フランスの民放BFMの報道によると国内のシングルマザーの数は200万人以上と日本のシングルマザー106万人(2015年、国勢調査)の約2倍にのぼる。
この数字には出生に占める婚外子の割合が約2〜3%の日本に比べ、フランスでは約60%(2016年、OECD調べ)という高さが背景にあるとみられる。日本では母子家庭の貧困がたびたびメディアなどでも取り上げられるように、フランスでも3人に1人のシングルマザーが貧困ライン以下の生活を送っている。
一方、グローバル・マーケティーング・リサーチ会社Ipsos(イプソス)の調査によると、フランスの70%以上のシングルマザーが「私は今、幸せ」と答えているという。
経済的に厳しくても、自由を確立するために、彼女たちが実践する生活スタイルとは?フランスのリアルなシングルマザー事情に迫った。
シングルマザーの3人に1人が貧困
フランス国内で問題となっているのが、シングルマザーの約3人に1人が貧困ライン以下で生活していることだ。
ここフランスでも、現地メディアで「シングルマザーの貧困」は、日本と同様に社会課題として取り上げられ、シングルマザー=貧困というイメージが根強く残る。
社会学者のアレクサンドラ・ピセン氏は、フランスのシングルマザーの貧困事情について、こう分析する。
「子どもの学校の時間帯に合わせて仕事を探すため、低賃金の仕事に就く。それでも仕事が見つからない場合、彼女たちは失業者となります」
このように失業中や非正規雇用で働くシングルマザーにとって最も苦労することの一つが、新たな住居を見つけることだ。場所にもよるが、公営住宅は需要が高く、申請してから入居ができるまで数年待ちという状況も珍しくない。一方で、収入が不安定だと、不動産会社から部屋を借りることも難しい。
こういった背景をもとに、シェアハウスを選択肢として考えるシングルマザーたちも少しずつ増えているという。そこで、多世代共生型シェアハウスのマッチングサービス「COOLOC(クーロック)」を運営し、自身もシングルマザーとしてシェアハウスを実践するヴァ―ジニー・ペレットさん(44)の自宅に伺い、話を聞いた。
自身の苦境から生まれた「多世代共生型シェアハウス」のマッチングサービス
秋が深まり、ひんやりとした空気に包まれる11月中旬のパリ。高級住宅地として名高いパリ8区にあるアパルトマンのベルを鳴らすと、重厚な木のドアをゆっくりと開け、出迎えてくれたのがヴァ―ジニー・ペレットさんだ。赤絨毯が敷かれた螺旋階段を上り、彼女の部屋の中に入ると、9歳と12歳の娘たちが、ティーカップに温かいハーブティーを注いでくれた。

一見、優雅な生活を送るパリの家族の生活の一コマに見えるが、一般家庭とは異なる点がある。それは、「離婚後の女性同士で、シェアハウスを実践している」ということだ。
ヴァ―ジニーさんは、長女リリー・ジェーンちゃん(12)と次女ヴィオレットちゃん(9)、ブラジル人のマルタさん(40)と一緒に、60㎡の空間に4人で暮らしている。
ヴァ―ジニーさんは、フランス語圏で展開する多世代共生型シェアハウスのマッチングサービス、「COOLOC(クーロック)」の創設者だ。
「COOLOC」のウェブサイトでは、ライフスタイルを問う質問に回答し、プロフィールを登録する。その後、マッチングしたユーザー同士が直接会い、意気投合すると「シェアメイトが成立」する仕組みだ。
フランスの多世代共生型シェアハウスのマッチングサービス「COOLOC」=COOLOCのプレスリリースより
2018年の起業から1年が経った今、2万人以上のユーザーを獲得。ウェブサイトに登録する25%がシニア層、10%がひとり親家庭だという。また、50%が地方在住者だ。
2児のシングルマザーと60代の夫婦がマッチングする例など、幅広い層の人がシェアハウスを実践するという。
社会のニーズに沿った画期的な事業だが、このマッチングサービスをヴァ―ジニーさんが起業したのは、自身のシングルマザーとしての経験がきっかけだという――。

5年前、彼女は苦境に立たされていた。ちょうど離婚したばかりで、2人の娘と3人暮らしを始めた頃だった。高級服飾ブランド本社でマーケティング部の部長として勤務をしていたヴァ―ジニーさんは、責任の重い業務、家事、子育てのプレッシャーが重なり、燃え尽き症候群になった。
「心身の疲労は溜まるばかり。家に帰っても、仕事や教育の相談をできる相手がいない。食卓では会話はなく、娘たちも悲しそうな顔をしていました…」
「このままではいけない」と感じ、他のシングルマザーとシェアハウスをしようと思いついた彼女はグーグル検索をしたが、関連のウェブサイトは一切見つからなかった。
そんなとき、偶然マッチングアプリを目にして、気軽に「住まいのパートナー」と出会える場を作りたいと思いついたという。
しかし、「COOLOC」の起業のアイデアを練っていた矢先、仕事をクビになってしまう。その後、就職活動に励むが、仕事は一向に見つからない。そこで、貯金したお金と、家族や友人に借りた少額のお金をもとに、起業の準備に集中することにした。
「40代でいきなり異業種の、それも起業をすることになりましたが、とても充実感を覚えています。なにより、自分自身を修復しているように感じているんです。『誰かと一緒に住み、助け合う』という私自身を救ってくれたアイデアをもとに、他の人のサポートをしているので」
ヴァージニーさんの仕事内容は、主にシェアメイトの仲介役だ。問題が生じたら仲裁し、場合によっては新しいシェアメイトを紹介する。
また、起業から1年、今秋より大手不動産会社や保険会社と提携し、シェアハウスを実践するユーザーに、ウェブサイト内で空き物件の紹介もスタートする。
収入が不安定なため賃貸の入居を断られるシングルマザーや高齢者たちでも、複数で一緒に暮らすことで、1世帯が解雇などの事情で家賃が払えない場合、最低でも他の1世帯は家賃を払うことができる。そのため、不動産会社も空き物件を家賃全額滞納のリスクを減らし、貸すことができる。
ヴァージニーさんは、このように新たなサービスを展開し続けたいと意気込む。