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ダルビッシュ有の「YouTuber適性」を高いと判断する理由

YouTuber適性が高いダルビッシュ有(イラスト/ヨシムラヒロム)

2019年は日米通算2500奪三振を達成したダルビッシュ有(AFP=時事)

2004年12月17日にダルビッシュ有投手(左から2人目)は日本ハムと仮契約を結んだ(時事通信フォト)

2006年、プロ野球パ・プレーオフで完投勝利したダルビッシュと決勝打を打った新庄剛志(時事通信フォト)

 MLBシカゴ・カブス所属のダルビッシュ有が、本格YouTuberデビューをしてから1ヶ月が過ぎた。YouTubeチャンネルそのものは2年前から開設されていたが、2019年オフシーズンに入ってから更新間隔が短くなった。10月末に「ゲーミングPC買う」と料理動画を1本ずつアップロードして以降、カメラの前で一人語りをする典型的なYouTuberスタイルの動画を中心に、次々と新作が公開されている。みずからをダルビッシュ世代だというイラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、ときに“ひとり「しくじり先生」”を展開するメジャーリーガー・ダルビッシュ有のYouTuber適性について考えた。

【写真】ダルビッシュ有投手はフォームの研究にも余念がない

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 何気ない会話の中で「何年生まれ?」と聞かれた経験は誰にでもある。そんな時、僕は「1986年生まれの33歳です」と言ったのち「ダルビッシュ世代です」と付け加える。そして、このフレーズを言うたびに自分とダルビッシュが生きてきた33年間の月日について考える。同じ年月なのに濃さが全然違うな、と。

 先月、同学年のダルビッシュがYouTuberデビューを果たした。世間には驚いた人もいたらしいが、ツイッターでのダルビッシュを知っている人からすれば必然の流れだといえる。ツイッターにアカウントを持つプロ野球選手は多いが、ダルビッシュほど熱心にツイートしている人はいない。様々な事柄を発信するダルビッシュだが、他と比べて圧倒的とも言えるのが一般人と絡む回数だ。トレーニングをめぐって論争することもあれば、多様性のあり方について共に考えることも……。

 ダルビッシュのツイートから読み取れるのは「野球選手ではなく人間としてのダルビッシュを知って欲しい」なんて想い。よって、ツイッター以上に想いが届きやすいYouTubeへの進出は時間の問題だった。

 YouTuberダルビッシュは動画投稿の原点回帰ともいえる内容である。動画の撮影場所は自室、撮影スタッフは自分一人だ。カメラの前で自らの考えを独白していく。途中、子供の声や犬の鳴き声が動画の邪魔することもある。照明もなく、テロップも表示されない画面は他のYouTuberと比べて、とことん簡素。正にど真ん中ストレートといったシンプルな動画である。

 初期HIKAKINも暗い部屋でボイスパーカッションを披露していた。世界的企業のAppleもガレージの機械いじりからスタートした。そういったことを踏まえて観れば、アメリカの自宅から配信されるダルビッシュの動画には成功の萌芽といったノスタルジーが薫ってくる。

 全ての動画を鑑賞したのち、ダルビッシュにYouTuber適性の高さを感じた。ダルビッシュはYouTuberに向いている。

「YouTuberの動画はレベルが低い」と言われることが多々ある。「レベルが低い」と評される原因は、動画を楽しむための予備知識を剥いだ点にある。過去、多くの人を楽しませてきた芸能、芸術、文芸といったエンターテイメントは予備知識がないと楽しめないことも多かった。対してYouTuberの動画はその真逆だ。過去のエンタメとは分断された別物である。間口の広さだけを貪欲に追求した末に生まれた全く新しいジャンルだといえる。よって動画内で表現できることも限られてくる。

 極論をいえば、YouTuberが示すべきは自身のパーソナリティーだけ。自分語り、もしくは自らの身体を通して得たリアクション(ゲーム実況も含まれる)だけが求められる。ゆえにYouTuberは総じてオーバーリアクション。感情の起伏を視聴者と共有することに意識を傾ける。

 もちろん、ただの自分語りだけで人気者になることは難しい。語りに独自の色を加えることがバズるための必須ポイント。そういった角度から見れば、ダルビッシュほど特色を持つ人はいない。33年間の人生で、視聴者が体験できない濃厚な日々を積み重ねてきたスター選手である。高校野球で活躍し、ドラフト1位でプロ野球選手となり、今ではメジャーリーガー。自身、語ることは山ほどあると言っている。

 しかし、才能に彩られた人生は光と同じ分量の影を含む。能力が高すぎる人はどうしても一般人から浮く。そんな孤独感がダルビッシュをコミュニケーションへと渇望させる。動画を観た誰もが感じることだと思うが、地位も名誉も手に入れたはずの男はどこか寂しげだ。

 動画内でダルビッシュは過去の過ちについて懺悔していく。高校時代の喫煙、プロ野球選手時代の喫煙とパチスロ、日本ハムファイターズで浮いていたこと……。それこそ、語るべき自慢話は山ほどあるはず。だが自らの栄光について言及することはない。ダルビッシュの動画はさながらひとり「しくじり先生」といった様相。自らの人間性を晒すことで他者に救いを与えている。

 ダルビッシュは自らの口で語ることに喜びを覚えている。過去、メディアによって自身の発言を湾曲された経験も多いと話す。選手自身がファンにダイレクトに伝えることができる時代となった。動画の視聴回数は選手の収入となり、ファンは無料で正しい情報を知ることができる。win-winの構造は完成している。

 今後、ダルビッシュにはアンチをファンに変えていくことへ挑戦してほしい。勝手ながらそんなことを考えてしまった。当たり前だが、転向させることはファンを懐柔するより難しい。そんな時、忌み嫌っているメディアを利用することを勧めたい。彼らは情報を発信するプロである。世間ではいまだにヤンチャなダルビッシュといったイメージが流布している。ダルビッシュもYouTuberとなり知性派となった新しいイメージに更新したいと願っているはず。メディアを巧みに活用すれば、多少なりともその助けになるだろう。

 もし、十代の頃のヤンチャのイメージが更新され、アンチも魅了するような大人のプロ選手になるだろう。その認知によって、「一般人に噛みつくなとかよく言われんねんけど、噛みつかれるから振り払ってるだけやで? だから今度から振り払ってるって言ってくれ」といったダルビッシュの嘆きツイートも減るはずだ。

 そして、現在のダルビッシュといえば動画にテロップをつけることを練習中。今後もますますYouTuber道に邁進していく勢いではある。

●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで月一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)

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