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超高額薬のせいで風邪薬がもらえなくなるのは妥当か

防衛政策や経済政策など大きな課題について議論するのは、政治活動の要ではあるが、庶民の生活に直結する小さな政治的課題についても、きちんと議論しておかなければならない。

庶民の生活に直結する小さな政治的課題についても、きちんと議論しておかなければならない。こういう議論は、民主主義政治にとってとても重要なことだと思う。

で、今回唐突ともいえるタイミングで出てきた政治的課題がこれ。

抗がん剤など超高額薬が乱発される時代に、軽度の症状に使う薬(風邪薬、花粉症治療薬、漢方など)を保険収載にのせておく余裕はないので、患者は自費で払って購入するように、との政策。

参考:産経記事

今年の5月には1回の投薬で3349万円かかる白血病治療薬(薬品名キムリア)の保険収載が話題になった。

公的医療保険の窓口負担は現役世代で3割だが、1か月あたりの自己負担の上限を定めた高額療養費制度が適用されるため、例えば年収500万円の人がキムリアを使った場合、40万ほどの負担で済む。

自己負担外の大部分の費用は社会保険料と税金で賄う。

こういった超高額医薬品は近頃、続々と上市されてきており、その勢いはとどまるところを知らない。
今後もリンパ腫治療薬イエスカルタ(1回投与4000万円以上)、遺伝性網膜疾患治療薬ラクスターナ(両眼1回投与で1億円弱)といった超高額の医薬品が上市を控えている。

経時的にみてみると、2017年度に1か月の医療費が1000万円以上かかった件数は532件で、5年前に比べて2倍に増えており、高額療養費の支給総額は2016年度に2兆5579億円に達している。

参考:日経記事

今回俎上に上がった軽度治療薬を市販薬で代替したとしても、年2126億円にしかならない事を勘案すると、財政面における真の問題点は別のところにあると言わざるを得ない。

超高額薬の薬価については発売後に大幅に引き下げられるケースが多く、メーカーにとっても膨大な開発費を考慮すると、それほど余裕があるとは言えないだろう。

蛇足ながら、超高額薬への経営資源の集中により、軽度治療薬の製造については軽視する傾向を強めているメーカーが特に外資には多いように見受けられる。

さて、この問題の論点はどの切り口から見るか(保険負担者、軽度疾患治療者、メーカー、重度疾患治療者、医療提供者等)によって評価は変わってくるが、とりあえず国は「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助」の理念のもと、軽度治療薬のカット、超高額薬(重度疾患薬)の認定の方に舵をきろうとしている。

これは妥当な判断なのか?

情報を整理しておく。

(保険負担者視点)
1.超高額薬の上市が医療費負担を圧迫しており、この傾向は今後も続いていく。
2.軽度治療薬を市販薬と代替することで医療費負担をある程度軽減できる。 

(軽度疾患治療者視点)
1.保険が利かなくなるので、負担額が上がる。自分の購買力でカバーできるか不安。
2.治療に関する診断と治療指針が聞けなくなる不安。

(メーカー視点)
1.経営資源を難治疾患に集中させる機会。
2.薬価のつかなさそうな(安い、ロット数が出ない)分野には投資しない方針。

(重度疾患治療者)
1.生きているうちに少しでも良い薬が上市されれば大歓迎。

(医療提供者)
1.今まで治療が難しかった疾患に明るい道筋をつける超高額薬は使ってみたい。
2.軽度疾患者といえども、診察・治療機会が失われると重症化のリスクが顕在化する可能性あり。

毎日、店頭で患者さんと話をする立場から見ると、軽度疾患の患者といえども、保険適応のおかげでどうにかやっていけてる人もいる。
この人たちに自費で購入しなさい、というのはかなり酷な話だなあ、という実感はある。

(例えば、湿布を毎日広範囲に貼っている人がいるが、本当に貼っていないと痛くて寝れないという。こんな人たちが大量の湿布薬を自費で賄えるとは思えない。漢方も毎日飲んでないとダメだという人がいるが、この手の人も自費購入は経済的に無理だ。)

「小さなリスクは自助」の難点は、治療者の経済的問題と小さなリスクの重症化の問題をはらむ。

「大きなリスクは共助」の難点は、年々高度化する費用と治療受益者の特権化(受益者と負担者のバランスが悪い)問題をはらむ。

国の方針はデルフォイの神託のように、すべての人々が納得しなければいけない正しさを保証するものではない。

議論によって変えていくことも民主主義政治では必要であろう。

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