政策として具体化したものは、私のイメージしていたものとはかなり違ってしまいましたが。CCRC(Continuing care retirement community)とは、中高年齢の人が元気なうちに地方に移り住み、地域住民や多世代と交流しながら生活を送り、必要に応じて医療・介護を受けられるコミュニティのことを指しますが、これを大学のキャンパスを中心に展開するというのが私の提言でした。

私は、ターゲットとして想定したのは、定年を具体的に意識しはじめる50代から60代前半の人たちでした。地方で第二の仕事に就きながら、大学で学び直す。単に地方に移住するのではなく、同じようなキャリアを積んできた人々が集まり住むコミュニティを作ることができないかと提言したわけです。

大学という場なら、中高年者と若者の世代を超えた交流も自然と生まれますし、敷地内に大学病院直結の分院や介護施設があれば、将来的に体が弱ることになったとしても不安もやわらぎます。

しかしながら、有識者会議の委員には福祉分野の専門家たちも多かったので、すでにかなり年老いた人をイメージした議論へと引っ張られてしまいました。

みんなの介護 大学のキャンパスを舞台にすることで、いろいろな問題が一石二鳥で解決しそうですね。

河合 CCRCに限らず、地方移住というのは、移り住む人にワクワク感がなければ進みません。アメリカのCCRCの場合、富裕層向けに商業施設やゴルフ場など、豪華な施設や設備を備えたところもあります。みんな老後生活を「第二の青春時代」のように満喫しているのです。

政府の議論の内容が、すでにかなり年老いた人の施設づくりというイメージで伝わってしまったため、CCRCに対して自治体の首長などから「地元に高齢者が増えるだけで得にならない」といった〝姥捨て山批判〟が起こったのは残念でした。

しかしながら、今後は各地で高齢者が増えるわけです。高齢化する前から老後を考えて住民同士がお互いを助け合う仕組みをいち早く構築しておけば、社会の変化への対応力を身につけることにつながるはずです。

日本はこれまでにも、公害問題や交通戦争など、時代ごとにいろいろな社会的課題がありましたが、みんなで知恵を絞って乗り越えてきました。いまの日本でも、危機をチャンスに変える余地はまだまだあると思っています。

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