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えらてんさんとの対談本の「まえがき」

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もうすぐ晶文社からえらてんさんとの対談本(司会は中田考先生という濃い布陣)が出ます。その「まえがき」を書きました。予告編としてお読みください。

 みなさん、こんにちは、内田樹です。

 今回は矢内東紀(akaえらてん)さんとの対談本です。司会は中田考先生にお願いいたしました。これがどういう趣旨の本であるかについて、最初にご説明したいと思います。ちょっと遠回りしますけれど、ご容赦ください。

 だいぶ前のことですが、大瀧詠一さんがラジオの『新春放談』で山下達郎さんを相手に、「ほんとうに新しいものはいつも『思いがけないところ』から出て来る」と語ったことがありました。ポップミュージックについての話でしたけれども、僕はあらゆる領域にこの言明は当てはまると思いました。「ほんとうに新しいもの」はつねに「そんなところから新しいものが出て来るとは誰も予想していなかったところ」から登場してくる。

 音楽だけではなく、美術でも、文学でも、映画でも、学術でも、事情は同じです。いつだって「え、こんなところから!」と驚くようなところから新しいものは生まれて来る。

 もう一つ、これも僕の念頭を去らない言葉ですが、村上春樹さんがインタビューに答えて言った言葉です。「時代によって知性の総量は変わらない」。これもその通りだと思いました。賢者が多い時代とか、愚者ばかりの時代というようなものはありません。どんな時代だって、賢愚の比率は変わらない。変わるのは賢愚の分布だけです。

 ある時期、才能のある人たちが「ダマ」になって集まっていた領域に、なにかを境にして、才能のある人がぱたりと来なくなるということはよくあります。これまでにそういう場面を何度も目撃しました。テレビや広告業界や週刊誌は、ある時期きらめくような才能が集まっていましたが、ある時からそうではなくなった。でも、それをもって「才能のある人間が日本からいなくなった」と推論するのは間違っています。才能のある人はどこかよその、もっとスリリングな領域に立去ってしまったのです。

 そういう現象がいま日本社会のさまざまな分野で同時的に観察されています。

 少し前まで、才能のある人、創造的な人、破天荒な人がひしめいていた業界が、定型的な文句を繰り返し、前例主義にしがみつき、イノベーティヴな企画を怖がる人たちばかりで埋め尽くされるようになった。そういうケースを皆さんもいくつもご存じだと思います。

 でも、別にそれをそんなに悲観することはないんじゃないかと僕は思っています。

 才能のある人も、知的に卓越した人も、想像力に溢れる人も、人口当たりの頭数にはそれほど経年変化はありません。だから、もし、「これまでそういう人がいた場所」にそういう人が見当たらないのなら、それは「それ以外のどこか」にいるということです。

「それ以外のどこか」がどこなのか?

 それは僕にもまだよくわかりません。それでも、なんとなく「あの辺かな?」という予測はありますけれど。

 例えば、「美味しい食べものを作る仕事」、「長く師について伝統的な技芸を習得しないとできない仕事」、「身体と心の傷を癒す仕事」、「書物を商品ではなく、『人間にとってなくてはならぬもの』として扱う仕事」、「品位、親切、礼儀正しさといったことが死活的に重要な仕事」といった領域には、才能あふれる若い人たち(あまり若くない人たちも)が集まっています。

 いま僕がおこなったこの列挙の仕方のカテゴリー・ミステイク的無秩序ぶりからも、「あの辺」とは「どの辺」なのか、一意的に条件を定めるのがむずかしいということはお分かり頂けると思います。

 それでも、とにかく才能ある若い人たちが、「ある種の領域」に惹きつけられて、かたまりを作りつつある・・・という直感を僕と共有してくれる読者は決して少なくないと思います。

 そのいくつかの「かたまり」が出会って化学変化を起こしたときに、「ほんとうに新しいこと」が始まる。僕はそう思っています。そして、それを見たとき、僕たちは「なんだ、そうだったのか。ああ、思いつかなかったけれど、そうか、その手があったのか」と笑いながら膝を打つ。そういうもんなんです。

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