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「1日200個集荷」佐川急便で2児の母が働く理由

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■女性ドライバーならドアを開ける人がいる

もうひとつ、大きな問題は、「自宅にいても受け取りに出られない人」の存在だ。ベルを鳴らしても、たまたまトイレや風呂に入っている場合がある。また、「夜は怖いから」「すっぴんだから」といった理由で出られない人もいる。在宅と思われる場合でも、受取人が出てこなければドライバーは不在票を置いて、再配達するしかない。この問題はなかなか解決が難しい。しかし、山本が教えてくれた。

「女性ドライバーが配達すると、安心して受け取りに出てこられる同性の方は多いです」

佐川に限らず、業界が女性ドライバーを歓迎しているのは、こういう側面があるからだ。ドライバーが同性ならば、ひとり暮らしの女性も扉を開きやすい。夜遅くでも、すっぴんでも、ドライバーが女性なら安心感があり、抵抗感も小さくなるからだ。

ただ、それでもまだ再配達はなかなか減らない。不在が一度ではなく、次に訪ねても、またいなかった場合はどうなるのか。

配達荷物の保管期限は初回配達日を含む8日間だ(一部サービスを除く)。保管期限を過ぎてしまったら送り主に返送することになる。

女性ドライバーの配達に安心する女性客は多いという - 撮影=石橋 素幸

■相談されたら、まずは「大丈夫ですよ」

では、山本に限らず、佐川のセールスドライバーが大切にしている言葉とは何か。

「『こういう荷物は運べますか?』とお客さまからご相談をいただいたときは、まずは、『大丈夫ですよ』とお答えして、安心していただくようにしています。そしてどのような方法をとれば送ることができるかをお伝えしています。大きな荷物、重い荷物、梱包が難しい荷物でも、だいたいのものは運べるんです。ただし、宅配便の規定サイズを超えたものは、違う料金体系になりますけれど。

宅配便としてお預かりできる荷物は“260サイズの50キロまで”です。これはタテ・横・高さ3辺の合計が260センチまでということですけれど、これって結構な大きさなんです。たとえば、アパレルのお店で洋服を吊るすラックがありますよね。キャスターが付いたラックです。あれも宅配便で運べるんですよ。キャスターに“プチプチ”などエアパッキンと呼ばれる緩衝材を巻いて、ガムテープでしっかり固定していただければ運べます。物干しざおやサーフボードでも、緩衝材で梱包していただければ大丈夫です。

お客さまには、『まずは何でも聞いてみてください』と伝えています。私だってお客さまに尋ねられるまで、運べるかどうかを考えてみたこともないものがこの世にはたくさんありますから」

ちなみに、佐川は金魚など生き物も運んでくれる。ただし、宅配便として運ぶわけではなく、専門の要員が輸送する。

■真夏の町で冷えたペットボトルを渡される

彼女の話を聞いていると、セールスドライバーの仕事は単なる運送だけではないことがわかる。客が「これ、運んでもらえるのだろうか?」と疑問に思っているものに対して、運び方、梱包の仕方をアドバイスすることもまた仕事だ。コンサルティング業であり、接客業でもある。

佐川の現場では、「音を立てないように運ぶ」が合言葉のようになっている。10年ほど前からのことだ。経営者が号令をかけたのではなく、現場で自然発生的に始まったという。

「現場では『音を立てない荷扱い』と言っています。お客さまから荷物をお預かりしたときに、ポーンと音が出るような置き方はしない。音を立てないように、そっと置け、と。そういうふうに心がけていると、お客さまも『ちゃんとやってるな』とどこかで見てくださっているんですよ。今年もものすごく暑い日に台車で荷物を運んでいたら、町で出会ったお客さまから労うようにキンキンに冷えたペットボトル飲料を手渡されました。そんな経験も一度や二度ではありません。毎年夏になると、何度か経験します」

■基本的に「全力疾走」はしない

これまで宅配の現場は男性中心だったけれど、徐々に女性にとって働きやすいように変わっている。佐川を中核会社とするSGホールディングスグループでは2011年から「わくわくウィメンズプロジェクト」を始めた。会社全体で女性社員をバックアップしようというプロジェクトだ。山本は所属する営業所で、その責任者を務める。

「現場の女性社員が集まって話をする機会も多くあります。昔からいる社員に聞くと『ほんとうにずいぶん働きやすくなった。保育園に子どもを迎えに行くのが楽になった』と言われます。私のグループでも、『この人は家庭の都合で、何時には会社を出なければいけない』と情報を共有して、声をかける。私自身、子どものために帰らなければいけないときは、上司に、『今日は何時に帰りたいです、そのあとはお願いします』と言います。堂々と言って、みんなが早く帰れるようにすることが重要です。ですから、セールスドライバーは仕事と保育園のお迎えを両立できるんです」

佐川といえば、体格のいい佐川男子が年中疾走して荷物を運んでいるといったイメージだったが、実際は佐川女子が着実に増えている。イメージは変わりつつある。だが……。彼女たちもまた走って荷物を届けているのだろうか?

「お客さまに『走って届けるんですか?』と聞かれることがあります。でも、私たち、走るときもあるにはあるけれど、基本は全力疾走はしません。お客さまからお預かりした荷物を大切に届けることが第一ですから」(敬称略)

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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