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中曽根大勲位のご逝去を悼む

  去る11月29日、大正、昭和、平成という激動の時代を駆け抜け、令和新時代の幕開けに係る全ての儀式が滞りなく執り行われたのを見届けるように、中曽根康弘元総理が101歳の天寿を全うされた。生前に賜ったご指導に深く感謝しつつ、心より哀悼の誠を捧げたい。

 政治家中曽根康弘は、私にとって文字通りロール・モデルであった。米ソ冷戦の末期の1980年代に学生時代を過ごした私は国際政治に強い関心を抱き、憲法や安全保障の書物や論文を読み漁った。そんな私が憧れたのが、日本のトップリーダーとして国際舞台で類まれなる指導力を発揮していた中曽根総理(当時)であった。時を経て私が当選2期目の春、思いがけず晩年の中曽根翁から直接ご指導いただく機会に恵まれたことは、私にとり生涯の宝物となった。

 その思い出は尽きないが、宰相中曽根康弘の外交手腕が見事に発揮された最たる事例について、ここに記しておきたい。それは、1980年代の日米同盟「再定義」についてである。当時米国では、経済成長著しい日本が自国の安全保障で米国に「ただ乗り」しているとの批判が高まっていた。日本も応分の負担をしろ(当時、責任分担論といわれた)、すなわち、自国の防衛や米軍の駐留にもっと「カネを出せ」という厳しい要求が突き付けられたのである。

これに対し、中曽根総理は、日米同盟をカネの話で済ませるわけにはいかないと返し、日米「共通の防衛体制」について、日本が憲法の制約下でどこまで任務や役割を担うべきかという質的な議論を展開し、日本側から同盟強化の方策を提案したのである。それが、「1000海里シーレーン防衛」構想である。我が国周辺(グアム以西、フィリピン以北)の海防に日本が責任を持つという、受動的な姿勢に終始した戦後外交の閉塞感を打破する画期的な提案だった。

もちろん、非武装中立政策を掲げる社会党をはじめとする野党やマスコミからは轟々の非難を浴びた。しかし、この中曽根構想を基盤にした日米同盟協力によって太平洋正面におけるソ連封じ込めが成功し、やがて冷戦終結へと導く契機となったのである。

 私は、この中曽根時代の日米同盟の「質的」転換を、今日の日米関係にも応用できると考えている。すなわち、トランプ政権が突き付けてくるであろう駐留経費負担増の要求を、単にカネの問題(「量的」議論)に矮小化してはならない。中曽根総理に倣って、インド太平洋地域の平和と安定を確立するために日本がどこまでコミットするか、という日米の新たな役割分担を模索する質的な議論に転換すべきだ。

中国の海洋進出を牽制し、朝鮮半島の脅威を除去し、ロシアの南下を阻止する上で日本が果たすべき役割は何か。米国の前方展開兵力をどのように支え、豪州はじめ域内各国とどのような連携を図るべきか、我が国から確固たる戦略を発信する時が来たのではないか。中曽根大勲位ご逝去の報に接し、そんな考えが頭の中を駆けめぐった。合掌

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