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個人の自己決定に基づく民主社会を守るため、 デジタル社会のルールづくりを議論する局面

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2019年11月14日(木)
出演者:
山本龍彦(慶應義塾大学法務研究科教授)
水谷瑛嗣郎(関西大学社会学部准教授)
藤代裕之(法政大学社会学部准教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 言論NPOは11月14日、日本の民主主義のシステム診断の第5弾となる公開座談会を、「デジタル社会は民主主義を壊すのか」をテーマに実施しました。

 登壇した慶應義塾大学法学部の山本龍彦教授ら3氏は、ソーシャルメディアやAIといったデジタル技術の進展によって、個人の自己決定に支えられた民主主義社会の前提が崩れ始めているとの認識で一致。今の日本は、個人の自己決定に支えられた民主社会を維持するのか、監視社会へ向かうのか、という分岐点に立っているという認識のもと、データの活用やメディアの競争環境といったデジタル社会のルール形成を本気で議論すべき局面に来ている、との結論に至りました。

 議論には、山本教授の他、メディアに関する法制度を研究する関西大学社会学部の水谷瑛嗣郎准教授、デジタル時代のジャーナリズムのあり方に詳しい法政大学社会学部の藤代裕之准教授が、参加しました。

 初めに、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、今年5~6月に日本国民を対象に行った民主主義に関する世論調査で、デジタル技術の発達が民主主義の未来をどう変えると思うかを尋ねたところ、「ルール化と技術の発展が両立できず、監視社会が強まることで民主主義機能が制限される」との悲観的な見方が、「わからない」を除いて最多となったことを説明。そして、「民主主義とデジタル技術発展が調和できるのか」と述べ、世界、そして日本ではデジタル技術と民主主義の関係で何が起こっているのか、3氏に問いました。

「フィルターバブル」が加速する分極化と無関心

 山本氏は、「フィルターバブル」という、インターネット上のデータによってユーザーの趣味嗜好を予測し、個々人が自分のニーズに合った情報だけを入手している現象を紹介。「自分と異なる考え方に触れる機会が極端に減ることで自分の考えがどんどん極端化していることが、社会の分断を加速する」と指摘し、米国で深まる党派対立もその状況が背景にある、と語りました。

 さらに山本氏は、フィルターバブルがもたらすもう一つの問題として「データをもとに、その人が政治に関心がないと判断されれば、政治に関するニュース自体が排除される」と述べ、世論調査で、民主主義の様々な問題に「わからない」と答える人が特に若年層で多いことは、フィルターバブルに関連しているのではないかと指摘。「若い人は楽しい情報に触れたい意欲が強く、政治のような堅い情報は排除されがちだ。デジタル社会は、政治的無関心を加速度的に進めているのではないか」と述べ、こうした影響は「民主主義にとって危機的な状況」と警鐘を鳴らしました。

 水谷氏はデジタル社会における選挙のあり方について発言。フェイスブックなどの大規模なプラットフォーマーが保有する個人データを分析することで個々のユーザーの政治的志向を特定でき、投票結果を誘導したり操作したりする「デジタルゲリマンダリング」という現象を指摘し、プラットフォーマーが選挙で大きな影響力を持つようになったことは無視できない変化だ、と語りました。

 その上で水谷氏は、「マスメディアを使った従来型の選挙マーケティングは、大衆に同じ内容を一斉に発信することで有権者側に判断が委ねられていた。しかし、デジタル時代の選挙は全く異なる」と指摘。「デジタルデータに基づくキャンペーンはユーザー自身も気付いていない無意識の部分を突くものであり、そのため政治家と有権者の対等な関係が崩れている」と憂慮しました。

操作されていることに無自覚なSNSユーザー

 藤代氏はメディア論の観点から、「危険なのは、こうした変化に市民が無自覚でいることだ」と語ります。

 同氏は「マスメディアには、バランスの取れた報道を担保するための様々な工夫や法規制が存在する一方、SNSではユーザーがフィルターバブルに知らない間に閉じ込められている。しかし、SNSのユーザーは自分が主体的に情報を選択したつもりになっているため、本当は全く逆だが、『マスメディアの報道は偏向しているが、ネットの情報環境は公平だ』と思い込んでいる。したがって、ネットの情報が仮に嘘だったとしても、ユーザーは『メディアが伝えない真実はこれだったのだ』と信じてしまう」と指摘。「マスメディアは大勢が同じ情報を見ているため、誤報や偏った報道があればすぐに明るみに出るが、SNSではスマホの中で一人一人が別の情報を見ており、それに気付かない」とも語りました。

 そして、ロシアや中国、さらにはイスラエルなどが、フェイクニュースで情報ハッキングしていることに言及。ネット上では有権者が主体的に情報を取得する形をとっていることを利用して、嘘の情報が選挙などで流されている問題を指摘し、「嘘の情報で投票が行われるということがあれば、民主主義は成り立たなくなる。それがソーシャルメディア上で起こっている」と述べました。

データの暴走を止めるためには新たな規律が必要

 工藤は、フェイスブックのザッカーバーグCEOが3月に、悪質なコンテンツや選挙の潔白性、完全性、個人情報保護などについて「政府や規制当局がより積極的な役割を果たすことが必要だ」と述べたことを引用し、「こうした声が開発側から出てくるということは、ルールが技術開発に先行しないと、民主社会は技術をコントロールできなくなるという意味か」と問いました。

 これに対して、山本氏は、少なくとも選挙については、一定の規律を政府が中心になって加えていくことは必要とし、「何に対して規制が必要かを企業だけで決めてしまうと、その恣意性が問われてしまうため、政府が民主的に決めていくことが欠かせない。しかし、その議論はまだ進んでいない」と指摘しました。

 また山本氏は、公職選挙法で選挙活動に規制が与えられている理由について、「本来、言論空間には思想の自由市場、つまり、極端な言説がそれに対抗する言論によって自然淘汰されていく仕組みが存在する。しかし、選挙という短期決戦ではそれが働きにくく、フェイクニュースが短期間で有権者に浸透すれば、それによって勝負が決まってしまう恐れがある」と述べました。そのため、「現実空間の規律をネットにも適用するという考え方で、新たな規律を考える必要が出ている」と主張し、具体的には、「戸別訪問が規制されているのは、情実によって選挙結果が左右されるのを防ぐためだが、同様に有権者の情に訴える『戸別訪問のネット版』のような手法があり、規制が必要だ」と例示しました。

 水谷氏は、フィルターバブルがもたらす帰結について、『インターネットは民主主義の敵か』を2003年に著した法学者サンスティーンは「集団分極化」、つまり個々人の考えが先鋭化し、極端な分断を引き起こすと予測していたことを紹介。民主主義で重要なのは、自分を異なる結論を持つ人との合意形成だが、それが難しくなる、と懸念を述べました。そして、極化現象には、公民権運動のような新しい動きを生み出しうるという点でメリットもあるものの、過度な極端化は避けるべきという共通認識は持つべきだ、と語りました。

 藤代氏は、若い人の新聞離れが進む中、新聞社がネットでの課金購読を軸としたビジネスモデルに移行していることについて、「有料購読者にならなければ記事が途中までしか読めないとなると、お金がない高齢者や若者はそういう情報を得る機会を失いかねず、市民は簡単にアクセスできる無料の情報に流れてしまう。これはメディアの経営上は仕方ない面もあるが、民主主義の観点からは大きな問題がある」と主張し、デジタル社会の中でメディアのビジネスモデルをどう考えればいいか、という問題の難しさを語りました。

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