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「男らしさ」を押しつける時代は終わった おおたとしまさ氏に聞く、男子校教育の現在

教育ジャーナリストとして、多くの教育現場を取材してきたおおたとしまさ氏。『21世紀の『男の子』の親たちへ 男子校の先生たちからのアドバイス』を上梓したおおた氏は、「男らしさ」を押し付ける教育の時代は終わったと語る。多くの親を見てきたおおた氏に、どんな親も悩んでしまう思春期の子どもへの接し方や、教育熱心な親が陥ってしまう落とし穴について聞いた。

「男らしさ」からの解放を目指す男子校

—— 様々な教育現場に触れてきたおおたさんから見て、実際の男子校の中はどんな空気なのでしょうか

校風にもよるので「男子校」とくくるのは難しいですが、最近では学歴や収入、地位などの「男らしさ」から解放されるよう教育しているところもあります。「なぜ勉強するのか?」って、そのようなことだけで判断されないためですよね。

もちろん、進学実績を上げるために「夢のために頑張りなさい」と指導する学校も中にはあるかもしれません。しかし名門校の場合は、どこも受験勉強に特化するのではなく、世の中を見る視点を育む授業に力を入れています。まさに、「自由になるための教育」ですね。校風にもよるのですが、都内の男子校はオタクの子も生き生きしています。やっぱり、共学と違って異性の目がないので、縮こまらずに自由にやっているんです。

話を聞いたおおたとしまさ氏 写真:BLOGOS編集部

—— 男子校の内情をあまり知らない立場からすると、学校の中で学力至上主義やエリート至上主義のようなものがあるのかと思っていました

男子校だからといってそういうことはないと思いますが、あるとすれば、校風で選ばず「レベルが高い学校だから」といって受験させようとする親の子どもが、結果的に上位の男子校に入ってくるからですね。ですから、男子校システムでなくて、どちらかというとお受験システムの問題なんです。

入試とかテストとか、学力を総称した抽象的な意味での「偏差値」の中で、親が上に行きなさいと教育をすると、常に人と比べられる人生に囚われて、そこで勝ち抜くことに生きがいを感じてしまう子がいるんです。そうやって育つと、大人になってからも、「自己責任論」を持ち出してしまうんですね。

—— まさに、受験戦争の歪みですね

「成績が良いからいい子」だとか、「有名校に通っているからいい子」とか、そういう価値観の親に育てられた子どもは、「ありのままの自分」を認められていません。自分には存在価値がないと、無意識に感じているんですね。そういう子どもは、なかなか他人を認めることができなくなってしまう。また、自分が優位な立場にいないと落ち着かないので、人を蹴落とそうとします。受験競争の中で勝ち続けることを求められ続けてきて、「不幸にも」勝ち続けてきてしまった人が陥る罠なんです。

—— 子どもがそういった罠に陥らないために、進学校では実際にどんな教育がされているんでしょうか

基本的に学校は、「君は君のままでいい」と教育しますし、保護者会でも先生がよくお話します。実際に、そこで変わる子、救われる子も一定数います。でも、親の価値観が邪魔しているケースもあります。だから、中学生になったら、親はきちんと子離れすることが大事です。

「親は無力」ということを認めよう

—— 思春期の男の子とのコミュニケーションをどうしたらいいか、悩む親は多いです。子どもとの接し方で気をつけるポイントを教えてください

親がやるべきことは、あんまりないんですよ。思春期になったら、自分のことは自分でできるんです。前提として、子ども自身が「自分で選んで」、「失敗して」、「試行錯誤して学ぶ」ことが大事です。親がレールを敷くのはダメ。結局、親は無力なんです。

BLOGOS編集部

—— ある程度放任でいたほうがいい、ということでしょうか

何もしなくていいという話ではなくて、子どものことをじっくり見ていて欲しいですね。そうすれば「子どもが欲してること」がわかります。子どもの目が輝いたり、悲しくて沈んだ顔をしていたら、同じ表情を返してあげることが一番大事です。「もっとこうしたほうがいいんじゃない?」というアドバイスは関係なくて、「今、嬉しいんだね」「悲しいんだね」と、状況を受け止めることです。共鳴することで、子どもが自分の感情に、自信を持つことができます。

—— なるほど。親の方から導くのではなく、子どもの感情を受けて、反応すればいいんですね

「こういう人になって欲しい」というビジョン自体はあってもいいんですけど、育児書を読みすぎると、何が正解かわからなくなります。だって、正解なんてないんですから(笑)。親も未熟なので、100回くらい失敗したっていいんですよ。シャワーの蛇口をひねりながらちょうどいい温度を微調整し続けるように、親としての感性を磨き続けることが大事です。そうすれば、思春期でも「今は放っておいて欲しいんだな」「じっくり話を聞いた方がいいんだな」というタイミングがわかります。親のほうから子どもにああしなさいこうしなさいというのは、間違っていますね。

教育は「親がいいと思うものの中から選ばせればいい」

—— いま小さなお子さんを抱えていて、今後どのような教育をしていけばいいのか迷っている親御さんもいると思います。どうやって子どもにあった教育方法を見つければいいでしょうか

子育て・教育においてはっきり言えるのは、「親がいいと思うものの中から選ばせればいい」ということです。もちろん最終的には子ども自身が好きなことを選べるようにできればいい。でも、小さいうちは判断力がないですから。子どもは、親のチョイスの中からセレクトするしかないんです。

—— 好きなものを選んでいいとのことですが、判断材料はどうやって用意したらいいと思いますか

不安から、つい「私が知らない選択肢があるかもしれない」と焦って情報を集めすぎてしまいますが、手元のカードの中から選んでもなんとかなりますよ。結論から言うと、どんな教育を受けても、子どもは育つ。「なにか他にも可能性があるかも」と苦労して選択肢を増やしても、成功率が上がるわけではないですからね。

いろんな情報を集めて比較検討して論理的にやるより、適当に「これだ!」と直感で選んでいいんですよ。決断前にあれこれ考えるよりも、選んだものをやりきって頑張って、納得するようにすればいいんです。

—— 選択自体より、決めたあとのほうが大事なんですね

驚いてしまうんですが「自由に生きてくれたらそれでいいんですよ、早慶に行ってくれれば」「ウチは医学部に入ってくれればそれでいい」っていう親御さん、本当にいるんですよ(笑)。自由とは「何に価値があるか」を自分で考えることです。あれもしていい、これもしていいと行動の許可をもらうことが自由なのではなく、人からなんと言われようが、選んだ道を堂々と進めることが自由です。

BLOGOS編集部

「子どもに対する不信頼」をベースにした子育ては避けるべき

—— 本作では「21世紀のいい男の条件」として、家事・育児分担やパートナーのキャリアを犠牲にしないことがあげられていますね

ジェンダーの非対称性は、世の中のいたるところにあります。現状はすべての教育現場で、人権教育をカリキュラムに組み込むことはまだ難しい。普段の生活の中で、お父さんお母さんが旧来のジェンダーにひっぱられない話をしていくのが一番の教育です。家庭で「夫婦でパートナーシップのお手本を見せる」ことと、「ありのままの子どもを認める」ことが重要ですね。

—— SNSなどでは、「息子をモラハラ夫にしたくない」というような話も見かけます。男の子の子育てに不安を持つ親はどのようにすべきでしょうか

「子どもを加害者にさせないために」「人様に迷惑をかけない人に育てるために」というのはよく見かけますね。ですが、それでは子どもに対する不信頼をベースにした子育てになってしまいます。これは、教育熱心な親が子どもに対する期待から激しく叱責しまう「教育虐待」とまったく同じ構図です。どちらも、自分の不安を子どもに投影してしまうことに根本的な原因があります。不安になる気持ちはわかりますが、自分の不安と子どもの成長を結びつけるべきではありません。親は子ども自身を純粋に見つめることを大切にしていくべきだと思います。

プロフィール
おおたとしまさ:
教育ジャーナリスト。1973年、東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、育児・教育について取材・執筆をおこなう。近著に『21世紀の「男の子」の親たちへ――男子校の先生たちからのアドバイス』(祥伝社)、『大学入試改革後の中学受験 』(祥伝社新書)など。

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