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「議員辞めろ」「弁護止めろ」の危険性 横行する「危うい正義」その5

丸山穂高議員 出典:丸山穂高Facebook

林信吾(作家・ジャーナリスト)

【まとめ】
・丸山穂高議員の発言、その責任は議席を与えた有権者にある。
・京アニ容疑者に対しても法の精神は曲げてはいけない。
・デュー・プロセス(適正な法執行手続き)を無視した正義は成立しない。

今年5月、北方領土問題をめぐって、日本維新の会(当時)の丸山穂高議員が、

「戦争しないと(戦争して取り戻さないと)どうしようもなくないですか」

などと発言したことは、未だ記憶に新しい。

当人に反省の色が見られなかったことから、野党は議員辞職勧告決議案を提出。与党が賛成しなかったため、可決はされなかったが、その後も同議員に対する世論の反発が高まる一方であったことから、6月4日、

「ただちに自ら進退を判断することを促す」

という糾弾決議案が、満場一致で可決された。戦後の国会において初めてのことである。

ただ、自民党の小泉進次郎議員だけは、

「みんなで糾弾するのは腑に落ちない」

として、棄権している。

いずれにせよ、こうした決議案は強制力を伴うものではないので、当人は今も議員を続けている。日本維新の会は除名されたが、今や「NHKから国民を守る党」の副代表だ。

この頃、公私ともに立て込んでいた私は、残念ながら自分の意見を文章化して発表する機会を逸してしまったが、実は、こうした決議案には賛成しかねる、という立場であった。

丸山議員の発言にはまったく賛成できないが、誰がその責めを負うべきかと問われれば、これは間違いなく、彼に議席を与えた有権者である。次の選挙でちゃんとオトシマエをつければよいことで、憲法で保障された議員の身分を、それこそ「数の力」で奪おうというのは、酒に酔っての放言以上に「議会の品位を傷つける」ことにならないだろうか。

さらに言えば、一度こうした前例ができてしまうと、たとえば天皇制に対して批判的な議員が現れたような場合に、ただちに辞任圧力がかかったりはしないか、との危惧もあった。それは「いつか来た道」である。

実際に戦前の帝国議会においては、1940(昭和15)年2月に、斎藤隆夫という議員が、軍部の横暴を厳しく論難する、世に言う反軍演説を行い、結果的に衆議院を除名されている。大日本帝国憲法の下では、これが制度的に可能であったのだ。ちなみに、当時の有権者は斎藤を支持し、次の総選挙で返り咲いたが。

▲写真 斎藤孝夫氏 出典:国立国会図書館

……というようなことを考えつつ、平成の終わりを迎えた私だったが、今度は新天皇の即位を祝う饗宴の儀において、丸山議員が皇族を巻き込む騒ぎを起こしたと聞いて、腰が砕けた。昭和の時代にはよく言われた、ズッコケた、というやつである。

結婚問題が色々と取りざたされているプリンセスに近寄り、

「彼氏とは最近、連絡とってますか?」

などと話しかけたというのである。

当初これは「またも泥酔して問題行動」などと報じられ、当人は、酒は飲んだが「なにをもって泥酔していたというのか。まったくもって名誉毀損」などと反論していた(『毎日新聞』電子版などによる)。プリンセスへの発言も、

「はぁ?だから何やねん、というレベルの案件」

だそうである(当人のツイッターなどによる)。

私も、そう思う。要するに、本来は酒を飲んではならぬ人間なのに、その自覚がない愚か者で、議員の品格とか大人のデリカシーとか、もはや言うだけ虚しい、というレベルの話である。

この言動は、もちろんマスコミからも大いなる不快感を示され、ある民放のキャスターは、地方議員はリコールできるのに国会議員はそれができないのはおかしい、と発言した。

念のため述べておくと、このキャスターは、

「昔から、やめさせたい議員っているじゃないですか」

という表現を用い、特定の誰かを指すわけではない、とわざわざ断っている。あまりといえばあまりなタイミングではあったが、私としても、ジャーナリズムの大先輩が、

「ロシアや韓国(竹島の問題でも〈戦争発言〉があった)を挑発するのは言論の自由だが、御皇室への無礼だけは許さん!」

などとは、夢にも考えないだろうと信じたい。

もう一度言うが、国会議員の身分は憲法で保障されたものであり、その言動を理由に議席を剥奪するようなことが可能になってしまったら、議会制民主主義の土台が揺らぐ。

もうひとつ、目下私が憂えているのは、京都アニメーションに放火し、多数の死者を出した容疑者だ。重度の火傷を負ったが最新医療のおかげで今や会話ができるまでになり、逮捕も間近であるという。

なにが気になるのかと言えば、この容疑者に関して、弁護をしないで欲しい、といった声が、投書やホームページへの書き込みといった形で、多くの弁護士事務所に寄せられているという。ネットニュースのコメント欄にも、当人が「どうせ(自分は)死刑だ」」と言ってるのに、税金で弁護士つける(国選弁護人のことを言っていると思われる)とか、意味分からん、といった書き込みが見られた。

気持ちは分かる。しかしそれは、やはり「正義感の暴走」だと言わざるを得ない。

私は死刑廃止論者だが、その理由は、死刑は他の刑罰と違って、執行してしまったらもはや取り返しがつかない。無実の人間が死刑にされてしまう可能性を完全に排除できないのであれば、こうした制度そのものをなくした方がよい、と考えるからだ。

もちろん、京都アニメーションの事件について言えば、犯罪事実は明らかなので、この考えを当てはめることはできない、という反論もあり得るだろう。

これまた、反論の趣旨は受け止めるが、同調はできない。たとえ極悪非道という表現でも足りない犯人であり、また現行法下で死刑は免れがたいとしても、

「弁護人つきで裁判を行い、その裁判で有罪が確定した後でなければ、人になんらかの刑罰を科すことはできない」

という法の精神を曲げてはならないのである。

▲写真 放火により全焼した、京都アニメーション第一スタジオ 出典:Wikimedia Commons;L26

別の言い方をすれば、現行法で死刑が認められている以上、国家には死刑を宣告された人間の命を奪う権限があるが、裁判を受ける権利まで奪うことはできない。そして、誰か一人くらいは弁護する人がいなければ、公正な裁判とは呼べないのだ。

誰がなんと言おうと、デュー・プロセス(適正な法執行手続き)を無視したところに、いかなる正義も成立しない。

その一線だけは守り抜くことが、日本が法治国家であり民主主義国家であることの証明になるのである。

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