- 2019年12月04日 09:15
なぜ女性たちは「ブラで谷間作り」をやめたのか
2/2セクシーな下着はもういらない——ブラトップと勝負下着
女性たちが求める身体の変化は、当然のことながら、その身体を包む下着にも大きな変化をもたらしている。今までのように、セクシーな下着が売れなくなってきているのだ。それは、日本だけでなく、世界的な傾向であるらしい。
《米国ではセクシーな下着の不人気で「ヴィクトリアズ・シークレット」が毎年恒例のランジェリーショーのテレビ中継打ち切りに追い込まれ、わが国でも一時はセクシーイメージで人気だった「ピーチ・ジョン」の不振でワコールホールディングスが巨額の減損処理に追い込まれて97%の減益(連結純利益、営業利益も58%の減益)決算になり、アツギはストッキングの不振で31億円の赤字(純損失、営業損益も9億円の赤字)に転落した(「今女性の下着に何が起こっているのか」商業界ONLINE)》

米澤泉『筋肉女子 なぜ私たちは筋トレに魅せられるのか』(秀和システム)
華やかでセクシーな下着の代名詞だった「ヴィクトリアズ・シークレット」が2017年1月をピークに勢いを失い、販売不振に喘いでいるというのである。
一方で、アメリカン・イーグルというカジュアルブランドが手掛ける下着ライン「エアリ」は逆に売上げを伸ばしている。ヘルシー&ナチュラルをコンセプトとするこのブランドは、下着もシンプルで飾り気のないものが中心だ。レースやリボンはもちろん、タンガ(Tバック)やガーターベルトなど過剰なセクシーさを強調するアイテムは皆無である。
通販サイトで「エアリ」の下着を身に付けるモデルたちは、セクシーなポーズを取ることなく、ライフスタイルに溶け込むように自然な笑顔を見せている。セクシーからヘルシー&ナチュラルへ米国女性たちの嗜好もここ数年で大きく変化している。
谷間くっきりのブラ「ピーチ・ジョン」が不評のワケ
日本では、2000年代半ばに10代、20代の若い女性を中心に爆発的な人気となった「ピーチ・ジョン」が苦戦している。2008年にはその人気に目をつけたワコールが傘下に納めるほどであったが、結果的にお荷物となってしまったのである。
《「ピーチ・ジョン」の買収には245億2340万円を要したが収益には貢献せず、11年3月期まで計74億8900万円の損失を計上。13年3月期にも27億円、15年3月期にも62億9600万円の損失を計上しているから、今回の56億3900万円を合わせて221億2400万円を失ったことになる。セクシーイメージの下着ブランド買収は時代の価値観やライフスタイルに逆行し、ワコールに巨額損失を強いる結果となった。(「今、女性の下着に何が起こっているのか」商業界ONLINE)》

2019年8月28日発刊分をもって通販カタログ「PEACH JOHN」「SALON by PEACH JOHN」休刊のお知らせする同社サイト
「ピーチ・ジョン」と言えば「ボムバストブラ」など強力なパッドで谷間をくっきりつくるブラジャーや、レースにフリル、リボンなどをふんだんに使ったセクシー&ガーリーな下着で一世を風靡した。しかしながら、人気だった通販カタログも2019年秋冬号をもって休刊することになった。「ピーチ・ジョン」ですら、ブラトップに代表されるヘルシー&ナチュラルな趨勢には勝てなかったのだろう。
ヘルシー&ナチュラルなユニクロのブラトップが人気に
日本では、2008年に誕生したユニクロのブラトップが快進撃を続けている。「ブラを付けるストレスからの解放」と「ブラを付けているかのような安心感」を両立したブラトップは、発売から5年後の2012年にはデザインを刷新し、約110色柄の豊富なバリエーションを展開するに至った。
その後も機能性とデザイン性の改良を試み、CMにも吹石一恵や森絵梨佳など人気女優やモデルを起用することでイメージをアップしたため、今まで「ピーチ・ジョン」を嬉々として付けていたような若い女性たちも、ブラトップの虜(とりこ)になっていった。ゆるっとしたワンピースやデニムのインナーには、やはり快適なブラトップが相応(ふさわ)しかったという事情もあるが、結果的に今ではブラトップは日本女性の必須下着になりつつあると言えるだろう。
他者の視線よりも自分の心地よさを追求する女子たち
このように、世界的にファッションやライフスタイルの流行が、他者の視線よりも自分の心地よさを追求するエフォートレスな方向に向かっているのである。ヘルシーであることが新しい贅沢(ぜいたく)とされ、スポーツやアウトドア的なアスレジャーファッションの人気とも関係している。
クロスフィットトレーナーAYAもブラトップを中心にコーディネートしたアスレジャーファッションを身に纏(まと)っている。彼女はいつもスタイリッシュなブラトップの上にデニムや白いシャツを羽織るのが定番スタイルだ。もちろん、そこからはヘルシーで美しい筋肉ボディが見え隠れする。
ハンサム胸や筋肉ボディが理想とされる中で、下着だけが女らしくセクシーなのは不自然ではないだろうか。女性たちの間で、ブラトップなどのエフォートレスで過剰な女性性を排除した下着が主流になるのも、当然の成り行きだと言えるだろう。今後も、スニーカーのように快適で心地よく、ジェンダーレスな下着がますます人気となってゆくのではないだろうか。
バブル期に登場した「勝負下着」という言葉の意味が変わった

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Anetlanda
バブル期に登場した「勝負下着」という言葉も今ではすっかり意味が変化した。当時は誘う下着、誘惑の小道具としての下着であり、男性に向けての勝負を意味していたが、現在は違う。大切なプレゼンやイベントといった、自分の気分を上げ、モチベーションを高める時に女性たちは「勝負下着」を着るのだ。
より強く、前に進むために女性たちは「勝負下着」を身に付けるのである。その「勝負下着」も、今後はAYAのようにカラフルでスタイリッシュなブラトップになってゆくのかもしれない。
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米澤 泉(よねざわ・いずみ)
甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授
1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』など著書多数。
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(甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授 米澤 泉)
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