- 2019年12月02日 09:15
鳥貴族とQBハウスで分かれた「値上げの明暗」
2/2「10分でカットできる」チェーンは他になかった
鳥貴族が6%値上げで客離れして、QBハウスが11%値上げで客離れがない理由は何か?
QBハウスに行く顧客は、低価格だけでなく「10分でカットできる」という点にも価値を感じている。そして業界の散髪料金が3000円のなか、大手理髪チェーンではQBハウス以外にこの価格帯の理髪店はない。だから11%も値上げしても、意外と客離れが少なかったのである。
鳥貴族は、低価格焼き鳥店が数多くあり、競争が激しい状況下での値上げだった。加えて自社店舗同士の競合や、スタッフのスキルの低下も重なった。だから客が離れたのである。
これらの低価格戦略を取る企業から学べることは、低価格戦略を継続する難しさだ。低価格戦略を打ち出しても、コスト増などの様々な要因で、いずれ価格をアップせざるを得なくなる可能性は高い。QBハウスは、他に大きな競合がいなかったために、値上げしても客離れは少なかった。しかし、長い期間で見ると、業界の競争は激しくなっていくだろう。
鳥貴族は当初、全品250円だった。1989年の消費税導入の時に280円に値上げした。この時は客離れが少なかったという。競合する低価格焼き鳥店がほとんどなかったからだ。しかし、2017年は競合が激しくなっていた。市場の競争が激しいタイミングで値上げをすると、顧客は一気に離れてしまうのだ。
「高く売る」より「安く売る」ほうが成功しづらい
高価格戦略では、様々な「顧客が買う理由」を編み出すことができる。
ある部品メーカーは、他社と同じ部品を作っているにもかかわらず、「即日納期」を売りにすることで、他社の数倍の価格でも短納期を求めるメーカーの注文が殺到している。
DG TAKANOという町工場が開発した節水ノズル「バブル90」は、蛇口に取り付けると最大95%を節水して洗浄ができる。ある居酒屋が店の蛇口に付けたところ、1カ月17万円だった水道料金が6万円台にまで下がった。店の水道料金を見た大家さんが「売上が激減しているのでは」と心配したほどだったという。価格は数万円だが、2018年の販売数は4万個。高くても短期間でコスト回収できるので、皿洗いで水を大量に使用する飲食店を中心に売れているのだ。さらにDG TAKANOは、独自の新規事業開発のノウハウを活かし、課題解決型のコンサルティングも提供するなど、事業を拡げている。
高価格戦略を選べば、価格に囚(とら)われずに、様々な打ち手が可能だ。しかし低価格戦略を選んだ途端に、あらゆる打ち手は「低価格」という前提条件で制約されてしまうのだ。
「高く売る」という高価格戦略は、一見すると難しそうに見える。
しかし実際には、低価格戦略で成功し続けるほうが、はるかに難しいのである。
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永井 孝尚(ながい・たかひさ)
マーケティング戦略コンサルタント
1984年に慶應義塾大学工学部(現・理工学部)を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャー、人材育成責任者として同社ソフトウェア事業の成長を支える。2013年に日本IBMを退社後、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体に新規事業開発支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供しマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。さらに仕事で役立つ経営戦略を学ぶための「永井塾」を毎月主宰。主な著書にシリーズ60万部『100円のコーラを1000円で売る方法』、7万部『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(以上、KADOKAWA)、10万部『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)。最新著書は『売ってはいけない』(PHP新書)。永井孝尚オフィシャルサイト
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(マーケティング戦略コンサルタント 永井 孝尚)
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