林信吾(作家・ジャーナリスト)
【まとめ】
・政権によるスキャンダル隠しに芸能人逮捕が利用されるとの論争。
・ロッキード事件やリクルート事件では芸能人逮捕はされていない。
・鳩山元首相の安易な陰謀論説は「見当違いな正義感」である。
女優の沢尻エリカが逮捕された。容疑は違法薬物の所持と使用。
来年放送のNHK大河ドラマ(史上初めて、明智光秀が主人公だとか)に準主役で出演することが決まっていて、すでに10本分ほど撮影が終わっていたのだが、これが取りやめとなり、急遽代役に川口春奈が抜擢されたという。
Japan In-depthは川口春奈を応援します!
……などと書く権限は、もちろん私にはないので(編集部の皆様ごめんなさい笑)、あくまでも個人的な意見だが、今の20代の女優の中では容姿・演技力ともにトップクラスだと思うので、このキャスティング自体は、まあこれでよかったかも知れない。誰かの代役からスターダムに登った芸能人は、過去にも大勢いる。
問題は沢尻エリカで、数年前から「実はクスリに手を出しているのではないか」という疑惑が取りざたされていたのに、どうしてまた大河ドラマへの出演などオファーしたのだろうか。さすが天下のNHKともなると、ネットの噂話など相手にしないのだろうか。『週刊文春』も彼女をマークしていたのだが。
念のため述べておくが、彼女を断罪するのが本稿の目的ではない。もちろん入手ルートなどすべて明らかにして、罪をちゃんと償わねばならないが、11月24日に掲載された、『沢尻エリカさんに社会はどう対応すべきか』という記事の、彼女の再起を応援するような社会であって欲しい、という論旨には全面的に賛成である。ただ私の場合、女優の名前に敬称をつけないのは、むしろ好意的な表現だと考えるので、さん付けはしない(彼女が一時期〈エリカ様〉と呼ばれたのは、まったく別の話)。
ではなぜ、わざわざこの話題から始めたかと言うと、実はこの逮捕に関して、ネット上でおかしな「論争」が持ち上がっているからだ。ある芸能人が、
「政治家のスキャンダルが出ると、決まって誰か芸能人が逮捕される」
などと投稿したのが発端で、これに高名なIT企業の社長が、
「こいつ脳みそにウジ湧いてんな」
などと噛みついたことから、両者に対して賛否両論の書き込みが殺到したというもの。
ここまでなら、オタク同士は仲良くしなさいよ、で済ませておける話なのだが、なんとこれに、鳩山由紀夫・元首相までが参戦したとか。もちろん、政権によるスキャンダル隠しだとする側で。
【鳩山由紀夫元首相のツイッター】
沢尻エリカさんが麻薬で逮捕されたが、みなさんが指摘するように、政府がスキャンダルを犯したとき、それ以上に国民が関心を示すスキャンダルで政府のスキャンダルを覆い隠すのが目的である。私も桜を見る会を主催したが、前年より招待客を減らしている。安倍首相は私物化し過ぎているのは明白である。
— 鳩山由紀夫 (@hatoyamayukio) November 18, 2019
これは、笑えない。
ここで言われている政治家のスキャンダルとはなにかと言うと、例の「桜を見る会」をめぐる騒ぎである。
繰り返し大きく報道されているので、今さら詳しい説明は不要だと思われるが、要するに後援者のための半ば私的なイベントに公費(=税金)が支出され、野党が出席者名簿の提出を要求したら、数十分後にシュレッダーにかけられたとか、いわゆる反社会的勢力の人間が招待されて官房長官とツーショット写真まで撮ったとか、たしかにケシカラン話ではある。が、だからと言って、陰謀めいたことまでして国民の目をそらすほどの問題だろうか。私見、今や有権者の多くは、シュレッダーを皆で見学に行ったりする野党に対して、
「他にやることがあるだろう」
というように冷めた目を向けつつあると思うのだが。