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香港デモ、再び激化の懸念 年越しは必至の情勢

選挙から1週間後の12月1日、黒シャツ姿で行進する香港のデモ隊(時事通信フォト)

11月24日の香港区議選の様子。親中国的な建制派陣営の候補者はデモ隊に破壊された中国建設銀行の前で選挙活動をおこなうも、あえなく落選。ちなみに香港では投票日でも選挙活動が可能だ(筆者撮影)

完全に「デモ寄り」の姿勢を明確にした湾仔にあるタピオカ屋。世論の分断が続く香港では、多数派である「デモ支持」を明確にすることで売り上げを伸ばそうとするたくましい店舗も出はじめている(11月25日、筆者撮影)

 5か月以上続く香港の騒乱。当初、平和的に始まった市民によるデモは、いつしか、街の破壊を伴う警察との暴力的な衝突にシフト。いっぽう、11月下旬の区議会(地方議会)議員選挙では民主派が圧勝し、市民は体制側にノーを突きつけた。近著『もっとさいはての中国』が話題のルポライター安田峰俊氏が、デモと政治の嵐に揺れる香港からレポートする。

【写真】デモ隊に破壊された中国建設銀行前で選挙活動

 * * *
 選挙はすごい。ある社会で意見が大きく分かれる問題について市民がいずれを支持するかの答えが、1人1票の投票結果によって一気に可視化されるからだ。それなりの透明性と公平性が確保された選挙であれば、こうして示された「民意」は第三者に対しても強い説得力を持つ。

 去る11月24日、激しい反政府デモの渦中にある香港で行われた区議会議員選挙もそんな出来事のひとつだった。投票率は過去最高の71.23%にのぼり、デモに肯定的な民主派系の候補者が定数452議席のうち約85%の議席を獲得したのだ。香港の区議会選は小選挙区制なので、実際の得票率は民主派系が53%、体制側勢力の建制派系が42%と比較的拮抗していたが、「デモ支持」の民意が明確に示されたことは間違いない。

 周知の通り、香港では逃亡犯条例改正案への反対運動をきっかけに、今年6月から大規模な抗議運動が本格化した。デモの主張は7月に入ると条例案反対よりも政治の民主化や警察の暴力行為への監督強化を訴えるものが主眼になり、警察側の鎮圧が激化した8月末ごろからは、「勇武派」と呼ばれる一部の過激な勢力が香港地下鉄の駅舎や「親中的」とみなされた商店を破壊するなどの荒っぽい行動が目立つようになっていた。

 長引く政治混乱と都市機能のマヒによる影響は深刻で、香港の7~9月のGDPは前年比2.9%減を記録、10年ぶりの大幅な景気後退局面を迎えている。世論は大きく割れ、親政府(≒親中国)的な報道が多い旧来のメディアに多く触れる年配層と、デモを支持するネットメディアやSNSで情報を得ている若者層の間で、深刻な社会分断が起きていることもしばしば報じられてきた。

 ちなみに、世論がデモを支持していることは以前から指摘されてきた。香港大学や香港中文大学による定期的な世論調査では、11月中旬時点でも回答者の6割5分~7割程度はデモに好意的とされる結果が出ているからだ。だが、学術調査とはいえ民間機関による1000人程度を対象にした調査の結果には多少の疑わしさもあった。ゆえに、ほぼ全市民が投票可能な区議選において民主派が圧勝した今回の選挙結果は、圧倒的に強い説得力を持つことになった。

 従来、私は香港のデモには動機に一定の理解を示しつつも、公共施設や商店の破壊行為には批判的な立場で記事を書いてきた。笑ってふざけ合いながら駅に火をつけている勇武派の姿は私自身が現地で目にしたし、同様の話は他の人の証言でも聞いている。

 こうした破壊行為に携わるのは多くが10代の若者たちで、カラーギャング的なガラの悪さを感じさせる人も少なくない。少なくとも一部のデモ隊は、暴力が自己目的化してコントロール不能に近い状態に陥っているように見えた。

──ただ、選挙前後に現地に渡航した際の肌感覚や選挙の結果を受けて、私は評価を多少修正した面がある。

◆デモ隊vs警察の対立は続く

 それを強く実感させたのは、11月第3週に勇武派が複数の大学を占拠して警官隊と極度に激しい衝突を繰り返した後に、10日間ほどピタッと「休戦」したことだ。これはちょうど区議会選前後の期間と一致する。選挙後にはデモや集会が再開されたが、しばらくは以前とは比較にならないほど平和的な抗議運動が続き、それまで荒れ狂っていた過激な抗議はなにかの間違いではなかったかと思えたほどだ。

 こうしたデモの沈静化は当初、激しすぎる大学占拠に市民から「やりすぎ」とみなすムードが出はじめたことや、1000人を越える逮捕者が出て勇武派の力が弱まったこと、逮捕者を通じてデモ参加者の情報が警察側に流出したこと、暴力行為の容疑者に多額の賠償金を課した判決が出ていることなども理由ではないかと思われていた。

 だが、警官側が再びデモ隊に催涙弾を撃った12月1日以降は、再び勇武派が暴れはじめ、彼らがターゲットにしている吉野家や元気寿司などの店舗の破壊も再開された(ちなみに香港の吉野家や元気寿司は日本本社と資本関係がない現地フランチャイズで、運営元の美心集団が「親中的」とみなされたことでデモ隊から目の敵にされている)。

 つまり、香港のデモ隊の暴力行使は、その気になれば停止も再開もコントロールが可能だったということだ。10日間ほどの「休戦」も、別に大量の逮捕者が出たことや厳罰をおそれたことが理由ではなく、民意を示すチャンスの前後に騒ぎを起こさず予定通りに区議会選を実施させる戦略的な判断にもとづく行動だったのである。そういえば過去も、中華圏の祭日である中秋節など特定の日には暴力が停止されていた例がある。

 革命運動のいちばんダメなパターンは暴力それ自体が運動の目的化してしまうことだが、そうならなくても、普通はせいぜい暴力を直接の手段にして、自分たちの要求の実現を図る例が多い。だが、今回の香港デモの場合、どうやら暴力を行使して街を破壊する行為を、政府側との交渉カードにつかっている気配がある。

 政府側がおとなしく言うことを聞くなら抗議運動を起こさないし、警察が鎮圧しなければ抗議は平和的なデモや集会のレベルにとどめる。ただし、警察が催涙弾などを使う過激な行動を取るならば、デモ隊側も道義的によくない行動にあえてゴーを出して政府を苦しめていく。暴れられるのが嫌ならば、政府はデモ側の要求を飲むか、せめて警察の鎮圧をやらせるなという脅しをかけているわけだ。

 デモ開始から5か月以上が経った現在も、香港のデモ隊がこれだけの理性的な判断力とコントロール力をまだ維持していたのは正直に言って意外だった。一部の勇武派による目に余るような暴力行為は、ほとんど制御不能な暴動に見えて、戦略的な目的がかなりの程度まで意識されていたのだ。

 さておき、混乱が続く香港に訪れた約10日ほどの平和は再び破られた。デモ隊と香港警察の感情的な対立は激しく、いちど衝突が再開されれば後は再び激化していくしかない。6月に幕を開けた香港の「長く苦しい夏」は、年越しが必至の情勢だ。

【プロフィール】やすだ・みねとし/ルポライター。1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了(専攻は中国近現代史)。著書に、大宅賞と城山三郎賞をW受賞した『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA刊)、『さいはての中国』(小学館新書)、『性と欲望の中国』(文春新書)など。最新刊『もっとさいはての中国』(小学館新書)が好評発売中。

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