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ワールドカップレフェリーに聞く 伝説のファウルと誤審の関係【インサイド・フットボール 第1回】

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世界中を熱狂させるスポーツ、サッカー。その舞台裏ではいったい何が起きているのか。サッカーライターの森雅史氏による新連載「インサイド・フットボール」がはじまります。第1回では、過去のワールドカップで話題になった数々のジャッジは「誤審」だったのか。そしてJリーグにも導入が決まったビデオ判定は今後のジャッジにどのような影響をもたらすのか。ワールドカップのレフェリーもつとめた上川徹氏の見解を聞いています。

世界トップクラスのレフェリーが集まるワールドカップでも「誤審」は起きる。そんな「誤審」を防ぐため2018年ロシアワールドカップから導入されたビデオ判定(VAR:ビデオ・アシスタントレフェリー)が、日本でも2020年J1リーグから本格的に導入されることになった。

何台ものカメラが映し出す映像は、レフェリーが見えていなかった部分をしっかりと捉える。そのために「誤審」は減ることになるだろうが、同時にこれまでレフェリーにすべて委ねられていたジャッジの権限と権威を奪い去ってしまうかもしれない。

はたしてビデオ判定はレフェリーを助けることになるのか、あるいはレフェリーを貶めることになってしまうのか。過去のワールドカップで話題になったジャッジを例に、自らもワールドカップで笛を吹いた、JFAトップレフェリーグループシニアマネジャーの上川徹氏に話を聞いた。

JFAトップレフェリーグループ シニアマネジャーの上川徹氏 撮影:浦正弘

日韓ワールドカップで話題になった「あのジャッジ」は誤審ではない

過去の「誤審」という話題でいえば、2002年日韓ワールドカップのときに問題になりました。私はその大会で選ばれて審判団の1人になっていましたから、どちらかというとレフェリーサイドの見方をしますが、ああいう扱われ方をするのは悲しかったですね。八百長などできる環境ではなかったし、日頃はもっと厳しい環境の中で笛を吹いているレフェリーばかりでしたからね。

たとえばベスト16の韓国vsイタリアでいうと、フランチェスコ・トッティが延長前半13分の2枚目のイエローカードで退場になり、レフェリーが非難されました。

1枚目の前半22分のプレーはジャンプして相手の顔を手で叩いています。これは明らかな警告に該当するプレーでした。私は2枚目はイエローを出しても出さなくても、どちらでもよかったと思います。

2枚目はシミュレーションだったのですが、あの当時の競技規則は、今みたいに「コンタクト(ボディコンタクト)がないのに、あったように見せかける」ことがシミュレーションというのではなく、「コンタクトがあってもそれを利用して欺くように倒れる」のもシミュレーションだと規定されていたのです。

ですから試合の後にレフェリーが浴びた批判として、「コンタクトがあったのだからシミュレーションではない」というのがありましたが、まずそれは間違っています。また、トッティはPKを取りにいく選手としてマークされていたのは間違いないでしょう。欺こうとしているように見えたかどうかという判断はレフェリーに委ねられているので、反則を取っても取らなくても、そこはレフェリーが決めることなのです。

2002年日韓W杯、イタリア代表のエース・トッティの退場は物議をかもした Getty Images

また準々決勝のスペインvs韓国では、延長前半2分にスペインのゴールが決まったものの、その前のクロスがゴールラインを割っていたと判断され、得点が取り消しになりました。これが「誤審」だと写真も出回りました。

ところが、実は真横からの映像がないのです。みんな中央からの映像や写真ばかりで、その角度では本当はわからないはずなのです。また、レフェリーの傾向として、どちらかというと安全に判断したいという心理もあります。そのため、本当はラインを完全にオーバーしなければプレー続行なのですが、まだラインにかかった状態でも思わず旗を揚げるということがしばしばあります。

この判定はさほど難しい状況でもありません。それなのに旗を揚げたということで、私はボールが空中でゴールラインを割っていた可能性は十分にあったのではないかと思っています。

しかもあのときテレビカメラは1試合あたり20数台入っているのですから、そんな映像を探せばよかったと思うのですが、そういうのは出てきませんでしたね。もっといえば、あの当時の映像のクオリティでハッキリ見えたかどうかも疑問です。今は解像度が上がっていて、指が一本動いているとか、細かな部分まで映ってくるので、もう逃れられないと思います。

マラドーナ「神の手」でもレフェリーに非難が集まる

そして誤審といえば、1986年メキシコワールドカップ準々決勝、アルゼンチンvsイングランドのディエゴ・マラドーナのハンドリング(ハンド)がありますね。空中に浮いたボールをマラドーナがGKと競り合いながら頭の上にあげた手に当ててゴールしました。

あれは意図的な反則ですし、試合後にマラドーナが「神の手」と自ら認めているので、私はマラドーナが非難されてもいいと思います。ところが一緒にそのときのレフェリーが非難されました。マラドーナはその後の6人抜きで名声を取り戻しましたけど、レフェリーにはその機会がありませんでした。

1986年メキシコW杯、マラドーナの「神の手」ゴールは世界中を騒がせた Getty Images

もし1986年や2002年にVARがいたら、まずマラドーナのハンドは確実にわかったでしょう。スペインのクロスがゴールラインを割っていたかどうかも判明したと思います。トッティのケースは、競技規則が変わっているので今だったら誰も反則に取らないと思います。ですからVARは介入しないでしょう。

私も誤審の思い出があります。Jリーグの試合を担当するようになった1年目のことで、今でもよく覚えています。

攻撃の選手がラインの裏に抜け出し、独走になりかけた場面です。攻撃側の選手は相手をブロックしようとして一瞬スピードを落とし、追いかけてきた守備側の選手と接触して2人とも倒れました。そのとき、私は自信を持って「攻撃側の選手がファウルを誘った」とイエローカードを出しました。

ですがあとで考えると、本当だったら得点機会の阻止で守備側の選手にレッドカードを出さなければいけないケースでした。試合が終わった後に副審から「あれはディフェンスの反則にしたほうがよかったよ」と言われて「そうですか……」と冷や汗をかきました。

当時は無線システムもないので、試合中に副審から情報をもらうこともなかなかできませんでしたから、今よりもはるかに難しかったと思います。また他にもいろいろミスはあったと記憶しています。

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