記事

知られざるサッカー北朝鮮代表の現在【インサイド・フットボール 第3回】

1/2

世界中を熱狂させるサッカーの舞台裏を解き明かしていく森雅史氏による連載「インサイド・フットボール」。第3回は、2010年にはワールドカップ出場も果たした、サッカー北朝鮮代表の秘密に迫ります。

2019年1月のアジアカップでは3敗で姿を消した朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)だったが、ワールドカップ2次予選では躍進をみせている。現状はグループ4位ながらもトップのトルクメニスタンとは勝点差1、勝点8は韓国と並ぶ。

2019年はFWハン・グァンソンが20歳でイタリア・U-23ユベントス入りを果たした。躍進する北朝鮮サッカー界では何が起きているのか。朝鮮民主主義人民共和国サッカー協会外交担当副書記長として、東アジア地域の各協会との外交を担当している李康弘(リ・ガンホン)氏に話を聞いた。

北朝鮮サッカーの外交を務める李康弘氏 撮影:神山陽平/Backdrop

代表監督交代後の苦戦 北朝鮮サッカーの現在

2019年1月のアジアカップではレバノンに1-4で敗れていました。そのレバノンと2019年9月に戦った、2022年カタールワールドカップ・アジア2次予選、初戦のホームゲームが大きかったと思います。平壌で開催されたゲームでしたから選手たちは一層まとまっていて、それが当たりました。

試合内容で言うと五分五分でした。私は現役のとき「運がよかった」「運が悪かった」とは言いませんでしたが、実際にはうまくいっていても負けるときは負けます。この日は逆に我々にツキがありました。

ワールドクラスのシュートが2回決まりましたし、相手のPKもストップすることが出来ました。正直に言うと「引き分けでも上出来」と思っていたのですが、それ以上の結果を出すことが出来たのです。

アジアカップのグループリーグ敗退からは回復してきたと思います。大会で不調だった原因としては、まず2018年の監督交代があるでしょう。2016年から代表監督を務めていたヨルン・アンデルセン監督が2018年に退任し、金永峻監督が就任してチームのスタイルを変えるにあたり、まだ新監督の考えが浸透していなかったのです。

その混乱が残る2018年11月に2019年E-1選手権(東アジアサッカー選手権)の予選が開催され、香港に得失点差で負けて本大会出場を逃すという失態をさらしてしまいました。敗退の影響を引きずってしまってコンディションを上げられなかった中で迎えたのがアジアカップでしたね。2人のFWの調子も悪かったのですが、それを補えなかったというのは層が薄いとも言えるでしょう。

アジアカップでは警告や退場も多くなってしまいました。我々は本来反則が多いチームではないと思います。小さいころから汚いプレーをするなと教え込まれるからです。ですが当時はチーム状態が悪かったため、ファウルが多くなってしまったのだと思います。

コンディションが悪くて相手に付いていけませんでしたね。一歩遅れ、二歩遅れてチャージするのでファウルになってしまっていました。我々の分析官もそういう見解でした。そして反則の多さが結果にも繋がってしまいました。

ケガをしても「英雄」? 韓国との試合がエキサイトするワケ

そこでアジアカップ後に何人かのメンバーを入れ替えてワールドカップ予選に臨むことになりました。また予選には3人のヨーロッパ組、FWハン・グァンソン(U-23ユベントス・イタリア)、FWパク・クァンリョン(ザンクトペルテン・オーストリア)、MFチョン・イルグァン(FCルツェルン・スイス)、Jリーグの李栄直(リ・ヨンジ/東京V)も呼んでいて、非常にいい影響を与えてくれています。

10月のホーム平壌で開催された韓国戦にも0-0で引き分けました。チャンスもありましたが、6:4かそれ以上でゲームを支配されたと思います。ただ韓国は朝鮮のハードタックルを警戒していたと思いますね。ケガを怖れて腰が引けてました。

我々はケガしても、それで「英雄」ですから。そういうプレーで何回か揉めました。また、お互いの言葉が通じるというのもエキサイトした原因でしたね。多少の方言はあっても何を言っているのかわかりますから。

日本は我々から言うと「外国」ですから、日本との関係は外交問題で考えられます。でも南北は外国ではないから、もっとプライドが絡んでくるのです。

その韓国戦は無観客試合になりましたが、今は非常に微妙な関係ですから、無用なトラブルを避けたという感じです。韓国の選手は無観客という状況に戸惑ったと思います。お互いの声とホイッスルがこだまする中でプレーするというのはめったにない経験だったでしょう。我々には無観客試合の経験があるのですが、勝つため無観客試合にしたというわけではありません。

元々我々は現在のレベルではあると思います。ただ我々は強くないとも思っています。レベルとしてはアジア2次予選を突破出来るかどうか、何とか最終予選に進みたいという実力でしょう。

44年ぶりのW杯出場後にあった体制変更

今もここから最終予選に進出出来るかどうかギリギリのところですね。ただ、2010年南アフリカワールドカップの予選もこういう感じでした。最終戦の微妙な判定にも助けられて1966年以来のワールドカップ出場を果たすことが出来ました。

その2010年ワールドカップのあとに、国内でサッカーの体制が大きく変わりました。それまでは体育省の中の一部門にスポーツ課があって、その下にサッカー協会があったのですが、それが変更されました。

スポーツ課は今でも国体などを担当しています。ですが、すべてのカテゴリーの代表チームに関しては、サッカー協会に大きな権限を持たせてもらえるようになったのです。独自に判断出来る範囲が広くなったので、いろいろな大会に参加する決定などがスピーディーに出来るようになりました。

2010年のW杯では強豪・ポルトガルとも対戦した Getty Images

特にアジアサッカー連盟は募集から締め切りまでの期間の短いことが多く、それまではエントリー出来ないことが何度もあったのです。そういう部分では改善が進みました。

また、2013年には平壌に「国際サッカー学校」を創設して、全国の若い選手を見て回って優れた選手を集め、毎年発掘した選手をチームに加えつつ伸びていない選手を外すという強化を行ってきました。

この1期生がハン・グァンソンです。その結果、2014年にU-16アジア選手権で優勝し、2015年U-17ワールドカップに出場するとベスト16まで進出しました。また、2016年アジア選手権では日本と同じ3位でした。ハン・グァンソンは18歳になって半年もせずカリアリ(イタリア)に加入して、そのまま世界のサッカーを経験出来たのです。

ただ、現在の強化策がすべて素晴らしいと楽観的ばかりには見られないと思います。我々の方針は間違ってないでしょう。ですが国際サッカー学校で15歳まで育って、いい選手にはなるのですが、そこからクラブに入ると伸びが鈍化するのです。

社会制度の影響で「真面目」なプレーヤーが揃う

ユース世代で結果を出した選手たちが、我々の思うほど伸びているかというと、そうではありません。ハン・グァンソンと一緒にプレーしていた選手たちは国内の強豪チーム「4.25」に所属してプレーしていますが、次第に特長が感じられなくなる部分もあります。

我々には「クソ真面目」なプレーヤーが揃っています。たとえば勝っている場面でも、交代の場面では全力で走ってくる。時間を稼げばいいのにと思われるかもしれませんが、そういう教えは受けていません。

もっと「やられたらやり返す」という気持ちもあっていい。ただ、社会制度自体がスポーツ選手に規律と道徳を求めてきます。だから理不尽なことにも我慢してしまうことが多いのです。私も歯がゆいところがありますよ(笑)。

そういう部分を「経験不足」と言われることもあります。私はそう思いませんが、ただ「勝負弱さ」につながっている気もします。そしてここからレベルをもう1つあげるためには選手の底上げ、国内のレベル向上が必要でしょう。それがなければ、ユースの後の伸びが期待出来ません。

あわせて読みたい

「サッカー」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    コロナは若者に蔓延? 医師が仮説

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    韓国はなぜ延々謝罪を要求するか

    紙屋高雪

  3. 3

    なぜベーシックインカムに反対か

    ヒロ

  4. 4

    株バブル過熱で短期調整の可能性

    藤沢数希

  5. 5

    秋篠宮夫妻 公用車傷だらけの訳

    NEWSポストセブン

  6. 6

    竹中氏もMMT認めざるを得ないか

    自由人

  7. 7

    斎藤佑樹からの連絡「戦力外?」

    NEWSポストセブン

  8. 8

    飲食店のBGM 感染を助長する恐れ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  9. 9

    貯金がない…京都市を襲った悲劇

    PRESIDENT Online

  10. 10

    医師が語る現状「医療崩壊ない」

    名月論

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。