
超党派の国会議員でつくる「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」が、今国会への提出を目指していた「メディア芸術ナショナルセンター」に関する法案の成立が難しい状況に立たされている。
メディア芸術ナショナルセンターが実現の意義とは何か、そして設立がもたらすものとは何か。漫画、アニメ、ゲームといったジャンルのファンから支持を集め、長年、同法案の成立に奔走している山田太郎参議院議員に話を聞いた。
アニメ、ゲーム、特撮などを保管する場所がない
—改めて、メディア芸術ナショナルセンターの目的と意義について教えてください。
「メディア芸術ナショナルセンターの整備及び運営に関する法律案(略称:MANGAナショナルセンター法案)」は、文字通りメディア芸術ナショナルセンターを作るための法律です。この施設は、簡単に言えばマンガ、アニメ、ゲームなどを保管して、そうしたものを利活用できる拠点になります。また、人材育成の場としての機能も持つと考えています。
よく「アーカイビングをするなら図書館でやればいいのでは」「いろいろなマンガ図書館だってあるだろう」という指摘を受けますが、それはマンガだったらできる話で、動画であるアニメーションの保存は現在の法律ではできません。アニメーションなどのデジタルデータを複製し、国立国会図書館以外が保存することは著作権法の違反になります。つまりアニメーション、ゲーム、特撮といったものは形がないゆえに、もう一度見たいと思ってもできないという状況になっています。
—そうしたデジタルデータの管理が、メディア芸術ナショナルセンターでは可能になるんですね。
著作権法上、国立国会図書館だけが除外されているので、その機能を使った施設を作らないとデジタルデータの保管はできません。今回の法律でメディア芸術ナショナルセンターが設立されれば、それが可能になります。アニメに関して言えば、原画、音楽、声優…と様々な著作権がついていますが、国立国会図書館がその施設内範疇で使う分には自由フリーとされています。そのため、利活用したり、研究したりといったことが可能になり、それが人材の育成にもつながります。こうした意味でメディア芸術ナショナルセンターというのが必要なんです。
当面はマンガ、アニメ、ゲームなどに限られたナショナルセンターですが、いずれは今回の首里城のように歴史的遺産が焼失したような場合に、デジタル化された三次元データや、そこで管理していた所蔵品などを保管する施設にできればいいと考えています。いま世界的に見て、デジタル情報を文化遺産として保管する機関がないのは日本くらいなんです。そういう状況がある中で、特にアニメーションやゲーム、特撮などの保管の重要性を議論しているんです。
アニメの原画やセル画が散逸している状況
—ここ最近でも、アニメやマンガ資料が失われるという話がいくつも聞かれました。
先ほど申し上げたような議論を長くしてきましたが、つい先日の台風19号でも川崎の市民ミュージアムが水没するという出来事がありました。収蔵庫が地下にあったため、1階まで浸水して60万点を超える貯蔵品が全てダメになってしまった。マンガ、アニメ、ゲームについては、単価が安いため、ほぼ全てが破棄することになるといいます。1枚、何十万円を超えるような高額なものから修繕するため、一冊の金額が小さいマンガなどは修復しないんです。

7月に起きた京都アニメーションの事件では、デジタルデータが1階のサーバーに置かれていて、たまたま部屋の壁が頑強だったために焼失を免れました。もしこのサーバーがなくなっていれば、京アニは多くの優秀な人材に加えて、デジタル資産も失うことになり復活は不可能だったと思います。こういうことが現実的に起こっているんです。
—メディア芸術ナショナルセンターがあれば、そうしたものも保存しておける、と。
また、制作会社の人たちがよく話していることですが、実物としてのセル画や原画の管理はもうできないそうなんです。管理にコストがかかり、保存しておく場所もないので捨てるしかない、という話になっています。このナショナルセンターができれば、そうしたものを引き受けることができるので、それを頼りに2、3年待ってもらっている状況があります。もしも廃案になれば、その瞬間にそうしたものも全て捨てられてしまいます。
現在は、手塚先生の時代からの原画から様々なものが散逸していて、捨てられたり、外国人に買われたりしています。昔の歌麻呂の浮世絵の多くは、現在海外にあって、最近はキュレーターが買い戻すような動きがありますが、このままだと日本のアニメも同じような事態になりかねません。それに対して、いち早く準備しておく必要があるだろうと考えています。
—なるほど。アニメの原画などを保存する施設として機能することで、最近よく言われている海外への散逸といった問題の対策にもなるんですね。
アニメの原画を保存することに関して、現在、AIを使ってアニメーション動画の途中のセルを埋める技術ができつつあるとも言われています。現在は全て手で書く必要がありますが、人工知能を使って2枚の原画を描けば間はモーションで埋めることができるようになる。
そのためには、これまでに作られた大量のアニメーションから、動きをコンピューターに学ばせる必要があります。保存したデータはその学習材料としても使うことができるんです。活用できるデータが大量にあって、こうしたソフトが完成すれば、いま生産的ではない二次動画作成に関わる人の数は減って、もっとオリジナル性の高い原画やストーリーの方にアニメーションの仕事を移すことができようになります。