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《東大特任准教授ヘイト炎上》「30代アカデミック男性はなぜイキるのか」 - 古谷 経衡

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〈弊社 Daisy では中国人は採用しません〉
〈中国人のパフォーマンス低いので営利企業じゃ使えないっすね〉

 AI開発などを行う「Daisy」代表で、東京大学大学院情報学環・学際情報学府の特任准教授・大澤昇平氏(31)が自身のTwitterに投稿した内容に、人種差別だという批判が殺到している。24日には東大も「書き込みは大変遺憾」とする見解を発表、28日には対応措置を検討する調査委員会を設置する騒動になっている。

 なぜ若手研究者として活躍している彼はこのような投稿をしたのか。そこから見えてくるものは何か。テレビ・ラジオなど多方面で活躍する文筆家で、『「意識高い系」の研究』(文春新書)の著者、古谷経衡氏(37)が紐解いた。


古谷経衡氏 ©文藝春秋

 東京大学“特任”准教授・大澤昇平の「中国人は採用しない」等のツイッター発言が、「最高学府」東京大学の公式謝罪に至り、大澤の寄付講座のスポンサーが全社降板を発表するなど、事態は拡大の様相を見せている。

 私が所謂「大澤騒動」を俯瞰してみるに、大澤の一連のヘイト発言は典型的なネット右翼そのものである。大澤が30代前半であることを考えると、もはやアラフィフがその主力を占めるネット右翼の中では、かなり若手であるという第一印象を持った。

 今どきの30代前半で、ここまで露骨なヘイト発言を実名と役職を公開して開陳する人物というのも珍しい。ネット右翼界隈での左翼の通称である「パヨク」という言葉を躊躇なく使用するところをみると、“ネット右翼偏差値”は50くらい。つまりどこにでもいる平均的なネット右翼像そのものなのだ。

 ただし、大澤が凡庸なネット右翼と決定的に違うのは、ナルシシズムに満ちた選民意識が見え隠れするところである。自らを「上級国民」と呼称し、自分を批判する者を「下級国民のパヨク」と呼ぶ。このような大澤のナルシシズム・選民意識的差別思想はどこから生まれたのか。

〈異例の飛び級昇進を実現、31歳にして准教授となった〉

 手掛かりになるのは、大澤の唯一の著作、2019年9月に刊行したばかりの『AI救国論』(新潮新書)である。

 本書は、福島高専(高等専門学校)から筑波大学に編入した大澤の「自分自慢」のナルシシズムで全編の約1/3が占められている。さらに大澤は、自身が「最年少の東京大学准教授」であることを何度も書き、なぜに自分がこのような名誉ある地位を手に入れたか、についての自慢が続く。

〈簡単に自己紹介をしよう。私は東京大学の准教授。(略)その後、学内での熾烈な出世争いを勝ち抜き、大学としては異例の飛び級昇進を実現、31歳にして准教授となった〉(11頁)

〈たとえば、優秀な若手を評価する言葉に「若いのに優秀」という文言がある(私もこれまで何度も言われてきた)〉(19頁)

 大澤は本文中で、おそらく意図的に「特任准教授」という自らの正式な役職を「准教授」と置き換えて使用している(ただし批判を恐れてか、ごく一部「特任准教授」という正式名称が登場する)。「東京大学准教授」と「東京大学特任准教授」では、ソ連軍のT-34とイタリア軍の豆戦車ぐらい意味合いが違うが、大澤はおそらく意図的に自分が「東大准教授」であることを繰り返して、権威付けに利用している。

 本書には分かりにくい文章が多く、支離滅裂さは際立っている。後半に登場する一文を引用しよう。

〈原理的に、自律分散型システムは、単一障害点を持たないため安定的に長期運用され寿命が長い点と、自由競争がプレイヤーの進化を促進するという点から、持続的にイノベーションを産むことを可能にしている〉(54頁)

 この一文を読んでこれが何を意味するのか分かる人は、行間を読む能力が高すぎるか、妄想家のどちらかだ。私はこれに似た言葉遣いをする人間を咄嗟に思い出した。東京都の小池百合子知事である。

 ダイバーシティ、アウフヘーベン、ワイズ・スペンディング……。小池は、横文字を多用することによって、中身のない話をさも何か権威的な話をしている様にみせる。いわば「意識高い系」の典型だ。私の考える「意識高い系」を構成する要素は、「実際には何も中身がないが、必要以上に自己を過大に評価して他人に喧伝する」こと。このように大澤は、「意識高い系」と「ネット右翼」が合体した存在である。

 私の知る範囲では、この2つの特性を併せ持つ人は少ない。いわば異形の存在である。なぜなら「意識高い系」は、漠然と多幸的で抽象的な横文字や世界観を好むので、具体的な国名や民族を指して憎悪感情を露わにする「ネット右翼」とは正反対の考え方を持つのが一般的だからだ。

 さらに大澤は、強烈な市場原理主義を信奉している。それはどういうことか。次の一文が象徴的だろう。

〈今生き残っている生物は生存競争というゲームを勝ち抜いた生物であり、脳の仕組みは生存競争を戦い抜くのに適した構造をしているということ、こうしたルールは、市場と企業との関係でも同様であるということである。(略)自然というのは弱肉強食なので、勝った生物だけが生き残るようにできている。生き残れるかどうかは、環境の変化にいかに合理的に適応できるかに大きく依存する〉(12頁)

 これが冒頭の、大澤による「中国人は採用しない=市場の中で非効率な労働者は差別されて当然」という発想の根幹にあると私は踏んだ。ただ、この「生存競争」という考え方は巷にあふれる「ダーウィンの進化論」の誤った解釈そのままだ。

 ダーウィンが言ったのは、生物の競争による淘汰ではなく適者生存による「棲み分け」であった。そして、このダーウィンの進化論を同じように誤解釈し、人間社会にあてはめた「社会ダーウィニズム」(社会的な競争の結果の脱落の肯定)を政策として実行したのはナチスのユダヤ人迫害政策である。

 断っておくが私は、大澤をナチスと同列だと言っているわけではない。ただ、大澤の本を読むと、この「社会ダーウィニズム」的な世界観を日本社会に広げるべきだと説得されているようにすら読めるのだ。

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