記事

「脱原発ロードマップ」と新エネルギーの展望 - 菅直人

1/2

画像を見る



3.11以降日本では、原発推進・反対を超えて、原子力発電の巨大なリスクの認識と、中長期的なエネルギー供給の見通しを共有していくことが大きな課題となっている。どのようなロードマップをもとにエネルギー政策を進めていくのか、政治が具体的な見取り図を示すことが必要だ。

現在、国は新たなエネルギー政策の検討を進めており、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会での議論を経て、「選択肢に関する中間的整理(案)」が国家戦略室のエネルギー・環境会議に提出されている。原発の依存度低減に焦点が絞られ、2030年までに原発比率を0%、15%、20~25%とする3つの選択肢が示されている。今後「国民的議論」を経て、政府の正式な方針として決定される予定だ。そうした国の選択肢に対するオルタナティブとして、衆議院議員の菅直人前首相が顧問を務める「脱原発ロードマップを考える会」では、「2025年までに脱原発を実現し省電力20%を達成する」との案を表明している。6月23日、東京都三鷹市の国際基督教大学で、同学の在校生・卒業生が中心となる「武蔵野エネルギーシフト」が企画し、同学社会科学研究所が主催となって「ローカルから考えるポスト3.11の新エネルギーの展望」と題したイベントが行われた。企画者からの問題提起を受けた菅氏は、「脱原発ロードマップ」の内容を提示し、党派を超えた「国民の選択」を問いかけた。

震災・原発事故を経験した元首相は、事故をどう振り返り、これからのエネルギー政策をどのように捉えているのか。講演での発言を記録しここに公開する。(構成/編集部・宮崎直子)

原発に依存しないことが最も安全な道

菅氏 これから3つのことを申し上げようと思います。1つは今回の福島原発について何があったかということに触れたいと思います。もう1つは今日の主要テーマである「脱原発ロードマップ」について。そして、最後にこれからの再生可能エネルギーの可能性について紹介できることを含めて申し上げたいと思っております。

昨年の3月11日、皆さんもあのとき自分がどこにいたかということを、たぶん一生記憶に残されるのではないでしょうか。私も決算委員会でちょうど野党から激しく責め立てられておりました。シャンデリアが揺れて、私の上ではなかったのですが、落ちたらこれは大変だなという状況の中で、休憩になり官邸にすぐに戻ってという記憶を鮮明にいたしております。その後1時間ほど経って津波が来襲し、全電源喪失、さらには供給機能停止ということが続いたわけであります。

端的にいいまして、今回の原発事故がここまで大きな事故になった原因は、3.11以前の備え、あるいは以前の考え方がまったく不十分であったということに尽きると思っております。2、3例を挙げてみます。

たとえば福島原発のある場所は、もともとの地形は海面から35メートルぐらいの高さの崖、高台でした。しかしその35メートルの高さにあった崖、高台を海面から10メートルの高さまで土を切り取り、その上に現在6基の原発が設置されています。海から水をくみ上げるのに35メートルでは高すぎるという理由で低くしたわけですが、そのことは大変先見の明があったと、東電の会社の歴史を書いた本には自ら述べておられます。

しかし、私が知るかぎりでも、今から数十年前にはチリの津波がありましたし、その後の歴史を見ても、何十年、何百年かおきには非常に高い津波が起きています。東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)では、作るときに当時の副社長の方が東北出身で、「これでは低すぎるからもっと高くしないと」ということで、一段と高いところに設置しました。おかげで、同じぐらいの高さの津波が襲ったわけでありますが、女川原発はそうした事故に至らないですんでいます。つまりは、まったく津波を想定しなかったという現実がありました。

また、比較的最近のことでいえば、アメリカは9.11のテロのあとに、原発の全電源喪失がテロによって起きる可能性があるといいました。その場合にはどの班が対応するのか、かなりしっかりしたマニュアルを作って、日本の原子力安全・保安院にも伝え、あるいは保安院からもアメリカに行って話を聞いたといわれています。

しかし日本でそのことについてどうしたか。「いや、日本ではテロなんか起きないからそんなことを考える必要はない」となったわけです。つまり、全電源喪失ということは、津波も来ないしテロもないから「考えない」というのではなくて、「考えることはやめろ」ということが、3.11前の原子力委員会などの指針の内容になっておりました。

そういった意味で、今回の事故がここまで大きな事故になった原因というのは、残念ながらといいましょうか、私は日本の科学技術というのはかなり高い水準にあって、当然安全性については十分に考えられているというふうに私自身も思っていたわけでありますが、結果としてそうではなかったことが、こういった大きな事故につながったわけです。

画像を見る



                    菅直人氏

菅氏 3月11日に原発事故が起こり、ベントの問題、あるいは水素爆発、そして実質上あとになってみると、1号炉は初日の夜にはすでにメルトダウンを起こしておりました。一日一日と状況が悪化する中で、どこまでこの原発事故が拡大していくのか、私自身この事故が発生してから1週間は完全に官邸に泊まりこんでおりましたので、一人のときはずっと考えておりました。

福島第一原発には、1号機から6号機まで6基の原発があります。そして、最初の時点では私も知らなかったのですが、原子炉のすぐそばには使用済み燃料のプールがそれぞれ1号から6号の建屋の中にあります。さらに、もう1つ共通プールというものがありまして、あわせて7つのプールがあります。台地から20キロ手前にある福島第二原発の中には1号から4号の原発と4基のプールがあります。

これらが1号、2号、3号と、順番は別として水素爆発などを起こしました。そして4号も水素爆発を起こしました。これはいろんなことでびっくりしたのですが、つまり、なぜ起きたのかわからなかったのです。4号というのは当時定期点検中で、原子炉の中の燃料はすべて取り出して、使用済み燃料プールの中に移してありました。

4号の原子炉は単に動いていないだけではなくて、中は空っぽですから、そこで水素が発生するような要素はまったくなかったのです。ですから4号だけはあまり気にしないでもいいといわれていました。使用済み燃料プールに入れていた使用中の燃料が、水が抜けて、ジルコニウムといわれる鞘を溶かして、そこで水素が発生したのではないかということを心配しました。

といいますのは、プールは原子炉の外にあります。簡単にいえばプールの上は空なんですね。4号のプールが、水が抜けてメルトダウンを起こして、そこから放射性物質が空あるいは海にダイレクトに出ていくわけです。原子炉の中であっても、いろいろと流出してしまったわけですけれども、原子炉の外でそれが起きるということは、まさにストレートに大量の放射性物質が出るわけであります。

東電の撤退問題について今でも議論されておりますが、そのこと自体のことをいうよりも、あの6つの原発、あるいは10基の原発をもう手が出せなくて放置したときにどうなるかということが問題なのです。

大きな化学プラントの火災は時折あります。いくら大きな化学プラントの火災であっても、何日間か燃えれば、燃えるものは燃え尽きます。大きなタンクで石油が燃えようが天然ガスが燃えようが、どこかで燃え尽きます。一旦避難をして、燃え尽きたあとに戻ってくれば、その間の被害は大きいかもしれませんが、自然に鎮火したあとは、それ以上の事故の拡大というものは一応考えないですむわけです。

しかし原発の場合は鎮火という言葉はありません。つまり6基の原子炉、あるいは20キロ先の第二原発までいえば、10基の原子炉から、あるいは11のプールから使用済み燃料や使用中燃料の放射性物質が大気中にどんどん出たとすれば、それはチェルノブイリどころの話ではありません。

チェルノブイリの事故は非常に激しい事故でありましたけれども、炉としては1つです。大きさも小さめの炉でした。そういった意味で、放射性物質が全部外に出たときには、まさにこの東京を含む日本の広い範囲で人が住めなくなる。さらにいえば、世界的にも大きな被害をもたらすことになる。そのリスクを私自身も経験しましたし、ある意味日本人全員が、あるいは世界の人が経験したのだと思います。

私は3.11までは、原子力発電所はしっかりと安全性を確認したうえで、CO2を抑えるうえでも活用していこうと思っておりました。そういう立場にありましたけれども、日本の3分の1が、あるいは首都圏に、人々が住めなくなるようなリスクをカバーできる原子力の安全性とは一体何かを私なりに考えました。結論は、そうした原子炉、原発の安全というのは、原発に依存しないことこそが最も安全な道だということを確信しました。

2025年までに脱原発、省電力20%を実現

菅氏 実は今、国会の民主党の中に「脱原発ロードマップを考える会」というグループ、これは正式機関ではなくて、有志のグループとして立ち上げております。相当多くの人が参加をしてくれております。そこで来週にも最終的な提言をまとめるということで、現在議論をしている最中のかなり煮詰まった内容の提案の段階でありますが、今日はこれを説明いたします。

(脱原発ロードマップ第1次提言の図解)

遅くとも2025年度までの出来るだけ早い時期に脱原発



画像を見る




【2025年度までの脱原発に向けた廃炉の基準】


[1] 福島第一(5~6)、第二(1~4)、女川(1~3)、浜岡(3~5)は、直ちに廃炉。

[2] その他は「40年廃炉」基準で廃炉。原発の新増設はなし

[3] 上記[2]以外の廃炉基準は新組織で適切に判断

あわせて読みたい

「エネルギー問題」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。