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唯一人の人間をめざすための武器を手にしよう

いい学校を出て、大企業に就職をすれば、バラ色の人生が保障される。弁護士や公認会計士、さらには医者になれば、人生は安泰だ―ということではなく、文字通り実力主義で、自分の才能を買ってくれるところを求める時代がやがて日本にもくる、とかねて言われてきた。そう、今や医者や弁護士がワーキングプアに…。まさにその時期が今到来した。

 瀧本哲史『僕は君たちに武器を配りたい』を読むきっかけは、新聞記事だった。マッキンゼーに勤めた後に投資家とし独立、今は京大で准教授をしながら、特に若者たちに現代を生き抜く考え方を伝授したい、と幅広い活動を展開する。こういった背景を知った上で、この本を手にした。一気に読んだ。団塊の世代が本来はしなければならないことを彼は見事にしている、と高い評価を下したい。

 先日、ある大物政治家と懇談する機会があった。私は、彼に対して、いかに今若者世代が求職に苦労しているか、どれだけ格差社会で呻いているかを語り、大人世代、とりわけ今を生きる政治家の責任を感じると述べた。彼は、格差はいつの世にもあり、今だけ特に若い世代が苦しんでいるわけではない、結構日本はしっかりしている、そういう宣伝をするマスコミがいけないのだと、不機嫌そうだった。

 もろに反論したかったが、歳も経験も大きく及ばぬ身としては、そうでしょうか、と引き下がるしかなかった。現場の最前線を歩くと、全く異種の世界が広がりつつあるように思われる。この本を読み、一層その危機感は募った。だから、瀧本さんは、若者に、闘うための武器を配りたい、と。武器とは、「安易に勉強すれば大丈夫と思うな」とか「全産業でコモディティ化(個性がない)が進んでいる。賃金を下げないためには、コモディティになるな」「生き残るためにはスペシャリティな人間になること。唯一の人になれ」といった40個のフレーズを指す。

 「大学では奴隷の勉強に時間をかけず、自由人になるためのリベラルアーツ(教養)を学べ」「本当の資本主義の時代に、『ほんとうに人間らしい関係』を探っていこう」―最後に示されたこの二つの武器が、45年ほど前の私自身の大学時代を思い出させた。全く勉強をせずに、ひたすらいかに生きるべきか、今悩み苦しむ人をいかに救うか、ばかりに関心を持っていた時代を。いささか、早すぎたのかもしれない。今と違い当時は落ちこぼれでしかなかった生き方だったかも、と。

 最終段階まで読み進めて驚いた。瀧本さんが、人生の価値観を大きく左右された本として吉野源三郎『君たちはどう生きるか』を挙げ、運命の一冊とまで持ち上げているからだ。吉野が「自分の頭でじっくりと物事を考える大人になり、決して希望を忘れるな」と呼びかけているメッセージは今一段と輝いている、と。実は、この本、彼は小中学生の時に読んだというが、当方は大学を出て社会人となった頃に熟読した。こっちは遅かったかもしれない。

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