- 2019年12月02日 13:38
【読書感想】絶滅危惧職、講談師を生きる
2/2「評価の基準が太鼓とか気働きじゃなくて高座だけになっているのに気づかず、凋落していった人、何人も見てます。スーパー前座はスーパー二ツ目になれないっていうジンクスがあるんです。そこのシビアさというか、冷静さは当時も僕にはありましたね。前座時代から、こんなの絶対引っ繰り返るから、と思ってました。それも青臭い考えなんですけど。今の僕は、前座の時代っていうのは100%必要だと思ってます。僕みたいに鼻っ柱強く入ってくる奴が一回ぺちゃんこにされて、四年間過ごすというのが非常に重要ですよね。そうされなかったら何も僕は変わらなかった。前座というのは、とにかく毎日詫びているわけです。それこそ、今まで頭を下げたことなかった奴が毎日畳に額を擦りつけて、前日に怒られたときは翌日にも謝んなきゃいけないから、何怒られたんだっけ? って星取表を塗りつぶすみたいにして頭を下げにいかないといけない。前日の分も貯まってるわけです。詫び貯金みたいなのが(笑)。僕がそれでも許されていたのは、ひとえにうちの師匠のおかげです。松鯉先生の弟子ならしょうがない。大目に見ようかって、師匠の徳の貯金を、僕が食いつぶしたようなもの」
松鯉師匠も、低迷している講談界を盛り上げる弟子を持つことになったのですから、結果的には素晴らしい組み合わせだった、とも言えるのではないでしょうか。
運や縁もあるのでしょうけど、松之丞さんの場合は、「自分に合った師匠を選ぶことができた」のが、ものすごく大きかったのだと思います。
「でも、ああいう子、生意気だとかいわれる子のほうが伸びるんだなと後で思ったね。世間の評判がどんどんよくなってきた。それは二ツ目になってのびのびとやれるようになったからかもしれないですな。私に隠れて、じゃなくて」(松鯉)
松鯉が松之丞の行く末を危惧していたのは、単に前座としての振る舞いが逸脱していたからではない。試行錯誤をするのはいいが、講談という芸能の本質を見誤る危険があると感じていたのだ。「おまえは寄席育ちだからな」の真意を松鯉はこう語る。「芸協の高座は、話を聴くよりも笑いに来てる人が多いんですよ。だから私は『落語の真似は絶対しちゃ駄目だよ』と繰り返し言ってきました。講釈師がいくら落語の真似をしたって、笑いでは絶対敵うわけはない。落語はその専門家ですから。一方、講釈師はしっかりしたストーリーをちゃんと伝える修業をしている。真似をすると損なんですよ。講談の面白さというのは笑いの面白さじゃないんだから。講釈の中で出てくる笑いならいいやね。必然的な笑い、あるいはちょっとしたくすぐりぐらいならね、客商売だから。落語の真似はするなということは、私は耳にタコで弟子の全員に言ってますよ。でも、芸協に半分座ってますから、言っても身に付いちゃう場合がある。私は講釈だけで育ちましたからそういうのはないわけだけども。鯉栄や松之丞は講釈場と同時に落語の楽屋でも育ってますからね。だけど、しっかりした講釈ができれば、それはそれでいいと思ってる。寄席育ちの癖がついていたとしても、本筋がちゃんとしていたら問題はないんです」(松鯉)
松之丞さんに関しては、昔からの講談ファンの中には、「違和感」を持っている人もいる、という話も出てくるのです。
新しい人が出てくるときには、よくある話なのかもしれませんが、松鯉さんのような師匠でなければ、松之丞さんの芸は、もっと講談を逸脱したものになっていたような気がします。
僕は芸人の「自分語り」を読むのが大好きなのですが、「評論家気質の人が演者になってしまった」ようにもみえる神田松之丞さんの話は、すごく興味深いものでした。
講談も、ぜひナマで聴いてみたいとは思うのですが、「いま、いちばんチケットが取れない講談師」なんですよね、松之丞さん。

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