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人口は国家の要諦。社会保障は「人口の問題」なのです - 「賢人論。」第106回(前編)河合雅司氏

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日本の少子化の大きな要因は、「未婚・晩婚化」です

みんなの介護 その後も下がり続けた合計特殊出生率は、1989年に「1.57」になり、丙午(ひのえうま)という特別な理由で低率となった1966年の「1.58」を下まわりました。このことは「1.57ショック」としてマスコミでも大きく報じられましたが、もし、このとき、団塊の世代の人たちの子どもである団塊ジュニアが第三次ベビーブームを起こしていたら、そういうことにはならなかったはずです。なぜでしょう?

河合 1989年は、第二次ベビーブーム(1971~1974年)で産まれた最初の子どもがまだ18歳ですから、この時点では第三次ベビーブームは起こりません。第二次ベビーブームのる団塊ジュニア世代というのは就職氷河期にあたったことに加え、この頃から女性の社会進出の流れが強まったこともあって、未婚や晩婚・晩産が一挙に進みましたので、第三次ベビーブームは2000年代まで待たなければなりません。

実は、厚生労働省の人口動態統計における出生数の年次推移のグラフを見ると、2006年から2008年のところに、極めて小さな脹らみが見られます。ここの出生数が増えたのは、晩婚であった団塊ジュニア世代の女性たちが、30代後半になって〝駆け込み出産〟したことが大きな要因です。私はこの3年間が幻となった第三次ベビーブームだったのではないかと考えております。

みんなの介護 これは、日本人口会議の「子どもは2人まで」宣言の副作用と言えそうですか?

河合 現在に至る出生数の下落を考えますと、この時の政策判断が日本の大きな転機になったといえるでしょう。

日本の少子化の要因は、夫婦が生涯にもうける子ども数が減ったことと並んで、そもそも結婚する人が少なくなったこともあります。未婚者が増えれば出生数が減るのは当然です。さらに、晩婚も進みました。その結果として起こる「晩産」も大きな要因です。

第一子が産まれて、次の子どもをどうしようかと考えたとき、すでに女性が高齢出産と言われる年齢に達していたとすると、妊娠しにくくなったり、子どもが成長するまでに定年退職を迎えるといった収入面での悩みを抱えたりして、第二子、第三子を産みにくくなります。

みんなの介護 団塊ジュニア世代は成人になる前後にバブル崩壊に遭遇し、就職氷河期を経験しました。フリーターや派遣労働者といった非正規雇用者がこの年代に多いことも、未婚・晩婚の原因になっているのでは?

河合 もちろん、非正規雇用の問題は深刻な要素で大きな要因ですが、正規雇用の人たちの間でも未婚・晩婚が起こっています。「子どもを持たない」という価値観の広まりや、子どもが欲しいと思っても、子育てと労働の両立をしにくい社会になってしまったということもあって希望する子ども数を断念したという夫婦が増えたことも作用しています。

日本は戦後70年余をかけて子どもの数を減らしてきたわけですが、ひとたび進んでしまった少子化を止めることは難しいのです。なぜならば、過去の少子化の影響で、今後は母親となり得る若い女性の人数も減っていくからです。出生率が多少回復したところで出生数が増えることはありません。

人口減少は「静かなる有事」。問題の深刻さが理解されていない

みんなの介護 河合さんは産経新聞社で記者をしていた2015年に発表した『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)では、明治維新以降の歴史をひもといて、日本の少子化がどのようにして起こったかを一次資料をもとに詳細に分析しています。この著作に限らず、かなり早い時期から日本の人口問題に警鐘を鳴らす記事を書かれていましたが、どんな動機があったのですか?

河合 私は30代には首相官邸の記者クラブに所属していて、政治の中枢から日本の政局を見てきましたが、政治部内の担当替えのローテーションの一環で厚生労働省の記者クラブに異動し、政策取材に軸足を移したんです。

小泉政権の時代ですが、年金問題に端を発し、日本の社会保障に大胆な制度改革を迫られた時期でした。2004年に年金、2005年に医療、2006年に介護という具合に毎年のように大きな制度改革があって、そのたびに国会も空転し、世間の注目も浴びました。

それまで貧困者や高齢者といった困窮した人たちを支える社会保障や福祉政策といえば、政治課題としては片隅に追いやられていたのですが、そのようなテーマがこの時期、いきなり政局の中心に躍り出て、与野党の大きな争点になったのです。この頃が、少子高齢化が日本社会にさまざまなひずみをもたらし始めた時期だったということなのでしょう。

人口は国家の要諦であるわけですが、年金も医療も人口の変化によってさまざまな課題が噴き出してくる。まさに社会保障は人口の問題なのです。もともと学究的なタイプなのですが、人口問題、社会保障に関するさまざまな統計資料や学術書などを読み込みました。

結果として、「これは国家の存亡の危機であり、あらゆる政策課題につながる課題である。決して、社会保障の問題に矮小化してはいけない」ということに気づいたのです。

みんなの介護 人口問題について書かれた河合さんの記事には、どんな反響がありましたか?

河合 いくら「国家の存亡の問題」と書いても、「そんな先の話をしている暇はない」という雰囲気でしたね。みんな目の前の課題、仕事に必死なわけです。政治家や官僚、経済界の中には注目してくれる人もいましたが、全体的には「無視」と言って良いほどのものでしたね。

合計特殊出生率が過去最低の「1.26」にまで下がり、厚生労働省の人口動態統計で初めて人口減少が確認されたのは2005年のことですが、1989年の「1.57ショック」のときと同様、多くのメディアが大々的に取り上げました。しかし、この話題も一過性に終わり、政府も対策に本腰を入れるに至りませんでした。

日本社会が陥る「ダチョウの平和」

みんなの介護 日本の政府、および国民はなぜ、少子化対策に関心を示さないのでしょう?

河合 少子高齢化とか、人口減少というのは、日々の生活に大きな変化が見つけづらいからでしょう。変わりがないからなのではないでしょうか。

「ダチョウの平和」という言葉があるのをご存知ですか?

危機が迫ってくると、頭を砂の中に突っ込んで現実を見ないようにするダチョウの習性を使った比喩です。実際のダチョウには、そんな習性はないそうですが、日本の人口減少問題では、それと同じことが起こっているように思います。

みんなの介護 そんな中、講談社現代新書の『未来の年表』シリーズがベストセラーになったということは、時代がようやく河合さんの危機感に追いついてきたのかもしれませんね?

河合 そうだといいなと思いますが、私はいまの状況を楽観視していません。

私は日本の人口減少を「静かなる有事」と名付け、警鐘を鳴らしてきましたが、その静けさにかき消されて問題の深刻さを把握していない人がまだまだ多いと思っています。これからもっともっと、警鐘を鳴らしていかないという状況には変わりがないです。

みんなの介護 では、これから日本で起きる人口減少と高齢化による最悪の事態はどうしたら防げるのか?ということについて、次回のインタビューでは語っていただくことにしましょう。

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