
出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)
【まとめ】
・認知症で不明になっても安心のまちづくり。
・認知症対策としてメール配信システムや声掛け模擬訓練実施。
・認知症になっても安心して暮らせる町作りが求められている。
住民が老若男女問わず、その地域で生活して良かった。そんな実感を抱けるかどうか。それが地方自治体の使命だと、私は考える。自治体は、安心・安全な環境をつくり、家庭や地域の困りごとを少しでも手助けすべきだ。
「親が認知症」「子どもが家で引きこもり」など、困っている人に目配りが届く。そんな優しい行政こそが、求められている。大きなハコモノを建てたり、派手に立ち回る人ばかりに、スポットライトをあてる行政とは真逆のやり方だ。「優しさ」こそが、行政の大事なキーワードになる。
その意味で、私が刮目しているのは、福岡県大牟田市である。認知症になった人が不明になっても安心できるまちづくりだ。地域ぐるみで見守る。
具体的にはこうだ。家族がまず、警察へ捜索願いを出す。すると、市内の役所や企業、公共機関などに捜索者の情報が配信される。その情報は市民、およそ6500人にも送られる。「愛情ねっと」と呼ばれるメール配信システムに登録しているからだ。登録者は学生から年配の方まで幅広い。実際にこのシステムで95歳の母親をみつけてもらった人はこう話す。
「母親が、早朝5時半ごろ草刈りに行った。15分ほど経って、庭をいつものようにみたらいない。母親は突然いなくなった」。
この人は、警察に届けると、母親はすぐに見つかった。「愛情ねっと」に登録していた人が見つけた。
この母親は認知症だったが、自分の名前を認識しているという情報があった。そこで、登録した人が、名前を呼んだら、「そうです」と答えが返ってきた。一件落着だ。
