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【読書感想】芸人と影

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芸人と影 (小学館新書)
作者:ビートたけし
出版社/メーカー: 小学館
発売日: 2019/11/28
メディア: 新書



Kindle版もあります。

芸人と影(小学館新書)
作者:ビートたけし
出版社/メーカー: 小学館
発売日: 2019/11/28
メディア: Kindle版

内容紹介
芸能と裏社会…やっぱりテレビじゃ言えない

芸能界の光と闇を誰より知るレジェンド・ビートたけしが、「闇営業とヤクザ」「テレビ業界の真実」についてタブーなき持論を展開する。
テレビでたけしが吠えたあの一言、
「オイラたち芸人は、猿まわしの猿なんだ」の真意とは?
今回も公共の電波には乗せられない放送コード完全無視の内容。
ベストセラー『テレビじゃ言えない』を上回る危険度だ!I
第1章 芸人と闇
第2章 テレビの闇、ネットの闇
第3章 ニッポンの闇、政治の闇
第4章 話題の芸能&スポーツ一刀両断

 ビートたけしさんが語る、雨上がり決死隊の宮迫博之さんらの「闇営業」問題。

 宮迫あたりは、これまでも『アメトーク!』(テレビ朝日系)でソコソコ顔が売れてたはずだけど、オイラたち世代のジジイ、ババアがみんな知ってるかといえば、そこまでじゃなかったはずだ。でも、今回の件でニュースやワイドショーに取り上げられて、一気に「国民的」なっちまった。皮肉だよな。

 その結果、「世間を笑わせる存在」だったはずの芸人たちは、「世間に笑われる存在」にまで堕とされてしまう。これは芸人にとって致命的だ。だってそうだろう。涙ながらに「すいませんでした」と世間に頭を下げた人間が、その後に舞台に立ってゲラゲラ笑いを取れるだろうか。世間が、テレビが、ネットが、よってたかって芸人やタレントの「笑い」を殺しにかかっている構図だ。

 宮迫の場合、「カネを受け取ってない」とウソをついたことが騒動を大きくさせた。こんな風に、タレントたちの事後処理が甘いことも少なくないけれど、それにしたってこの風潮は異常だよ。

 いつから芸能人は、世間からモラルを求められる存在になってしまったんだろうか。そもそも、芸人にしたって、俳優や歌手にしたって、そんな立派な人間の集まりじゃない。どちらかと言えばその逆だ。本来はカタギの社会で生きていけないヤクザ者、半端者の集まりが「芸能界」のはずだった。

 『週刊ポスト』の読者のオッサンたちの多くは、「まあ、言われてみればそんなものだよな」と頷くのではないでしょうか。
 そして、これを読んだ若者の半分くらいは、「いつまで昔の話をしているんだよこの老害」と感じたはず。

 こういう「芸能界(や世の中)の理想と現実」を書いても炎上しないのは、著者が「ビートたけし」で、連載されているのが『週刊ポスト』だからなのだろうな、とも思うのです。

 芸能人が反社会的勢力と付き合ったり、仕事をもらったりするのは許されない!詐欺グループの被害者のことも考えろ!
 ……それはまさに「正論」なのだけれど、僕はやはり、ビートたけしさんがこういうふうに語ると「芸能人って、たしかににそんなに品行方正な人ばっかりとは思えないというか、ふつうの生き方ができない人のためのセーフティネットみたいな役割もあるのかもしれないな」とか、考えてしまうのです。

 でも、宮迫さんだったら「許せない」けれど、「たけしさんがそう言うんだったらわかる」っていうのは、「正しさの基準をそれをやった人、言った人によって、変えてしまっている」とも言えます。

 世の中というのは、ものすごく偉くなってしまえば、いろんなことが、ノーカウントになってしまうのかもしれません。
 内閣総理大臣主催の「桜を見る会」に、反社会的勢力の人が混じっていた、なんていうのは、金に目がくらんだ芸能人どころの話じゃないはずですが、多くの人が「大勢招待されたのだから、多少、そういう人が混じっていてもしょうがないよね」というような反応を示しています。あるいは、野党は揚げ足ばっかりとって……みたいな。
 芸能人の「闇営業」があんなに連日テレビで話題になったことを思えば、税金を使って総理大臣が主催した会なら、もっと大炎上してもおかしくない気がするのですが。

 みんなの「正義」というのは、宮迫さんくらいの「叩くとダメージを受けているのが見える人」には発揮されるけれど、「少々叩いてもびくともしない(ように見える)相手は、面白くないから叩かない」というものなのだろうか。

 この本には、「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」での、たけしさんの祝辞が全文掲載されています。
 さすが、というユーモアと毒と敬意がミックスされた内容なのですが、あらためて考えてみると、自分の浮気相手のことを報じた週刊誌の編集部に集団で乗り込んだり、最近は長年連れ添った妻と離婚したりしているというのは、けっして「品行方正」でも、「叩いてもホコリが出ない」わけでもない。
 それでも、たけしさんは、上皇・上皇后への祝辞を依頼されたのです。
 もう「時効」だろう、あるいは、映画監督やバラエティ番組の新しいフォーマットの開発など、さまざまな功績を考えれば、「あのくらいの不始末」は些細なことだ、ということなのか。

 だけど、宮迫にしたって、他の闇営業芸人にしたって、「ここまでは言われなくてもいいじゃないか」という気もする。ニッポンの芸能界がヤクザと共にあったことは関係者ならみんな知っている。その責任を、ここ数年で出てきたような若手芸人におっかぶせること自体に無理があるだろう。
 それに、そもそも「つきあっただけで社会的制裁を受けてしまう」ほどの悪党がなんでのうのうとシャバで遊んでるんだって話でね。カネをもらった芸人を追及する前に、そんなヤバい犯罪者を捕まえずに泳がせてる警察のほうが怒られなきゃおかしいじゃないの。

 結局、ニッポンの政治も、警察も「暴力団や反社会的勢力を撲滅しよう」と口先では言うけれど、本気でやり遂げようとは思ってない。お上が手頃なところで落としどころを見つけてナァナァでやってるのに、芸人くらいが「ヤクザと飲んだ」「一緒に写真を撮った」程度で人生を棒に振ってしまうなんて、どう考えたっておかしいじゃないかってさ。
 そもそもお笑いなんてのは、デタラメの大ウソで笑わせてカネを取る商売で、その点じゃ詐欺師と大して変わらない。そこにあんまり目くじら立てたって仕方がないんだよ。

 よく「芸人は親の死に目に遭えない」って言うよな。客が待っているから、たとえ親が死んでもステージに立たなきゃいけないって意味に取られるけど、間違っている。芸人は親が死んでも平気で漫才ができて、笑っていられるような資質を持つヤツなんだ。「親が死んでも自分は大丈夫」というのが芸人だよ。

 同じ芸事では、役者もそうだ。ウソで泣いて、ウソで笑っている。自分の感情なんてまるで捨てて、いつも舞台に入り込めてしまう。そういう意味で「人でなし」だ。
 お笑いに唯一求められているのは、「客を笑わせること」だ。そのためには何をするべきか、すべきではないかを考えることだ。それが「芸人の作法」につながってくる。
 なのに、世間一般の道徳を芸人に押しつけるから話がおかしくなる。

 これはまさに、芸能界で長年トップの座に君臨しつづけている、たけしさんにとっての「芸人としての矜持」だと思うのです。
 しかしながら、今の視聴者が「芸人」に求めているのは、「何をやってでも笑わせる能力」というよりは、「好感度の高さ」「如才なさ」みたいなもので、「バッシングされるような隙をつくらないのも『芸』のうち」なのかもしれません。
 同じ「芸人」と呼ばれていても、時代とともに、必要とされる資質は大きく変わっているのです。

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