記事
  • Dain

GDPがどういう値なのか、ちゃんと理解できていますか?

1/2

数値化されるということは、標準化された手続きによって計測・集計できるから、そこに人の思惑や裁量が入り込む余地なぞ無い、と思っていた。

ところが、GDPについては違うらしい。

『GDP 小さくて大きな数字の歴史』を読むと、GDPがどういう数字なのか、実はちゃんと理解できていなかったことが分かる。

あまりにも馴染み深い言葉なので、皆その意味を考えてみようともしないという。「GDPとは何か」について聞き知っていても、「GDPがどうやってできているか」については、ほどんどの人は理解していないらしい。テレビで語っているエコノミストも然りだという。

本書によると、GDPは、国の経済状況の大まかな指標値ではあるが、国の面積や平均気温を測定するのとは訳が違うという。自然現象を測定するような客観的なものではなく、人の判断が入り混じった、思惑や裁量によって左右される数字だというのだ。

 

恣意的なGDP

GDPとは何か? 国内総生産(Gross Domestic Product)の略で、ある年に国内で生み出された付加価値を合計したものだ。基本的な考え方として、「国内で使われたお金を全部足したもの」を元にGDPが計算される。

その定義と求め方は、国連が作成した国民経済計算体系(SNA)にある。それをExcelか何かで計算すりゃいいと思いきや、722ページという長大なものになる(プラス、解説とマニュアルが400ページ)。

なぜ計算がそんなに膨大になるのか? ここに着目すると、面白いものが見えてくる。計算する要素としては、売上高、輸送費やマージン、税金、輸出入、在庫増減、中間財、政府へ販売した分などがあるが、それをどう扱うかが、非常に複雑なのだ。

GDPのあいまいさ

たとえば、「消費」と「投資」の境界があいまいだという。一般人が10年使う車は「消費」だが、企業が2年使うソフトウェアは「投資」になる。在庫の増減は、意図的だろうと結果そうなったであろうと、「投資」扱い。

さらに、「国内で使われたお金を全部足したもの」から引くべき中間財の計算方法が厄介になる。インフレ率、季節変動の調整や政府支出など、それぞれ計算が違う。支出と収入は原則として一致するが、データの出どころが年次、月次、サンプルなど多種多様に異なっており、寄せ集めた結果が一致することは決してない。結果、統計的差異はかなり大きなものになる。

たとえば、貧しいと言われているアフリカの経済について。10年前の使い物にならないウェイト調整でインフレ率を計算していた例がある。正しいウェイトで計算しなおしたところ、実質GDPの値が跳ね上がったという。実は、サハラ以南のアフリカ経済は、ここ20年間、正式な値の3倍のスピードで成長していたというのだ。

なぜ、不正確なウェイト値を長いあいだ使い続けたのだろうか? 政府の単なるミスに帰着してもいいが、見かけより低いGDPは、「貧しいアフリカ」というイメージを演出する恰好のエビデンスとなり、援助機関からより手厚いサポートが得られるかもしれないと考える理由となったことは想像に難しくない。

あるいは、サービス分野が弱い点について。小売店からオンラインショップへの移行をどう計算するか、家事労働や政府支出、金融サービス、研究開発費はどこに含めるのかといった境界の問題が発生している。こうした境界をどこに引くかによって、GDPは数パーセント変わることもある。

[ロイターの世界こぼれ話]にある、売春や麻薬取引をGDPに含めるかという議論が面白い。EUの算出基準では、売春や麻薬取引をGDP計算に含めるよう求めているが、フランスは拒否し、イギリスとオランダは受け入れている。これにより、イギリスは1%、オランダは0.4%もGDPが押し上げられるという。

GDPの計算に何を入れて、何を入れないかという問題は、政府の思惑や恣意性が強く反映される。いつ定義を変えるかというタイミングも重要だ。GDPだけで比較することは、かなり乱暴な議論だというのは明らかだろう。

イメージ戦略としてのGDP

こうした不確定さに加えて、定義の変更が加わる。

サービス分野の弱点を補うため、GDPの計算において、商品の「質」の変化を入れたり、サービスにおける「生産」の定義を変えている。

たとえば、商品の「質」の変化については、ヘドニック指数による調整が紹介される。パソコンやカメラなどは、技術革新によって著しく性能が向上している。言い換えるなら、同じ性能のパソコンの値段が、昔と比べて下がっていると言える。価格だけで計算するなら下がってしまうため、性能などの質を考慮した計算方法が必要になる。

あるいは、サービスについて。そもそもGDPは物質的な生産を重視する考え方から始まっているため、サービスは例外的に扱われていた。ところが、サービス業の比重が大きくなるにつれ、無視するわけにはいかなくなった。

特に金融サービスで流通するお金は莫大で、2008年より生産的な活動として計上されるようになったという。あたかも、製造業者が原料から価値ある製品を生み出すように、銀行はリスクをとることでより高いリターンを「生産」しているという考え方だ。

こうした定義の変更により、面白い現象が見られる。もともと世界経済で傑出しているのがアメリカ合衆国だが、同時にこうした定義の変化をいち早く取り入れることで、諸外国に比べ、より有利な計算方法でGDPを算出している。

米国は2008年にこの制度を導入したことで、金融危機による世界経済の冷え込みの中、金融サービスがGDPを大幅に押し上げるという、矛盾した(でも正当な)結果になる。アメリカ経済の「強さ」は、こうした変化に柔軟に対応することで、自国により有利なイメージを見せる戦略にも裏打ちされているのだ。

あわせて読みたい

「GDP」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    ベトナムで低下が進む「親日度」

    WEDGE Infinity

  2. 2

    Amazonと違う楽天の「送料無料」

    自由人

  3. 3

    クロ現のプレゼン特集は「最悪」

    メディアゴン

  4. 4

    よしのり氏 ヤジ糾弾は魔女狩り

    小林よしのり

  5. 5

    山本太郎氏を利用する立民に呆れ

    田中龍作

  6. 6

    迎撃魚雷の実用化が進まない背景

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  7. 7

    メルカリのOrigami買収判断は謎

    やまもといちろう

  8. 8

    会社「脱退」ムーブメントに期待

    常見陽平

  9. 9

    自民のヤジ 謝罪要求は筋違いか

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  10. 10

    SW新作から見える米社会の変貌

    WEDGE Infinity

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。