本年3月の「結愛ちゃん事件」は、国民の心を揺さぶった。これに対し政府は7月20日に関係閣僚会議において「緊急総合対策」を取りまとめ、10月には「死亡事例検証報告」を公表、その中の「国への提言」において、同様の事件の再発阻止に向け、可及的速やかなる体制整備を強く促されている。
しかし、同様な児童虐待死事件は、全国で後を絶たない。
厚生労働省は漸く本年8月より、社会保障審議会の社会的養育専門委員会「市町村・都道府県における子ども家庭相談支援体制の強化等に向けたワーキンググループ」を遅ればせながら立ち上げ、児童相談所改革や市町村等における子ども家庭支援の体制の強化方法、人材育成策などについて議論を始めた。
しかし、実は、私は平成28年の児童福祉法改正直後に児童相談所改革などを議論するワーキンググループを既に立ち上げていた。しかし、私の昨年8月の大臣退任後、そのWGは一時保護の見直しを2回程度行った以外は休眠状態に置かれ、挙句の果てに今年の3月末を持って廃止されてしまった。以来、厚労省においては、28年改正法に検討が明定されていた児童相談所改革等に関して手つかず状態のままだったのだ。要は、結愛ちゃんこそがその事態を動かし、厚労省の重たい腰を上げさせたのだ。
ここは、政治の責任において、繰り返される児童虐待死を断固阻止する決意を持って、従来路線の延長ではない、抜本的な対応策を政府が取るよう強く求める。仮に政府にその意思がないのであるならば、私達は、立法府の責任において、党派を超えた議員立法を持ってでも臨む覚悟を固めている。
可及的速やかなる抜本的体制整備が必要であり、その中身は多岐にわたるが、中でも決して欠いてはならない柱は、以下の3点だ。
まず第一には、「法改正による中核市、特別区への児童相談所の必置化」だ。
平成28年改正児福法は、5年以内に全ての中核市・特別区に児童相談所を設置できるよう、政府は支援する、と規定している。これを受け、東京都の23ある特別区のうち22の区は児相設置意思を表明済みだ。
しかし、54ある中核市にあっては、設置済みの2市を除き、新規児相設置方針を明確にしたのは、明石市と奈良市の2市のみ。他の2市が「設置の方向で検討中」とするが、残り48市は検討中ないしは検討すらしていない状態。中には、我が松山市のように「愛媛県と良好な連携体制が構築されており、深刻な事態に至る前に迅速かつ適切に対応できているため、現時点で設置する必要はない」と、事の深刻さを全く認識しないまま居直る有様だ。
児童虐待の実態がここまで深刻化していることを踏まえれば、この際、法律によって中核市・特別区への児童相談所を必置化し、子どもの命を救う「網の目」をより細かくすることは、国としての現実的な責任ある決断だと思う。平成28年改正時も、私は必置化を唱えたが、事務方が強く抵抗した経緯がある。
しかし、既に法律によって都道府県や政令市には児童相談所を必置にしているし、中核市には保健所を必置にしている。それと同様に、児童相談所を法律によって中核市に必置とすることは、国権の最高機関たる国会が決断し、立法すれば、自治の精神に反することになるはずもない。
平成28年改正の附則では、5年間のうちに全ての中核市への児相設置を展望した書き振りになっており、その5年が経っていない、と言うことを理由に必置化に消極的になる霞が関的な考え方も、子ども虐待の実態における予想以上の子どもを取り巻く環境の深刻度の深まり、悪化ペースの加速等への認識の欠如を示すだけだ。
また、7月の「緊急総合対策」において政府が明らかにした、児童福祉司2000人程度増員に当たり、既存の児童相談所における児童福祉司の増員に止まらず、既存児相の職員の過剰労働を解消し、より質の高い児童福祉を、よりきめ細かく、より広範に実現するためにも、中核市に児相を必置化することが、行政執行能力的にも現実的な選択肢だと思う。
こうした考えを踏まえても、児相設置を中核市に強制することは自治に反する、と主張するならば、他のいかなる方法によれば、子どもの命をより確実に守る事ができる、との有効な代替案を明示することが必要であり、それなしのまま反対だけを唱えるのは極めて無責任だ。
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- 2019年12月05日 18:14