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介護を「福祉」の枠組だけで考える時代は終わりました。これからの介護は社会全体で考えるプラットフォームです -「賢人論。」第105回(前編)武内和久氏

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かつて、バリバリの厚生労働省キャリア官僚だった武内和久氏は、退官3年後の2018年、『介護再編 介護職激減の危機をどう乗り越えるか』(ディスカヴァー携書)を刊行し、元官僚とは思えない革新的な提言で大きな話題を呼んだ。かつて介護保険制度を設計する側だった武内氏は、今の介護業界をどのように見ているのだろうか。現在、地元・福岡でコメンテーターとしても活躍してきた武内氏が上京したタイミングで、緊急インタビューを試みた。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

介護=介助+看護は、時代遅れ。「脱・介護」を。これからは教育・医療・地域など、さまざまな文脈の中で語られる時代

みんなの介護 厚生労働省時代の武内さんの最後のキャリアは、福祉人材確保対策室長として、斬新なアプローチで介護現場の人材確保に尽力されていました。厚労省を退職されて4年。現在の介護の現場をどのように見ていらっしゃいますか?

武内 介護業界は、このまま時代の変化に取り残されていくのではないかと、強い危機感を抱いています。

私は官僚の世界に約20年、民間企業に5年勤務し、東京でも、地元福岡でも活動してきました。いわば、政府・民間/東京・地方/国内外の八次元の目で実践してきましたが、あらゆる産業が劇的に変わりつつある中で、介護業界はいまだに旧態依然としたシステムで運営されている。また、中央と地方では現場の状況が違うのに、全国一律のルールで規制している点にも違和感を覚えます。

「介護」の持つ意味合いは、飛躍的に大きくなってきていますね。「介護」をめぐる状況は、より面白くなってきている。そんなポジティブな印象も持っています。

みんなの介護 介護そのものよりも、介護をめぐる状況が変わってきているということでしょうか。

武内 そうですね、可能性は無限です。「介護」という言葉は、「介助」と「看護」の合成から生まれたと思いますが、その概念は時代遅れ、実態とそぐわなくなってきています。

これまでの「介護」は、「福祉」という狭い枠組の延長線上の発想から抜け切れていない。しかし、現在の「介護」は、生活・仕事・教育・医療・地域・住宅・交通・テクノロジーなど、さまざまな文脈の中で再定義(リフレーム)するべき時代になりました。これからの介護は、さまざまな社会制度を見直すうえでの、重要なプラットフォームとしての役割を担っていきます。

介護の「介」は、介助ではなく、媒介の「介」になるべきです。サービス、人材、資金、様々な社会資源の結節点という意味になります。介護する人される人、どんな人も望まない「孤独」から解放される時代に「介護」は不可欠です。

一方、介護業界、特に社会福祉法人の人たちは、歴史を積み重ねてきた「介護」の在り方、措置時代からの介護のやり方、マインドを今も大事にされているようです。それも大事ですが、新たな時代の介護へと脱皮することも大事です。「伝統は革新の連続である」という言葉のとおり、概念を変えていきながら、介護業界も時代の変化に合わせて変わる必要があります。いわば「脱・介護」なのです。

介護は業界内で自己完結するのではなく、多くの分野との「越境」を目指すべき

みんなの介護 介護業界が変わっていくためには、何が必要なのでしょうか。

武内 私は厚労省時代、介護の制度を作ってきた側にいたから痛感しますが、国が制度を変えれば介護業界の体質が変わる、ということはありません。業界自らが進化することを期待します。これからの介護業界がより良い方向へ変わっていくためには、次の3つのキーワードが重要になるでしょう。

1つめのキーワードは「越境」です。ここでいう「越境」とは、在宅と施設介護のサービスの垣根を越え、保育や障害サービスの垣根を越え、さらには他産業やオンライン・オフラインのヒト・モノ・カネが自由に行き来する状況を想像しています。

これまでの社会保障行政では、閉じた世界で物事を考えがちでした。閉じられた世界で、社会保険という巨大精密な構造の中で、  自己完結的にヒト・モノ・カネを回すという発想が強かったですね。

医療の世界では確かに、それが十分成り立っていました。医療従事者の人たちには業務独占が認められていて、医療行為は基本的に医療機関内で行われ、医療保険では混合診療が認められていませんでしたから。いわば医療は、空間的にも、経済的にも、人材的にも、自己完結が成り立つ世界なのです。

介護保険は、そんな医療保険をモチーフにして制度設計されています。しかし、介護の国家資格である介護福祉士に業務独占が認められていないように、開放系のシステムなのです。介護は様々な生活・教育・住宅・交通・テクノロジーなどの産業やサービス、文化や住民、価値観とも不連続につながっています。

つまり、介護業界だけで自己完結しようとしても、所詮は無理な話。にもかかわらず、介護業界の枠内で何とか持ちこたえよう、回そうという自己完結的な発想では、限界があり、本質と離れてしまう。

みんなの介護 だからこそ、他業界との越境が必要なんですね。

武内 そのとおりです。自己完結できないのであれば、むしろ積極的に、外部との交流をはかったほうがいい。たとえば、運送・宅配業者と業務提携を行い、トラックが空の状態で走るときに、在宅の高齢者をケアするための物資を届けてもらうとか。生保・損保業者とのコラボレーションで、長生きリスクに備える新たな金融商品を開発するとか。

あるいは、高齢者施設そのものを人的交流の場にしてしまってもいいですね。施設の一部を認証保育園、子ども食堂、公民館、小規模スポーツジム、市役所出張所などとして開放し、高齢者施設を地域のプラットフォームとして活用してもらうのです。

高齢者施設がいろいろな人、いろいろなお金、いろいろなサービスの行き交う場所になり、従業員同士も相互に交流する仕組みをつくれば、介護の現場もより楽しく、働きやすく、活性化するのではないでしょうか。今は、地域のイベントや祭り、カフェの形で交流しているケースも多いですが、第一歩に過ぎません。

大事なのは、新たなビジネスを生むことではなくて、人材もノウハウも資金も総動員して、介護という「システム」を持続発展させていくということです。そこにデジタルやグローバルという観点も、上手に組み込んでいくことは大事な課題です。これらによって、「地域のプラットフォーム」へと介護の現場が昇華していきます。

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