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ビデオ判定「VAR」はジャッジの敵か味方か ワールドカップレフェリーの見解は【インサイド・フットボール 第2回】

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世界中を熱狂させるスポーツ、サッカー。その舞台裏ではいったい何が起きているのか。サッカーライターの森雅史氏による新連載「インサイド・フットボール」がスタート。第2回では、Jリーグにも導入が決まったビデオ判定システム「VAR」はサッカーそのものを変えてしまうのか、第1回に引き続き、ワールドカップのレフェリーも務めた上川徹氏の見解を聞いています。

Jリーグのファウル数は減少傾向 選手側もアドバンテージ重視に

ここ数年、ファウルの数は減ってきています。毎年そうですし、まだシーズンの途中ですが今年のデータを調べてもファウル数は減っています。

【J1リーグ〜J2リーグのファウル数】※J3リーグは2016年と2017年、2018年で試合数が違うので除外

2016年ファウル総数 22,425回 総警告数 2,082回 総退場数 70回
2017年ファウル総数 22,822回 総警告数 1,973回 総退場数 60回
2018年ファウル総数 22,595回 総警告数 1,795回 総退場数 61回

反則が減少している理由はいろいろ考えられます。

まずポゼッションサッカーの指向が主流となり、相手と接触しないようにプレーしているチームが増えたという理由が考えられます。また、ファウルがあっても選手はプレーを続け、倒れなくなったとも言えるでしょう。

JFAトップレフェリーグループ シニアマネジャーの上川徹氏 撮影:浦正弘

選手が倒れないでプレーを続けていると、レフェリーは笛を吹かないで試合を続行させられます。試合を見ていると、レフェリーが手のひらを上に向けて自分の前に伸ばし「アドバンテージ」を適用していることを示すシグナルを多く見かけるようになりました。

レフェリーは「アドバンテージ」のシグナルを出して、ファウルがあったことを分かっていながら笛を吹かずプレーを続けさせます。そのままプレーを継続することで攻撃側にとって止めるよりも利益になるとの判断です。2018年ルヴァンカップ決勝、湘南vs横浜FMの、湘南の先制点がいい例でしょう。



湘南の選手は味方がファウルを受けながらもプレーを続け、結局はゴールを決めました。ファウルがあったので、副審は旗を振って反則があったことをレフェリーに知らせています。レフェリーは一度笛を口に持っていきましたが、吹きませんでした。

「そのままプレー続けることで湘南が利益を得る」と試合の流れを読んでアドバンテージを取り、実際にゴールになったのです。こうやって自分の読みがピッタリ当たると、レフェリーも鳥肌が立つことがあります。レフェリーの醍醐味の1つですね。

また、ファウルの数が減ったのはレフェリーの技術が上がって、ファウルではないプレーをしっかり見極められるようになったというのも要因でしょうし、選手がレフェリーに協力してファウルをしないようにプレーしていることもあると思います。

毎年、Jリーグの開幕前にJ1リーグからJ3リーグまでの全チームを訪れて「スタンダード」と呼ばれる判定基準を説明するのですが、2年前の説明会では選手と深い議論をする機会がありました。

そこで言ったのは「アドバンテージを適用してもいい場面で、選手が倒れて、すぐ反則を大きくアピールされると、実際には接触もあっているのだからレフェリーとしては笛を吹かざるを得なくなってくる。そうするとアドバンテージの適用は難しい」ということです。

そういう議論を経て、今はファウルが起きてもレフェリーへのアピールも少なくなってきたと思います。そのおかげでアドバンテージを適用しやすくなりましたし、選手もプレーを続けてくれるようになりました。試合を見ていて、いい場面でプレーが途切れる数も減ってきていると思います。

レフェリーはいつも試されている

ただし、全体のファウル数は減っていたとしても2019シーズンはいくつか目立つジャッジングがありました。たとえば2019年5月17日の浦和vs湘南では、ゴールに入ったのに見逃されたという場面がありました。



ボールがゴールの中のネットに触れており入っているのは明らかでした。大きなミスだったと思います。

ミスが起きるのは、「審判員のポジションと争点との角度が悪くて見えない」という原因がほとんどです。あるいは、視野外で起きているトラブルやファウルだったということもあります。それからこの場面では、レフェリーのそれまでの経験が影響を与えました。

私たちは実際に見たことで判断しなければならないのですが、それに加えて積み重なってきた経験からプレーなどの予測もします。こういうふうにボールが動いたら、こんなことが起きているという予想もするのです。それが先入観ではないにしろ、思い込みになってしまうことがあります。

この場面ではボールが右のポストに当たって、左のネットに当たって外に出てきました。普通だったらゴールに入ったボールは、ネットに当たってそのままゴールの中に留まります。それが外に出てきた。私たちも驚きました。

なぜ外に出たのか。これは左もポストに当たったのではないか。ぼんやりと「入ったかもしれない」と思ったのに、外に出てきたから「これは入っていない」と思ってしまう。それは経験が邪魔をしてしまったのでしょう。ただ、ボールがゴールに入った瞬間、レフェリーの前には選手が立っており、その事実を見ることができませんでした。シュートが蹴られた瞬間にレフェリーがポジションをもう少し左に移動できていれば、ゴールに入ったことが確認できたかもしれません。

浦正弘

他にもレフェリーにとっても予測外ということは起きます。レフェリーがジャッジを下すときに必要なのは、その瞬間だけの話ではありません。試合にはプレーの組み立てがあり、いろいろな流れがあります。レフェリーはすべてを予想しながらポジションを取ります。

ですから突然パスミスで相手にボールが渡ってしまう場面ではレフェリーも慌てます。予測しながら動いているので、急に逆チームのボールになると正しいポジションが取れなくなってしまうのです。そのためジャッジをミスする確率が上がってしまいます。

私たちも失敗から学ぶというのがとても大切だと思っていて、なぜミスが起きてしまったのか、そして改善するために何が必要かをレフェリーと振り返るようにします。たとえば、次のプレーへの予測が難しくプレーから遠く離される時には、副審との協力がより重要となり、レフェリーチームとしてどのようにして正しい判定を下すか、研修会などを通じてミスを次に生かすようにしています。

それでも予測もできないハプニングに対応するというのは、様々な事例を共有していたとしても、その場にならないと本当に対応できるかどうか難しいですね。頭でわかってはいても、研修したことを出せるかどうか。レフェリーはいつも試されています。

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