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増加するフリーランスが「貧困老人」になる日

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老後、貧困にあえぐ低賃金労働者が増えていく恐れ

そうした状況では、とりわけ今後はデジタル経済の発展により、コスト削減を追求する企業が、インターネットを活用して企業のニーズと個人のスキルを直接マッチングさせるプラットフォーマーを介して、以前は雇用者にやらせていた業務を、低コストで発注できる自営業主の立場で請け負うフリーランスに切り替えるという動きが加速し兼ねない(ギグ・エコノミーの拡大)。

あるいは、社会保険料を回避したい事業所が20時間未満の短時間就労を増やし、生活のために複数の事業者において細切れで働くため、厚生年金が適用されず、老後に貧困を余儀なくされる低賃金労働者が増えていく恐れがある。

そうした動きが広がれば、全体として賃金抑制に作用するほか、シニアの活躍にも足枷になることが懸念される。企業には定年延長などでシニアの活躍を考えるよりも、低コストのフリーランスの活用を優先するインセンティブが働くからだ。

それは、フリーランスというシニアの就労機会を形だけ増やすかもしれないが、低収入で細切れの業務をアルバイト的に請け負うシニアを増やすに過ぎない。シニア活躍のために増えるべきフリーランスとは、職業経験によって確立したプロフェッショナリティーを、発注企業の付加価値創造に活かせるタイプであるはずだ。

そうした望ましい形でシニアがフリーランスの立場で活躍するには、50歳代までに独立を果たしておくことが重要で、年金制度がその選択のディス・インセンティブにならないよう、フリーランスにも厚生年金の適用を拡大すべきである。また、独立準備として副業を行うのは有効な手段であり、その際に年金の基礎となる報酬が通算できるようになれば、本業では短時間勤務を選ぶと同時に副業をはじめるインセンティブになる。

フリーランスへの年金適用のヒントはドイツに

ちなみに、ドイツでは、自営業者は原則として年金保険の強制加入の対象から除外しているが(一般年金保険に任意加入可)、強制被保険者となる一部自営業者が存在する(※2)。

具体的には、独立自営の教育者、看護師、助産師、水先人、芸術家・ジャーナリスト、家内工業者、沿岸業業者、手工業者である。より具体的に見れば、専ら特定の委託者のためだけに業務を行っている場合には「労働者類似の自営業者」とされ、法律に基づき強制被保険者になっている。

強制被保険者である自営業者は、労働者類似の自営業者を含め、原則として保険料の全額を自ら負担する。注目されるのは、芸術家・ジャーナリストのケースで、保険料は芸術家社会金庫が負担するという仕組みが作られている。これは、芸術家・ジャーナリストから保険料の半分を調達し、残りの半分を芸術家・ジャーナリストの仕事を利用する企業の負担と連邦からの補助金で賄うという仕組みである。

この仕組みは、プラットフォーマーを介したマッチング・ビジネスについての被用者年金適用に応用できるだろう。例えば、ネットでの仕事の発注者やプラットフォーマーが保険料の一部を負担するものとし、プラットフォーマーが徴収事務を行うという形が考えられる。

複業者については、合算して適用されることが本来あるべき姿で、まずは、労働時間規制面でも客観的な労働時間の記録が事業主に求められる方向のもとで、複業者が申告すれば複数の事業所がそれぞれ社会保険料を支払うというルールにすればよいだろう。

実効性を高めるため、雇い入れの際に、事業主が労働条件の説明を行う際に、そうしたルールがあることを説明することを義務付けるようにすればよいだろう(※3)。

このように、フリーランスも含めて厚生年金が適用され、複数事業所で働く場合に報酬が通算される仕組みの整備に向けた議論をいち早く開始すべきであり、次回の財政検証までには具体的な改革案を詰めていく必要がある。

(※2)以下は、福島豪(2015)「ドイツの年金保険の適用拡大」西村淳編『雇用の変容と公的年金』東洋経済新報社 に依拠している。

(※3)複業者の申告に任せると、雇われないことを危惧して申出がなされない可能性も十分に考えられる。しかし、説明義務化によって良心的な経営者は対応するであろうし、人手不足が後押し要因になると考えられる。中長期的には、マイナンバーなどの社会的な共通基盤の整備により、所得捕捉を進めていくことが必要である。

もはや年金制度の枠内での改革には限界

以上のようにみてくれば、皮肉な言い方になるが、今回の財政検証の結果の最大のメッセージは、少子高齢化・長寿化が進むもとで、老後の生活保障に向けて公的年金制度がその機能を果たすには、実は年金制度の枠内での改革には限界があることを明らかにしたことではないか。もちろん、マクロ経済スライドの強化など、年金制度の枠内でできる限りの改革を進めることは不可欠である。

しかし、日本経済が直面している人口動態変化のもとでは、年金財政の健全性や世代間の不公平性に焦点を当て過ぎると、加えて年金制度内でできる制度改正に視点を矮小化してしまうと、パイの取り合いに終始し、世代間対立を煽って閉塞状態に陥る。

繰り返し述べるが、少子高齢化・長寿化が進むもとでは、“より高い賃金で”“より長く働く”ことが可能になる状況の創出こそ、今後の日本国民が安心を得るための最大の取り組み課題になる。それを促進するようにまずは産業構造・労働市場・社会保障・税制等のトータル・ビジョンを描いたうえで、雇用政策、産業政策、税制などの見直しと一体的に連動させる形で年金制度改革を行うという、基本的な発想の転換こそ年金制度改革にいま最も求められていることであろう。

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山田 久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所副理事長
1987年京都大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。93年4月より日本総合研究所に出向。2011年、調査部長、チーフエコノミスト。2017年7月より現職。15年京都大学博士(経済学)。法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科兼任講師。主な著書に『失業なき雇用流動化』(慶應義塾大学出版会)
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(日本総合研究所副理事長 山田 久)

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