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子育てにおける人生最後の瞬間

 小学6年生の女の子が誘拐され、命に別状なく戻ってきたときに母親が彼女を抱きしめたというニュースを聞く。

府警によると、母親は女児を抱きしめて号泣していたという。

https://www.asahi.com/articles/ASMCS36B7MCSPTIL001.html

 小6の娘を持つ身として安堵するとともに、自分が娘を「抱きしめる」ということは、こうした娘の無事が確認されたというようなケースでもない限り、もはや自分の人生にはないな、と思った。

 娘が保育園の頃、他の子のお母さんが、「この子には高3の兄がいるんですが、この前、その息子から『お母さん抱きしめさせて』というので抱きしめさせたことがあったんですよ〜」という話をクラス懇談会の場で聞いて、「そんなこっぱずかしい要求が」などと思ったものであったが、今になって妙に思い起こされる。

 後になって思い返せば、「あれが人生で最後の子どものハグだった、もうそういう瞬間は人生においておそらくやってこないであろう」という、当たり前だけど、無意味とも思える感慨。

 そんなことを言えば子育てにはそうした瞬間が無数にあるのである。特に異性間の親子の場合。

 娘は手をつないで歩きたがったが、それは小5まだった。小6になった最近はもうない。人生最後に娘と手をつないで歩いた瞬間があったはずで、「今日のいまこの瞬間だ」とは思わずにその日を終えた。

 前に、風呂に一緒に入ることについてのエントリを書いたが、それも同じである。

 オムツを替えたとか、哺乳瓶でミルクをあげたとか、そういうことも「あー、今日のこれが娘のオムツを替える人生最後の瞬間だ」とは思わずにそれを終えた。

 肩車をしている写真があるが、今娘を肩車したらこっちの腰が滅亡してしまう。肩車にも人生最後の瞬間があったはずである。

 そんなことを言えば、別に子どもとの関わりがあろうがなかろうが、人生とはそういう瞬間の連続ではないか、とも思う。

 家族そろって上海に旅行に行くのはこれが最後なのだというような話は言うに及ばず、日常の些事一つ一つがそうではないか。41歳の春だから、という例の歌ではないが、41歳の4月1日は今日が人生で最後なのだという瞬間はあったはずである。

 などという一般論に仕上げてみて、今自分を襲ってしまっている無意味な寂寥感を紛らわせてみるが、やはりどうも子育てにおける「人生最後の瞬間」というカテゴライズに過剰な意味づけの気持ちから逃れられないでいる。

 じゃあさぞかし「これが人生最後の瞬間かもしれん」という一期一会的な気持ちを梃子にして、日々の子育てに全力を挙げていることでしょうね、などと言われそうだが、全然そんなことはない。もう小学校を卒業しようかという、しかも特に今悩んでいるわけでもない自分の子どもに「全力」などで当たったら子どもの方こそいい迷惑だろう。ただぼんやりとそんなしょうもないことに思いふけっているだけの、非生産的な気持ちなのである。

 だからどうしたというオチもないし、特別な気持ちでもない。1年生になってランドセルを買いました、とかいう記事とそう選ぶところのない、子育ての中では掃いて捨てるほどある話である。突然夜中に目が覚めて、カッとなって書いただけ。後悔はしていない。

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