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票にならない財政再建

消費税率アップに関して私がどのような考え方で臨んでいるか――は、前回エントリを読んでいただいた方にはだいたい伝わっていると思います。が、今回はそこを少し掘り下げて記してみます。



少し横道にそれますが、そもそも私が政治に望んでいるのは、自由な社会と小さな政府の実現です。

政府が必要以上に国民経済に干渉せず、経済は基本的に市場原理で営まれること。政治や行政による恣意的なルールの運用を止め、「誰にでもわかりやすい規制と罰則」を実行し、正直者が馬鹿を見ない社会となること。政府が個別の産業や地域を過剰に保護することなく、健全な競争によって新陳代謝が行われること、などです。

もちろん言葉にするのは簡単ですが、これを達成するには地道で不断の努力が必要と思います。今の日本に必要なのはあらゆる既得権の存在意義を疑い、矯正していくこと。具体的には、政治改革・行政改革・規制改革・税制改革と社会保障制度の再構築です。

中でも最も大きく立ちはだかっている巨大な既得権は、老人向けの社会保障費と正規社員の雇用だと思います。これはきちんと法で規定されていますので、拙速を求めれば憲法違反になりかねない。でも、金額の大きさから見ても社会的な影響から見ても、一日でも早くナタを振るうべきと私は考えます。

これらの改革とともに税制を簡素化すれば、日本経済は持てるパフォーマンスを遺憾なく発揮し、右肩上がりとまではいかないまでも、税収も雇用も総体的に安定するでしょう。




しかしこれは私の考える「あるべき姿」にすぎない。

現実には、すでにある既得権の改革をする以前に、老人向け社会保障費は年額1兆円ずつ上乗せされ、国債の利息だけで20兆円という異常事態を乗り切らねばなりません。40兆円台の税収でこれを賄うのは無謀な綱渡り状態です。

綱渡りの綱が切れかかっているのに、綱の素材がイマイチだとか、渡る人の姿勢を矯正しろとか言っても始まりません。まずそこの綱を補強するしかない場面です。そして、議会制民主主義・議院内閣制の我が国では、増税の意思決定をしそれを実行するまでの時間がどうしてもかかる。ゆっくりやろうとしているうちに選挙があり内閣が倒れてしまえば、また振り出しに戻ってしまいます。

そうした事情があるが故に、どうしても今の段階での消費増税は必要ならざるをえないと思うわけです。ベターとかベストを求めるならいくらでも考えるべき論点はあるけれども、「今日食えるメシがなければ飢えてしまう」時にはそんなことは言ってられません。

「やるべきこと」と「できること」は自ずから違うのです。

 従って、今回の増税に関して私は野田内閣を基本的に支持します。

もし、「それでもやるべきではなかった」というのなら、来年には控えている総選挙できちんと信を問い、そのうえで「消費減税」を掲げる政府与党を打ち立てて実現すればいい。あれだけの「民意」を勝ち得た郵政民営化でさえ政権交代とともにウヤムヤにできるのですから、簡単なことだと思います。

しかし、もし野田政権を倒す選挙ができたとしても、税率を凍結したり元に戻すことはできないだろうと私は踏んでいます。まあそれはやってみなければわかりませんが。



では、私は野田政権の増税に諸手を上げて賛成したかといえば、全くそんなことはありません。自民党の協調姿勢にも大いに疑問があるし、増税反対論をぶっている政治家たちもほとんど信用ならないものだと思っています。

野田総理は増税の必要性を「社会保障の持続性のためだ」と言い、増税分は社会保障に当てると言っています。そのための安定財源であり、財政の持続性が前提だとしています。

一方で、これに賛成している自民党は「国土強靱化法」という200兆円もの土木予算を提唱し、与党内で増税反対勢力が強いのをいいことに自分たちの主張をねじ込もうとしているかに見えます。

そうした動きを見て、「本当に社会保障に全額使うとは思えない。どうせ官僚や土木利権業者にばらまくに決まってる」という見方で増税に反対する人もいるでしょう。



でも私は、野田政権が「社会保障に増税分をあてる」という「約束」を「誠実に守る」ことにも反対です。

現行の社会保障はもはや動かしがたい、膨大な既得権の塊です。その実態は、若者やまだ生まれてもいない将来世代から老人への所得移転です。黙っていても少子高齢化が進展し、それが経済社会に負の影響をおよぼすことがわかっている中で、老人の既得権を守ることは社会の進展を阻害します。

だから私は、今回の増税を「現行の社会保障制度の維持」や「給付の自然増に対応するため」に使うことにも反対なのです。

今回の増税は、土木利権にも老人利権にも中立に役立てることを提唱したい。

すなわち、増税分の全額を過去の借金返済のみにあてがうこと。増税で得られたぶんを新しい政策の財源とせずに社会保障費の増額も極力これを切り詰め、財政を少しでも今よりも建て直すこと――これに注力して欲しいと願います。

財源を何に使うかは、余裕が出てきてから考えるべきことであって、今は「負の財源」を減らすだけにし、次の政権、もしくはその次の政権で本当に必要な政策が検討され合意が得られる時まで体力をつけておくだけでいいのではないか。私はそう思います。



私はこの「増税の使い道」は、個々の政党や政治家にとっては「誰の得にもならない」「誰の票にもならない」、とても旨みのないやり方だと思います。であるがゆえに、これを提言する政治家を私は見たことがない。残念なことに、私と同じ事を言う評論家も知りません。

ひょっとすると私の考えがトンデモ論なだけで一考にも値しないのではないかと心配してしまうのですが、どうなのでしょうか?



過去に「外交は票にならない」と言われましたが、国内に人口ボーナスというフロンティアを失ったいま、日本もこれからは外交上の得失点は票につながるだろうと思います。

しかし、財政再建は等しく将来世代への利益確保になる一方で、現在の我々にとって非常に票になりにくい。これは現在・過去・未来、どの時間軸をとってもそうだと思います。

極端な例を挙げれば、今年何らかの病原菌が流行ってメディアで騒がれ、対策が必要と言われても、その想定被害が一定以下であるならば政府は「必要」な施策をせず、将来に向けて貯蓄する、という姿勢も求められるのです。これは猛反発を食らう可能性があるが、残したお金を必要とする危機が将来に出た時には感謝されます。

人口減少が当たり前となり、税収減が既定路線となりつつあるいま、そうした発想が必要なのではないでしょうか?

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